女性の地位の向上【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第231回2023年3月16日

1980年代ころからではなかったろうか、司会者を中心に何人かの「識者」と呼ばれる人やタレントをコメンテーターとして招き、政治経済、社会のニュース、生活、スポーツ、芸能など幅広い時の話題を紹介しながらそれを論評するという「ワイドショー」と称される2~3時間のテレビ番組がテレビ各局から放映されるようになった。
このワイドショーに招かれる4~5人の常連のコメンテーター、これはほとんど男性であり、女性は知識人とか評論家とか称されるような人が、「花を添える」という感じで、一人いる程度だった。
そしてそれは何の不思議もなく視聴者に受け止められてきた。男女共同参画などと言われているにもかかわらずである。
これは当然のことかもしれない、そういうところに出演して政治経済問題などを対等に男性と論議ができるような女性はあの当時それほどいなかったのである。
男女共同参画が言われた頃、大学の教授や助教授(現在の準教授)に女性が少ない、けしからん、もっと多く採用せよという通達があった。しかし、そうしたくともできなかった、女性に研究者になろうとするものは少なく、大学院を出て勤めても結婚退職をするものが当時まだかなりおり、採用しようにも適任者がいなかったからである。
そのころ私は大学をやめ、研究教育から身を引いたのだが、最近テレビ番組を見ていてふと思うことがある。それは「ワイドショー」のレギュラーとして招かれる「識者」に女性が多くなったことである。その年齢はよくわからないが、1980年代(男女共同参画年代)以降、高校・大学を出た女性と思われ、その成果の一つがこれなのだろう。
女性の社会進出が進んできたことは女性の就業率の推移を見てもわかる。
農村部ではどうだったのだろうか。
2010年頃である。先日本稿に登場いただいた網走の女性研究者WMさんから次のようなメールが届いた。
「常呂(ところ)(注)で開かれたある会合で畑作農家の若奥さんに名刺を渡したとき、彼女の手の爪にネイルアートが施されているのに気がつきました。二人の子育てをしている自分の爪がボロボロでいかにも主婦の手だったのとは大きな違いです。さらに、どこで買ったのか聞いてみたいような洒落たサンダルをはいた足の爪にもペディキュアが施されていました。どうも親と同居している人が綺麗な爪をしている傾向にあるようです。食事の用意をするのは年寄りで、農作業はゴム手袋をはめてしているから、そうなるのでしょう。『二世帯同居でネイルアートをしよう』というキャッチコピーで嫁さんを募集したらどうでしょうか」。
こういうのだが、思わず私の頬がほころんでしまった。何と農村は、農家は変わったことだろう。ネイルアートがいいか悪いか、好きか嫌いかはここでは問わない(私はあまり好きではないが)。かつて農家の嫁が化粧するなどということはできなかったのに今はできるようになったこと、隣近所や舅姑から悪口を言われることもなく堂々とおしゃれができる社会に家庭になったこと、都市部と農家の女性の間にかつてのような差異がなくなったこと、これがうれしい。このように明るく変えてきた力はまだ農村に農家に残っている。日本農業はまだまだ大丈夫ではないだろうか。
などと思ったのだが、そんなに世の中は甘くはなかった。輸入圧力はきつかった。養蚕などは壊滅させられた。それだけではなかった、地震や津波まで襲ってきた。農業、農村で生きていくことは容易ではなかった。
(注)北海道北見市常呂地区、カーリングの女子チームのロコ・ソラーレの所在地といえばおわかりだろう。
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