農業にひとり勝ちはない【小松泰信・地方の眼力】2025年10月8日
「就農の入り口」づくり
福島民友新聞(10月4日付)の社説は、福島県における2025年度の新規就農者数が391人で、調査開始の1999年度以降で最多となったことを報じ、「生産者の高齢化などで農業生産の持続可能性が危ぶまれる中、就農者数が伸びているのは朗報といえる。県や市町村は、さらなる担い手の確保につながるよう、取り組みを強化していく必要がある」と記している。
同県の新規就農者数は東日本大震災以降、おおむね増加傾向にあり、2022年度からは4年連続で300人を超えているそうだ。とくに、農業法人などの従業員として働く雇用就農が、24年度より4割増の240人となったことが、過去最多を達成する大きな要因と見ている。
雇用就農は初期投資の負担がなく、「就農の入り口」として人気があり、「今後も伸びが期待される」と評価する。24年度実績ではあるが、福島県が設けている「希望者が人材派遣会社に在籍し、給与を得ながら県内の農業法人で『お試し就農』する制度」の利用者の8割が派遣先に就職したとのこと。農業を志す人が県内の農業法人に就職・定着するために、「制度の充実」などの環境整備を求めている。
全国的には新規就農者は減少傾向
年度が1年異なるので、正確な比較はできないが、『2024年度食料・農業・農村白書』(25年5月30日公表)は、新規就農者数が減少していることを伝えている。
2023年の新規就農者数は、前年に比べて5.2%減少し4万3460人。就農形態別で見ると、新規自営農業就農者は前年に比べて3.4%減少し3万330人、新規雇用就農者は前年に比べ12.0%減少し9300人、新規参入者は前年に比べ1.0%減少し3830人。新規雇用就農者数の減少理由として、他産業との雇用労働者の採用競争や、厳しい経営環境を上げている。
なお49歳以下の新規就農者数のうち新規雇用就農者の割合が、新規自営農業就農者(40.4%)を上回る43.3%であることから、新規就農者の受け皿としての法人経営体の役割に注目している。
無視できなくなった多様な農業者
『白書』によれば、2024年の農業経営体に占める個人経営体の割合は95.4%、準主業経営体と副業的経営体の占める割合は75.3%。主業経営体以外の経営体が大きな割合を占めている。加えて、準主業経営体と副業的経営体が占める経営耕地面積の割合は33.5%。担い手以外が占める経営耕地面積も依然として大きな割合であるとともに、自給的農家が保有する農地もすくなくない状況を冷静に受け止めてか、「食料安全保障の確保に向けて、担い手に限らず、担い手以外の多様な農業者による農業生産活動が行われるとともに、農業者、地域住民等による地域共同の農地の保全管理活動が重要になっています」と記している。
あいかわらず、「効率的かつ安定的な農業経営を目指す担い手の育成・確保」という姿勢を墨守しつつも、「多様な農業者の存在意義」を無視し得なくなっていることがうかがえる。
そのためか、「農地を保全し、集落の機能を維持するためには、地域の話合いを基に、担い手への農地の集積・集約化を進めるとともに、農業を副業的に営む経営体等の担い手以外の多様な農業者が重要な役割を果たしていることも踏まえ、これらの者が農地の保全管理を適正に行うことによって、地域において持続的に農業生産が行われるようにすることが必要です」と書き込まざるを得なくなっている。
「ここで途絶えさせてはならない」の心意気
10月3日放送の『コネクト』(NHKの中国地方向け情報番組)のタイトルは「どうなる?どうする?中国地方の米作り」。中国地方における米づくりの特徴のひとつが、中山間地で行われていること。平野部に比べて圃場一枚の面積が小さく、作業の効率が悪くコストが高くなる。これに、設備費や生産資材費の高騰、そして生産者の高齢化等々が追い打ちをかける。
この状況下で、「どうすれば中国地方の米作りの未来はひらけるのか」をテーマにした番組だった。
極めて示唆的な事例として紹介されたのが、新潟県上越市清里区にある農業法人「グリーンファーム清里」(代表保坂一八氏)。
同法人は平野部を中心に260ヘクタールで稲作に取り組むとともに、上流域の中山間地域で農業を営む集落法人10経営体を積極的に支援している。具体的には、機械の修理や農作業などへの「人材派遣」、「肥料の一括購入」でのコスト削減、農機具が故障したときには「農機具の貸出」。さらには売れ残った米があれば、グリーンファーム清里の販売チャネルで販売する。すべて、無償とのこと。
保坂氏は、「それぞれがそれぞれのところを守ってください。それを下流域の自分たちが支えます。そういう形で地域を守っていきたいと思っています」と語った後に、「農業にひとり勝ちはないんだ」とキッパリ。
もちろん、中山間地域の稲作を支援することを通じて平野部の稲作も守られる。
まずは、水の流れが守られること。上流の生産者が農業を営むことで水路が守られ、そこを通じて水が供給される。
そして、中山間地域に耕作放棄地が広がらないことで、平野部での獣害や水害を防ぐことが可能となる。
まさに、流域一帯が連携することで、米づくりの条件が改善されることを教えてくれている。
最後に「日本の農地の4割が中山間地域。農産物の4割がその中山間地域でできたもの。それを経済の理論で切ってしまったら、切り捨てた4割の農産物はどうするの?」と問いかけ、「ここで途絶えさせてはならない」と、覚悟のほどを示してくれた。
求められる流域での一体的取り組み
これも新潟の事例だが、日本経済新聞(10月7日付)は、新潟県見附市が、水田を洪水被害の防止や軽減に生かす「田んぼダム」の取り組みを進めていることを報じている。2010年度から開始した田んぼダム事業は、田んぼに排水調整管を設置することで、田んぼで一時的に水をため、河川への流出量を抑制し、河川水位の急激な上昇を防いで洪水被害の軽減を目指す取り組みである。普及が広がってきたことで、同市の下流に位置している三条市などの治水にも役立っているそうだ。
水田そのものが持つダム機能は、一手加えた「田んぼダム」の機能には劣るだろうが、農業という営みによってもたらされる自然のセーフティーネットである。保坂氏が語る流域一帯での連携は、米づくりはもとより、地域の治水や保全に多大な貢献をしている。今だけ・金だけ・自分だけでは、地域も主食も守れない。
「地方の眼力」なめんなよ
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