【クローズアップ】年末生乳廃棄回避へ総力 中酪、酪農・乳業に独自支援 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年11月24日
中央酪農会議は11月22日、年末年始の生乳廃棄回避に向けた新たな具体策を決めた。乳製品以外の生乳仕向け促進や出荷抑制に加え、乳業への在庫対策も加えた。同日、国の支援も求めた。
■飼料高騰で酪農トリプルパンチ
生乳需給ギャップに加え、同日の中酪理事会で課題となったのは配合飼料高騰に伴う先行き不安だ。11日のJAグループの農政要請全国大会でも、配合飼料の高騰時に発動する異常補填基金の財源枯渇問題が取り上げられた。これを受け、政府は2021年度補正予算で基金積み増しを行う予定だ。
今、酪農の生産現場は「トリプルパンチ」に見舞われている。生乳需給緩和、飼料高、さらには燃油高騰だ。コスト高を増産で賄い得ない構図だ。副産物の乳子牛も、乳製品過剰で一気に供給基地・北海道から都府県の需要がしぼんでいる。
理事会冒頭、中家徹会長(JA全中会長)は、生乳過剰の実態を「年度末在庫は脱脂粉乳で9・2カ月、バターで5・9カ月と過剰な水準にある」と具体的数字を示すとともに、当面の緊急課題である年末年始の生乳廃棄回避へ、関係者挙げた取り組みを呼び掛けた。適正在庫が5カ月前後とされ、特に脱粉はホクレンなどの独自対応を含めても2倍近い空前の在庫水準となっている。
■12月21日から1月10日の喫緊対応
喫緊の対応は、あと1カ月を切った12月21日から1月10日までの生乳不需要期ピークへの取り組みだ。この時期は学校給食向け牛乳が停止となり、家庭内の需要拡大が大きなカギを握る。
中酪は年末年始の同時期に、ロングライフ(LL)牛乳や消費が好調なチーズ向け生乳仕向け、先にJミルクが示した緊急対策を活用した酪農家段階の出荷抑制、いわゆる「入り口」対策である早期乾乳や低能力牛更新を促す。LL牛乳にしたのは、フレッシュと違い常温保存が可能で飲用牛乳の需給調整機能を想定したためだ。
ただ、乾乳、乳牛更新は短期間でできないため、年末年始の「入り口」対策実現にはタイムリミットが迫っている。
■加工リスク拡充へ6000万円
生乳需給改善へ保存の利く脱粉、バター向け乳製品の割合が増えた場合には、プール乳価との価格差補填を行う「加工リスク平準化緊急対策」を拡充する。
生乳廃棄回避に、都府県で実際は乳製品加工に回すケースが想定されるためだ。加工向けは乳価が低く、加工リスク対策で酪農経営の打撃を少しでも緩和する。中酪は、新型コロナ禍による業務用需要の低迷が長引いているため同対策を年度当初から1億9000万円計上していた。年末年始緊急対応で都府県での加工がさらに増えると見て、中酪の財産を一部取り崩し6000万円積み増した。加工リスク対応は合計で2億5000万円に増強したことになる。
■乳業在庫にも配慮
乳業メーカーの生乳不需要期在庫にも支援する。生産者団体が乳業の在庫対応するのは極めて異例だ。
中酪では「既に相当数在庫がある中で、取引拒否による生乳廃棄が出るリスクをなくすため」と説明している。学校給食牛乳停止となる12月から3月末の「加工リスク平準化緊急対策」の対象となった乳製品、特に脱粉の保管経費を1キロ当たり0・04円(4銭)助成する。
いずれにしても、JA全農が行う各地の取引乳過不足のバランスを取る全国需給調整の役割が一段と重要性を増すのは確実だ。
■農水省要請に問題の「核心」
中酪は国の所管部局である農水省畜産局・森健局長に飼料高騰・乳製品過剰対策支援で要請した。要請内容は、現在の生乳需給不均衡の〈核心〉を突くので見たい。
まず、酪農現場の取り組みを強調した。国策に伴う増産努力と環境重視へ持続可能な酪農への努力だ。具体的には、2020年春決定した今後10年間を見通した新たな酪農・肉用牛近代化基本方針(新酪肉近)に沿った増産と、農水省が来春本格始動する「みどりの食料供給システム戦略」に向けた環境重視、メタンガス削減などへの対応だ。
こうした国策に沿った新たな取り組みの一方で、コロナ禍で現在の酪農・乳業界挙げての生乳需給ギャップ対応を農水省は改めて直視しなければならない。
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