今月からタイで製造が始まる冷凍稲荷寿司の脅威度【熊野孝文・米マーケット情報】2021年4月6日
日本からコメと油揚げをシンガポールに持ち込んで、現地で稲荷寿司を製造・販売するビジネスを始めた会社の社長が、稲荷寿司の売れ行きが良く喜んでいる。甘い独特の味が現地の人にもわかりやすかったのかウケに入っている。同じ稲荷寿司を今月からタイで製造して現地の大手総合スーパーで販売を開始した他、外資系スーパーから台湾向けなど大量発注を受け、輸出の計画を立てている会社もあり、こちらも鼻息が荒い。

タイの稲荷寿司
稲荷寿司を巡る二つの話は偶然にも同じ日4月1日に聞いた。話を聞いた日は偶然だが、この二つの話は密接に関わっている。その関わりについては後述するとして、両社がどういう経緯で稲荷寿司ビジネスを始めるに至ったかを紹介したい。
まずシンガポールで稲荷寿司の製造販売を始めたS社は、当初、主に中国や香港、シンガポール向けに日本米の輸出を手掛けていた。ところが現地ではスーパー向けの日本産精米ばかりか外食店向けの精米も安売り合戦ばかりで、まともに続けられるようなビジネスではなく、早々に見切りをつけ、加工度を上げた米飯食品の製造販売に切り替えた。シンガポールでおにぎり店を展開したいという会社と提携、おにぎり用に日本米を提供し始めた。同時にEUなど各国で開催される食品展示会にも出展、自社で炊飯事業を行っていることもあって、見本市ではその場で炊飯して酢飯にして人気がある寿司等を提供していた。
シンガポールでも同じようなことをしていたのだが、試しに稲荷寿司を作って提供したところ予想以上に反応が良く、これを地元の食品スーパーなどに卸すことを決め、現地で製造する設備を作った。現地での米飯食品との違いを明確にするために使用するコメは日本米で、油揚げも日本から調達、現地で製造、その日のうちに常温で提供するというスタイル。
一方、タイで稲荷寿司の製造・販売を始めたP社は、日本企業の資本や技術も取り入れた大手食品加工メーカーで、今月から製造をはじめタイ国内で270店舗を展開する大手総合スーパーに納入することになった。この稲荷寿司は冷凍して配送、自然解凍して提供されるものだが、自然解凍する過程でベチャつかないように出来る製造特許を有しており、これがこれまでの冷凍米飯食品とは決定的に違う。その違いがはっきり分かるのは海苔巻きにした時で、一般的な方法で巻き寿司にすると解凍した時に海苔がふやけてベチャついた状態になってしまうが、そうはならず何年冷凍保管しても自然解凍して海苔がパリパリの状態で作ったばかりの状態かと思えるほどの食感が得られる。
この製造特許を持っているのは日本の企業であるためタイで製造しても「メイドバイジャパン」という事になる。ただし、使用している原料米はタイで生産されているジャポニカ米で、油揚げは中国大連から輸入したもの。その分製造コストが安く、日本産を使った場合に比べ半分以下の原料コストになる。完成品を冷凍状態で輸出出来るため台湾やシンガポール、日本でも店舗展開している大手外資系会員制スーパーから稲荷寿司を月240トン送って欲しいという大量の発注を得ることが出来た。この食品メーカーが作るのは稲荷寿司だけではない。人気のある鮨も冷凍で作る。ネタはサーモン、エビ、イカの3種類で、シャリは白飯で冷凍するが、このシャリ玉のコストは20グラムでなんと2.1円。現地でジャポニカ米を調達して現地で製造すると考えられないような低コストで製造できる。
冷凍米飯メーカーの方は、自然解凍するには時間が掛かり、湯せんかレンジで加熱しなければならず、とても美味しい鮨として提供出来ない、もしくは冷凍白飯をレンジで加熱してもダマになってしまい美味しいご飯にはならないと思われていると思う。冒頭に記したA社が冷凍稲荷寿司を採用しなかった理由もそこにある。採用しなかったのはこの企業だけでなく、日本国内では採用するところはどこもなかった。
この画期的ともいうべき冷凍白飯の自然解凍技術で製造特許を取得した人物は、以前は農協の職員で、地元で生産されるコメの付加価値を上げるべく冷凍米飯の製造を研究している時に、自然解凍で美味しく食べられる技術を偶然発見した。それがまわりまわってタイで日の目を見ることになった。
今、特許を取得した人物の胸中はどんなものだろうか。この技術をビジネスとして花開かせたいと奔走した人物は「日本であらゆるところに掛け合ったが7年かけてもダメだった。日本で新しいビジネスをするのには疲れた」と嘆息した。
この冷凍稲荷寿司は来年3月に開催されるフ―デックスジャパンの会場で、タイ国のブースで展示される予定である。
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