【澁澤栄・精密農業とは】自分で判断していますか? 「ばらつき」とのつき合い2019年5月28日
精密農業は、ほ場内あるいは、ほ場間の「ばらつき」を素直に認めるところから始まる。20年前、日本ではなかなか受け入れられなかった事象だが、ICTで農作業が変わる今、無視できなくなった。そこで、ばらつきや可変作業の考え方を改めて知っておきたい。

図1左の航空写真は、2002年に撮影した収穫期の水田。北陸農試(当時)の土壌学者である鳥山和伸氏から提供していただいたものだ。場所は新潟県上越地方で当時、政府の肝いりで造成した2ha規模の大規模水田である。
このケースは、数枚の水田をまとめて大規模にして大型機械を導入し、大幅なコスト削減を実現しようというものだったが、元の小さな水田の履歴が反映して登熟時期が異なり、一斉に収穫することができなかった。この登熟のばらつきは、作土層のばらつき補正の工事をしない限り、永遠に残ってしまうことだろう。
次に、図1右の写真は、2009年に十勝地方の畑作農家が撮影した小麦の生育状態だ。中央に見られる筋状の倒伏について農家は当初、「窒素過多によるものだろう」と推測していたが、その一方で肥料散布機械を用いて均一に作業したはずなのに「一体どうしたことか」と自問していた。

その後、収穫直後に東京農工大学所有のリアルタイム土壌センサ(SAS1000)で観測してみると、残留した硝酸態窒素の高いところが倒伏箇所と一致することがわかった(図2)。すると、農家は思い出したように「肥料散布機の走るラインを間違えて、二重に散布してしまったところがあった」と話した。さらに、「そこには二倍の肥料が散布されてしまったはず。倒伏すれば穂発芽などしてしまい、品質が極端に落ちて売り物にならない」と悔しがっていた。
これは、まさに作業ミスが収量と収入に直結する例で、日本にもこのような無視できないほ場のばらつきが存在した。このケースは、精密農業、スマート農業の出発点だったといえる。
◆ばらつき管理の考え方
図3に示すように、ほ場内、またはほ場間で作業前に「ばらつき」があると、高精度で均一な作業を施しても作業前のばらつきが残ってしまうと考えられる。このばらつきの微調整として、例えば、肥料が過剰にまかれた部分の肥料を不足した部分に再配置すると、収量増と環境負荷の削減が期待できる。一方、過剰部分を削除すると、施肥代の削減と環境負荷の削減が期待できる。
欧米の畑作では、実施例に基づくと、収量増ないしはコスト削減の効果がおよそ20%になると見積もられている。ならば、これを実現できる技術体系を開発すればよい。
必要なのは、ばらつきを正確に記録する技術とばらつきに応じて散布量を変えられる技術なのだ。
ちなみに、タンザニアの茶園プランテーションでは、パソコン1台の新規技術を導入するだけで、すべての人が実施できたと聞いている。
実際の作業としては、農作業労働者が一区画(40a)ごとの茶葉収穫量を計り、区画番号と合わせて報告してもらう。そして、収穫量に見合った量の肥料を調整して袋に入れて労働者に手渡し、「収穫した区画に均一に散布しなさい」と指示する。作業後は、パソコンに記録すれば肥料の可変散布作業は終了する。
農作業が機械化されていれば、可変作業のために機械作業の調整が必要になる。これを農業機械の自動化や知能化と呼んでいるのだ。
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