【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】コメ騒動の大元は占領政策にさかのぼる ~自動車のために農業差し出す流れも最終局面2025年7月24日
コメ騒動が深刻化し、日本の食料安全保障がいよいよ大丈夫かという懸念が高まっている。そもそも、日本の食料自給率が低くすぎるのはなぜかということが問題になるが、その要因を振り返ると、今回のコメ騒動につながる3つのポイントが浮かぶ。それは、①米国の占領政策、②自動車の利益と引き換えに農業を犠牲にする、③農業予算を削減し続ける緊縮財政、である。
①米国の占領政策
今回の米騒動の大元は戦後の米国による占領政策にある。日本は米国の余剰農産物の処分場と位置付けられ、コメ以外の穀物の関税が一気に実質撤廃させられた。これにより、日本の麦や大豆やとうもろこしの生産は壊滅状態になった。
さらに、日本人がコメを食べていると米国の小麦が胃袋に入れられないからと言って、「コメを食べるとバカになる」という本まで「回し者」の学者に書かせて、日本人の食生活改善の名目で、米国の農産物に依存しないと生きていけない日本人にする「胃袋からの属国化」が進められた。これによって、コメ消費が減少していく流れがつくられ、減反政策の導入につながった。そして、この減反政策が、今回のコメ騒動につながった。つまり、コメ騒動の大元は米国の占領政策にあるのだ。
②自動車の利益と引き換えに農業を犠牲にする
さらに、日本側も米国の思惑を活用した。農業を「生贄」に差し出す代わりに、日本は自動車などの輸出で儲けて、食料はいつでも安く輸入できる。これが食料安全保障だ、という流れだ。この「農業を犠牲にして自動車を守る」流れも最終局面を迎えている。今回、トランプ関税から自動車を守るためにコメまで譲ります(さらにコメ輸入を増やす)、という話になってきた。
そう書いていたら、案の定、自国民が自国政府から知らされていないのに、米国大統領から日本にコメ市場を開放させたと知らされた。我々は、まさに「属国民」だ。「国防」の要のコメも差し出し、自動車も守れず(25%関税を15%にしてもらったのではなく、2.5%を15%に引き上げられたのだ)、全てを失った「盗人に追い銭」外交だ。備蓄米と輸入米の価格破壊だけが先行し、コメを守る政策は示されぬまま、「地獄」への道を突き進む。
TPPで約束した米国からのコメ追加輸入枠7万トンについても、トランプ氏自らのTPP離脱で消えたのだから突っぱねればよいのに、それをどう実現するか、必死に検討してきた。既存の輸入米(ミニマムアクセス=MA米)の枠外に追加すると影響が大きい。そこで、すでに、「密約」でMA米の約半分の36万トン前後を米国から輸入しているが、その米国産比率を高めることが検討された。
既存の輸入米の枠内での米国産米の増加であっても、主食米向けの輸入が増え、本来、この秋の国産の新米で備蓄米を補充するのが当たり前で、その契約も進んでいたのに、農家に契約を解除させて、輸入米で備蓄を補充する方針なのだから、国産米の市場をだぶつかせることになるのは必定だ。
日本人の主食として絶対譲れないはずのコメまで差し出すという最終局面まで来てしまったのだ。国民には、米価を下げるために輸入も入れざるを得ないかのように説明しつつ、トランプ政権の要求に応えるストーリーができていた。
これをやってしまったら、日本のコメ生産は壊滅し、唯一、高い自給率を保ってきたコメまでも輸入米に頼って、いざ海外から入らなくなったら、日本人は飢餓に直面する。つまり、農業を犠牲にして自動車を守る姿勢が最終局面まで来て、ついにコメまでも差し出される形でコメ騒動の「傷口を広げている」のである。
③農業予算を削減し続ける緊縮財政
もう一つ、コメ騒動につながり、騒動が収まらない原因は緊縮財政にある。戦後、農水予算は、米国からの武器購入の要請に応えるための莫大な支出を埋め合わせる帳尻合わせの削減対象とされてきた。1970年に12%近くあった総予算に占める農水予算のシェアは今や1%台に落ち込み、まだ減らせという流れが強まっている。これが、米価が30年前の半分以下まで下がって苦しむ稲作現場を放置してコメ騒動の根本原因をつくり、さらには、コメ騒動の収束のために欠かせない稲作農家救済策の実施を阻んでいる。
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