【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】世界に例見ない協同組合の共販潰しが漁協にも~まだ買い叩き足りないか~2022年6月23日
「有明ノリ」養殖業者に全量出荷要請をしたとして、独禁法違反で九州3県(福岡、佐賀、熊本)の漁協・漁連に立ち入り調査が入ったと報じられた。このような不当な共販攻撃が行われている日本は世界的にも異常であり、ついに漁協も標的になった。
農協ではすでに始まっていた。大手企業からすると、農産物の「買い叩き」をさらに強めるには農協共販はじゃまである。だから、世界の協同組合に認められ、かつ世界的には強化されている独禁法の適用除外さえ不当だと攻撃し始めた。
個々の小さな農家が大きな買い手と取引するときに買い叩かれないように共同で販売する行為は、公正・対等な競争を促進する行為であり、独禁法のカルテルには当たらない、とする「独禁法の適用除外」が世界的な大原則となっている。
日本の独禁法でもそうなっているが、規制改革推進会議は、この適用除外が不当だと言い始め、さらには手っ取り早く独禁法の適用除外を実質的に無効化してしまうべく、独禁法の厳格適用(共販は認めるが、共販のための出荷ルールは違反だという破綻した論理)で農協共販潰しを始めた。
独禁法の適用除外をなし崩しにする政治的な厳格適用(選挙後の山形・福井、高知のナス)が行われ、畜安法の改定が行われたうえ、2021年6月1日の規制改革推進会議では「農協に独禁法違反行為をしないよう表明させ、農水省に農協の独禁法順守の指導を命じ、特に、酪農分野における独禁法違反の取締りの強化を図る」という全くの筋違いな答申が出された。
農協の共販があっても農家側が買い叩かれている現状は、現在の米価の低迷でも明白なのに、さらに買い叩くために、共販潰しを正当化しようとする神経を疑う。本来は、大手小売を頂点とする「優越的地位の濫用」と「不当廉売」こそを独禁法で取り締まるべきなのに、それはまったく行わずに、さらに「優越的地位の濫用」と「不当廉売」を強化できるように、農家側を弱体化しようとしている。
この流れが、ついに漁協にも来た。筆者も有明ノリの漁協での講演時にも聞いたが、入札をやっていても、買い手側の談合的な行為があって買い叩かれ気味になっている実態は広く耳にしている。また、ある漁協の組合長さんは「はじめに売価ありき。最初に小売価格が設定されていて、逆算で原価はいくらという方式で水揚げした魚の値段か決められるという流れが固定化しつつあるのは間違いありません。」と述べている。
このように共販があっても魚価が漁民側に有利に形成しにくい実態があるのに、さらに、共販を弱体化しようとするとは何事か。共販は認めるが、共販のための出荷ルール(全量出荷など)は違反だというのは、出荷ルールがなくては共販は成立しないのだから、完全な破綻した論理である。
これがいかにおかしいか。サンキストの例からも明白である。米国の柑橘類の専門農協であるサンキストは、独禁法の適用除外となっていて、組合員は柑橘生産の全量をサンキストを通して出荷する専属利用契約を結んでいる。品質や出荷時期などについても、組合員の総意の下で厳しいルールが定められていて、違反者は除名処分を受ける。このような内規に同意できなければ、組合員にならず独自に販売すればよいが、もちろんその場合はサンキストのブランドを名乗ることはできない。これらのルールは、ブランドを守り、組合員の利益を維持するための当然の対応と見なされていて、独禁法上の問題ではないと理解されているのである(矢坂雅充先生)。全量出荷を要請したから問題だというような論理は明白な間違いなのである。
我が国における、このような世界的にも例がないような不当な農家・漁家への「買い叩き」強化が横行していることの異常さを認識し、まっとうな国に早く戻さないと、生産資材価格高騰で苦しむ現場の疲弊がさらに進み、取り返しがつかなくなる。
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