【浜矩子が斬る! 日本経済】高関税男の非関税障壁論的言いがかりにご用心2025年2月20日
NTBという頭文字用語がある。Non Tariff Barrierだ。日本語で言えば非関税障壁である。冒頭で「...用語がある」という書き方をしたが、実は久々にメディア上に出現して来ている。思えば、その存在を忘れかけていた。初めて聞いたという読者もおいでになるかもしれない。実際に、我が周囲にもそういう方々がおいでになることが判明した。
エコノミスト 浜矩子氏
筆者にとっては懐かしいこの用語が、今再び話題になっているのは、高関税男のドナルド・トランプがこの言葉を使い始めているからだ。誰かに入れ知恵してもらったのかもしれない。トランプ大統領は、高関税には高関税をもってやり返すことを通商政策上の基本方針の一つとして打ち出した。目には目を主義の「相互関税」である。
これに対して、我が国の関税率は総じてそんなに高くないぞと反論することは、もちろん可能だ。厳密な目には目をで行くなら、品目によってはむしろ高関税男の方が自分の国の関税を下げるのが筋じゃないか。そう言ってやってもいい。このように言い込められれば、高関税男にも反論はやり難い。
そこで持ち出して来たのが非関税障壁だ。その意味するところは、読んで字のごとし。輸入品に対する関税ではない障壁の意だ。実に様々な種類がある。言いようによっては、何でもかんでも非関税障壁になってしまう。何をもって非関税障壁とみなすかというテーマを巡っては、国々の間で大論争が繰り広げられる時代があった。今日、この問題がさほどメディアを沸かせなくなったのは、大論争の中で、ざっくりした世界的コンセンサスが形成されて来て、国々の間でそれなりの折り合いがついて来たからだろう。ところが、高関税男がこれを振りかざし始めたことで、再びNTB大論争が沸騰することになるかもしれない。
最も厳格で解りやすい非関税障壁が輸入数量規制だ。かつて、日本はコメの輸入を禁止していた。コメ一粒たりとも、海外から流入することは許さない。そういう時代があった。これは、いわゆる国家貿易の一形態だ。国が自国の輸入取引を管理する。これが、最も露骨な非関税障壁だ。
国家貿易については、論争の余地はない。だが、その他の領域については、かなり何でもありな面がある。例えば、かつて欧米からつとに非難されたのが、日本の衛生基準や技術基準が厳格過ぎるということだった。輸出国側で認可された製品も、日本で日本基準による再検査をクリアしなければ受け入れない。この二度手間を何とかしてほしい。この要請が絶えなかった。
この要請にはそれなりの正当性を認める余地がある。だが、もっと微妙なものが多々あった。日本の税関スタッフは輸入品に対してフェアじゃない。なるべく輸入を拒否出来るような構えで臨んでいる。これもしばしば指摘された。
実は、これも本当かもしれない。輸出立国日本は自国市場を輸入品から守らなければならない。実際にそんな役人心理が働いていたかもしれない。もっと難癖に近いものも様々あった。日本人の潔癖主義や完璧主義の行き過ぎが非関税障壁になっている、というのもあった。自動車の窓ガラスにちょっとでもキズがあることを許さない。塗料がちょっとでもはみ出ていたらアウトだ。洋服の模様が縫い合わせの部分でズレていることは絶対許されない。こんな小うるさい要求に一々応えていたのでは、勘定が合わない。だから、対日輸出を諦める。これぞ、非関税障壁だ。こんな苦情がよく寄せられた。
そもそも、日本語そのものが非関税障壁だ、というのもあった。こういう雰囲気の時代はさすがに過ぎ去った。そう思っていたら、高関税男が非関税障壁という言葉を覚えてしまった。どんな無理難題をぶつけて来るやら。非関税障壁問題の歴史を少し振り返っておいた方がいいかもしれない。
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