中期計画の策定に最適な年だから~農業振興計画は"5カ年"にできない?【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年4月5日
JAまるごと相談室~コンサルのアドバイス
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
昨年第29回JA全国大会が開かれました。JAは全国大会開催の翌年を初年度とする3カ年計画を策定する組合が多いですね。昨年は、5年に一度の公的な調査結果が公表される年で、中長期計画策定には最適な年だったと思います。
JAにとって、重要な公的な調査の一つは「農業センサス」で、もう一つは「国勢調査」。農業センサスは、2020年の2月時点での調査で、21年4月に調査結果が公表されました。「国勢調査」は6月に速報値が公表され、11月に確定値が公表されました。
「農業センサス」の内容紹介は、本稿の目的ではありませんが、ショッキングな数値が並んでいました。農業経営体数は約107万6000で、5年前に比べ21.9%減少、このうち個人経営体は同22.6%の減少です。一方で、法人経営体は3万1千で同13.3%の増加となっています。二極化は顕著で、10ha未満の経営体で減少割合が大きく、10ha以上の経営体は逆に増加しています。また、農産物の販売金額が3,000万円未満の経営体は減少し、3,000万円以上の経営体は増加しています(都府県に関して)。
私は、これまでJAの地域農業振興計画の策定にあたって、それまでのアンケート調査はやめて、全農家数の7%から10%の農家(経営規模や販売金額などで選抜)を対象にして、役員と職員がペアになって経営者の拝聴訪問を行いました。これらの経営者は、経営に対してポジティブ(前向き)で、JAに対しての要望もはっきり話します。こうした拝聴訪問で得られた経営データや経営者の意向と、農業センサスのデータとを総合してみると、中長期の農業振興計画の柱立てやアウトライン、営農・経済事業改革の骨格が描けるのです。
また、一定規模の農業経営者のみなさんとの対話を通じて知り得たことは、2、3年先を見て農業をしている経営者は皆無だということです。5年から7年先、あるいは10年先を考えて経営しています。そこで、私は、JAの地域農業振興計画を5カ年にする提案をしました。この提案は25年ほど前からで、いくつかのJAで実施され、今日も継続しています。
長年の調査・コンサルティングを行ってきて、大きな壁は、農業経営に関わる統計データが少なすぎることです。とくに、農林水産省から統計局がなくなって、農業・農村に関する調査は減少しました。そのなかで、5年に一度の農業センサスの数値を頼りに、規模別・主力作物別に農家の意向調査を重ねたり、生産部会組織のヒアリングから新たな活動目標を討議したりしました。そうすることで、JAの農業関連施設の取得や補修・整備計画の策定がしやすくなるのです。3カ年で計画・目標を掲げても、実際に成果を求める計画にはならないでしょう。計画を立てたかどうかの調査を行う指導機関もありますが、結果的に、経営規模の大きな農業経営がJAを離脱していく実情を直視しなければなりません。
また、JAの事業計画と同じ3カ年では、担当する部署である営農部門や経済部門も思い切った方針は出せず、前年比100%の目標数値を出すのが精いっぱいです。3年では慌ただしく、腰を落ち着かせて農家や部会組織と一緒になって取り組むことができない、戦略作目の振興などは3年では無理だ、という現場の声は30年も前から耳にしています。
全国JA大会では、「中長期(10年後)を見通して重点的に取り組む五つの柱」を掲げています。計画づくりの基本は、将来のあるべき姿をしっかりと描くことです。もはや過去の延長線上での"数字をつくる"計画策定の時代ではありません。農業経営の実情を捉え、経営のタイプを細分化し、異なるタイプの経営に対応する指導力、支援法を提案していくことです。なかでも、経営規模の大きな経営に対するJAの対応内容については、個別に話し合いを行い、JAとしてできること、やれることを明示することが必要です。
一方で、経営規模は小さいが、営農意欲の高い経営者や秀品率が高い。単位収入が大きいなどの特徴ある経営への対応にも力を注ぎたいものです。
(A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次)
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