本当にコメ先物市場は無くなって良いのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2021年8月3日
コメ先物市場の本上場認可か否かの判断が今週中に農水省から下される。すでに農水省は上場基準を満たしていないと判断を示しており、一応、8月5日に大阪堂島商品取引所から意見聴取を行うことにしているが、過去に上場商品認可非認可の意見聴取で上場が認められたケースはないだけに、今回も堂島取がいかに取引所の経営基盤を充実させるために株式会社化して資本を増強させたことや新潟コシ先物市場の出来高が増えていることを強調しても、農水省が一端下した判断を覆すことはあり得ず、事実上コメは上場廃止になる。
それにしても本上場確実と目されていた案件がなぜ急転直下、上場非認可になってしまったのか? そこには大きな政治力が働いたとされている。その背景には農業団体の上部組織がコメ先物市場に否定的なスタンスを変えなかったことが大きな要因となっている。コメの先物取引市場を無くすことが本当にコメの生産者のためになるのか?
先行きのコメの価格が分かるという事がなぜ生産者にデメリットをもたらすのか? 収穫前に先物市場にコメの生産者が自社で生産する計画のコメを売りつなぐことで事前に所得を確保できることが、なぜ生産者にデメリットをもたらすのか? 豊作でコメの価格が下がる前に、事前に先物市場で売りヘッジして値下がりに伴う差損を回避することが、なぜ生産者にとってデメリットになるのか? コメ卸が先行きのコメの手当てを先物市場で買いヘッジして計画的な仕入を行うことが、なぜコメ卸にデメリットをもたらすのか? 農協や集荷業者が保管料や集荷資金の金利低減のために先物市場で買いヘッジすることが、なぜ農協や集荷業者にデメリットをもたらすのか? 外食や中食などコメの実需者が仕入れコストの安定化を図るために先物市場で買いヘッジして計画的な仕入れ体制を築くことが、なぜ実需者にデメリットをもたらすのか? 日本のコメの価格を先行きまで決めて世界的なジャポニカ種の価格指標にすることが、なぜ日本のコメの輸出にデメリットをもたらすことになるのか?
これらのことについてコメの本上場を認めなかった農水省は明快に答えるべきである。単に政治力で本上場を認めないというのであれば実際にコメ先物市場を活用している生産者や農協、集荷業者、流通業者等当業者が到底納得しないであろう。
さらに重要なことは、農水省のこの判断は「コメは市場で価格を決めてはならない」というメッセージを発信したに等しく、産業としてのインフラを無くすだけではなく、コメそのものを産業化させないという判定を下したに等しい。コメの価格を市場ではなく、政治力で決めるという事は、生産されたコメが売れようが売れまいが関係ないという事を意味しており、産業として成り立つ基盤を失う。その結果、コメは市場からスポイルされ自然消滅して行く運命を辿ることになる。これが農水省の目指すコメ政策なのか?
コメ本上場阻止に動いた政治家は「政治生命を賭ける」とまで言ったそうだが、であるならコメの本上場を悲願としている堂島取はそれ以上のことを8月5日に言わなければならない。堂島以上に大きな声を上げなくてはならないのは中間流通業者たるコメ卸である。コメの値段が下がって大変だと嘆いていても何の解決にもならないことは過去、現在の状況で証明済みで十二分に学習済みのはずである。であるならコメの価格下落のリスクを回避できる先物市場がなくなることはまさに死活問題であり、堂島以上に大きな声を上げなくてはならない。同時に自分たちがしっかりとした経営が出来るような環境を作ることである。
その環境とは「自由で公平でオープンな現物・先渡し市場」を設立することである。反対売買による先物清算市場は商取法の規制があり、コメの場合所轄官庁の農水省の認可が必要だが「現物・先渡し市場」はそうした認可が必要なく、当業者同士で自由な売り買いが可能で、コメの価格形成の場を作れる。
その市場の商品設計は、まず、現物の売り買いが出来る市場を開設し、毎日、取引に参加する生産者、集荷業者、農協、コメ卸、実需者等に産地銘柄別に売り物買い物を提示し、成約したものは価格をオープンにする。売り買いは現物だけでなく、一年先まで月ごとに先渡し取引を行い、この成約価格もオープンにする。同時に参加者会員の出資による代金保証機関を作り、現物・先渡しで成約したものの代金を保証する仕組みを作り、先渡しで成約したものはこの機関が売買成約証明書を発券する。この証明書は転売可能とすることで流動性を持たせる。
なによりも重要なことはこうした公の市場で、コメの価格が決定しているという事を世に知らしめることである。でなければコメに多額の税金を支払っている納税者・国民の理解は到底得られないであろう。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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