【リレー談話室・JAの現場から】都市型JAの信用事業収益低下対応2019年11月18日
◆有価証券運用に重点
JA東京中央は東京都23区の一部を管轄とする典型的な都市型JAである。貯貸率は約43%、貯証率は約10%であり貯金残高の50%以上を自主運用している(り平成30年度実績)。有価証券運用は貸出金利回り低下の影響により積極的に行っていた。農林中金からの奨励金水準低下のアナウンスを受け、役員会やALM委員会を通じて余裕金運用の方針を今まで以上に議論を深め、中期的な方針を定めたうえで系統預金を取り崩し、有価証券残高を101億円伸長(269億円から370億円)させるという信用事業資産の組み替えを行った。平成30年度下期から債券金利が低下したことから、結果として早めの対応が功を奏した。今期も引き続き有価証券残高の積み増しを行っている。
◆相談業務を重点に
貸し出し業務はメガバンクとの金利競争が非常に厳しい。勝敗にこだわりメガバンクが提示する金利以下で融資を実行すれば持続可能な組合運営が困難となる。世代交代の影響もあり、組合員が金利条件で他行を選ぶこともあり、職員は悔しさと、それ以上の対応ができない不甲斐なさを味わっている。
そのような経験から金利条件で勝負するのではなく、「日ごろのコミュニケーションを通じて組合員の課題を知り、解決策を提案することを通じてJA事業を利用いただくこと」を中心施策とした。その施策を「相談業務」と呼んでいる。相談業務開始後の貸出金残高は平成28年度(1582億円)29年度(1591億円)平成30年度(1620億円と伸長している。
◆相続で総合性生かす
平成26年度に行った組合員アンケート結果で一番多かったJAに対する期待は「相続対策」であった。相続対策といってもどのように資産を保有しているかがわからないことには、提案することができない。そこで相談業務のツールとして税理士と連携し、相続シミュレーションを実施することで組合員の相続税額等を把握する活動を進めている。
その中で「おおよそ想定通り」という方もいれば、「えっ、そんなに払うの?」という方もいた。あくまでも相続シミュレーションはきっかけであり、大切なことはどのような提案を行うかである。節税対策だけをするのではなく、組合員がどのような将来を描いているのかを把握し、今できること、長期的に実現することを組合員と密に相談しながら進めることが重要である。
相続シミュレーション結果から提案する内容は支店長と資産管理業務担当職員が中心となり、信用事業・共済事業・宅地等供給事業・営農部門から意見を出し合いまとめていく。これがJA総合事業の威力でありJA版金融仲介機能と言えるであろう。
◆農業関連融資が伸長
農業関連貸し出しについては、JAバンク東京信連の協力(利子補給)を受けながら推進している。農協改革が開始された平成26年度の農業関連融資件数は8件、残高は3200万円であったが、令和元年9月末では件数35件・残高1億3800万円となっている。取扱い件数・残高ともに4倍以上に伸長しており、商品の良さに加え、担当職員の「相談業務」の成果である。
◆貯証率基準見直しも
有価証券運用でネックとなるのが貯証率である。詳細は承知していないがリスク管理の観点から貯証率の基準があるのだと思う。しかしながら、バーゼル規制によりJAではリスクアセットや金利リスクを定期的に検証・分析していることに加え、系統預金を推奨していない現状を踏まえれば貯証率基準の見直しが必要ではないかと思う。
JA経営には、各事業の収益性と金利リスク(有価証券・貸出)と信用リスク(貸出)及びオペレーショナルリスク(内部統制)をバランスよく管理することが求められる。環境変化に対応する経営ができなければ組合員の負託に応えられる盤石な基盤は築けないのだろう。
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