農政:トランプの世界戦略と日本の進路
【トランプの世界戦略と日本の進路】消費税減税で日はまた昇る 三橋貴明氏(経世論研究所所長)インタビュー(上)2025年7月25日
日米両政府は7月22日、関税交渉で合意した。米国は自動車にかける関税を15%に引き下げ、幅広い品目にかける相互関税も15%とする。ミニマムアクセス(MA)の枠内で米国産米の輸入も拡大する。ただ両国はまだ法的拘束力ある合意文書に署名しておらず、日米関係にも世界貿易にも、依然不透明感が漂う。トランプ政権は何を求め、日本経済、日本農業を守るために何が問われているか。経世論研究所所長・三橋貴明氏に聞いた。聞き手は食料安全保障推進財団専務理事の久保田治己氏である。
三橋貴明氏
トランプ政権を生んだ米国民の不満
久保田 トランプ政権が登場し、矢継ぎ早にさまざまな政策を進めています。率直な印象はいかがですか。
三橋 トランプ政権の登場は、自由貿易体制とリベラリズムへの国民の不満の表れです。特に緊縮財政と移民問題が深刻です。アメリカは移民国家ですが、これ以上の移民受け入れは無理だという認識が広まり、トランプ大統領が誕生しました。
久保田 「トランプ関税」では、アメリカの貿易赤字が問題だと言われますが、本質はそこではない?
三橋 はい。本質はアメリカ製造業の再生と安全保障の強化です。半導体など先端産業では部品の多くが輸入依存で、造船等では国内生産がほとんどできません。国内生産強化や同盟国との連携が急務です。その手段が関税なんです。
トランプ関税と消費税との意外な関係
久保田 日本は関税交渉で「貢物」が必要といわれますが、そこに消費税が関連してくるというのはどういうことでしょう。
三橋 日本の消費税は付加価値税です。これは1954年にフランスで、輸出補助金の代替策として導入されました。全取引段階に課税され、仕入れ税額控除が適用される「仕入れ税額控除付き売上税」が消費税の正体です。しかも「仕向け地課税主義」に基づき、製品が売れた国で課税されます。たとえばトヨタのような輸出企業は、輸出する自動車は日本では課税されず、「輸出還付金」を受け取ります。これは実質的な輸出補助金となり、「ダンピング輸出」を可とします。一方、たとえばアメリカからの輸入品には「輸入消費税」が課されます。アメリカから見れば輸入関税と同義で、不公平な障壁と映るわけです。
消費税は輸出補助金だった
久保田 日本も輸出競争力維持のために消費税を導入したのですか。
三橋 そうです。経団連が提案し、1979年に「一般消費税」として提案。その後、「売上税」を経て、竹下内閣で「消費税」として3%で導入されました。1997年に橋本内閣で5%に増税され、日本の地獄が始まります。
久保田 トランプさんが消費税に不満を言ったのですか。
三橋 日本の消費税に対してだけでなく、各国の付加価値税全体に対しての不満です。輸出企業への9兆円もの還付金(注:消費税は約33兆円の税収があるが、そのうち9兆円は輸出企業に還付され、実質的な税収は24兆円程度)は、下請け企業が負担した消費税が還付されているだけだと日本は言いますが、インボイス導入前は正確な還付額が計算できず、実はWTO違反でした。誰も言いませんでしたが。アメリカは付加価値税のネットワークに入っていないため、他国からの「ダンピング輸出」や、アメリカ製品の輸出先での消費税課税に怒っているのです。
消費税減税でみんな満足
久保田 アメリカは州単位で税制が違うので、統一的な付加価値税はかけられない?
三橋 その通りです。付加価値税が輸出補助金や輸入関税として機能しているというアメリカの主張はそれなりの正当性を持っています。ならば日本は消費税を5%に減税すれば、輸出補助金は半減し、輸入消費税も半分になる。日本の労働者の実質賃金も企業の粗利益も増え、GDPも増加する。企業も国民もアメリカも、みんな大満足ですよ。
久保田 GDPが増えれば税収も増えるので、結果的に財務省もマイナスではないですよね。
三橋 財務官僚の人事評価は、税率引き上げや歳出削減といった「数字に出る」部分に偏重しています。消費税減税による長期的な経済成長や税収増は彼らの出世に役立たないので、財務省は猛反対するでしょう。
久保田 輸出企業も反対しそうですが。
三橋 たとえば自動車業界に対しては、消費税減税で還付金が減る代わりに、ガソリン税や重量税を廃止することが考えられます。そうすれば自動車保有者の負担が大きく減るので国内需要が拡大し、輸出での利益減が相殺されるでしょう。
アメリカはWTOからの脱退を表明しています。もしアメリカが抜ければ、日本も抜けて堂々と輸出補助金を出す選択肢が生まれます。WTO体制が解体すれば、GATT以前の世界に回帰します。
(〈下〉に続く)
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