凶作の年や猫の目農政乗り越えて 家族と歩み続ける【農業・歌人 時田則雄】2023年1月4日
2023年が幕を開けた。資材高騰やロシアのウクライナ侵攻などでかつてなく農業を取り巻く状況が厳しかった年を越え、今年はどんな1年になるのか。新年を迎え、農業を営む歌人の時田則雄氏に寄稿してもらった。

妻とわれの農場いちめん萌えたれば 蝶は空よりあふれてきたり
帯広の街なかにぼろっちい板壁の喫茶店があった。店主は詩人だった。9月のある日、その店主から電話がかかってきた。「紹介したい女性(ひと)がいるからこないか」ということだった。私は農作業をはやめに済ませて出かけていった。そのひとは背が高く、ロングヘアで小さなマントを羽織っていた。それは見るからに都会人風であった。店主と彼女と私はコーヒーを飲みながら文学や絵画などについて2時間ほど話し合った。
彼女は千葉市のサラリーマンの娘で、東京の芸能プロダクションに勤めているという。ヨーロッパを旅したあと、北海道旅行で帯広にきたとのことであった。趣味は読書と植物観察だという。私も読書や樹をながめるのが好きだったので、すぐに意気投合。それで私は「明日、私の農場を見にきませんか」と誘ったら、彼女は「はい」と返事をしてくれた。
翌日、私は彼女に家族を紹介したあと、生育中の大豆やビート、格納庫のなかのトラクターなどを見てもらったら、彼女はそれらを興味深そうにながめていた。それで私は「一緒に農業をしませんか」といったら、彼女はすぐに「はい」と応えてくれた。その年の12月、私と彼女は結婚した。電撃的な結婚だったので、彼女の両親は農家に嫁ぐことに反対のようであったが、私の両親はすぐに認めてくれた。
妻はなれない農作業をひとつひとつ覚えて懸命に働いてくれた。いま思うと、炎天下で腰を屈めて草を取ったり、腰をくの字に曲げて豆を刈るのはとても辛かったことだろう。妻はそうした仕事の傍ら、近くの林でキノコを見つけては菌類図鑑を繙(ひもと)き、「これはキヌガサタケっていうのよ。これはクリタケ。どちらも食べられるのよ」と嬉しそうにいう。私はそのような妻をキノコ博士と呼んでいる。近くのひとがキノコを持ってきて食べられるかどうかを聞くことがあるからだ。
昭和55年、私は「一片の雲」50首で角川短歌賞を受賞した。以後、新聞や雑誌に原稿を深夜まで書くようになったが、妻はそんな私にときどきコーヒーやお茶を沸かしてくれる。原稿を書き終えると、私はまず妻に読んでもらう。「いいね」といわれるとホッとする。私にとって妻はよき理解者であり、よき相棒なのである。
昭和57年、妻と相談してわが家から約25キロ離れた日高山脈の近くの山林を25ha買った。内訳はカラマツの人工林15ha。天然林10ha。ある百姓の先輩は、「いまどき山林(やま)なんか買ってどうする。宅地を買えばよかったべ」といったが、私も妻も気にはしなかった。それから40年以上の歳月が流れ、カラマツは伐採適期を迎えた。春になると天然林ではエゾヤマザクラやコブシが花を咲かせる。私も妻もそれをながめるのが楽しみなのである。夏には幼い孫たちが捕虫網を掲げてチョウやトンボを追いかけまわる。それをながめながら私と妻はのびのびと育つことを願っている。
農業・歌人
時田則雄氏
結婚してからはや50年近くなる。この間、凶作の年が何度もあり、赤字経営のこともあった。猫の目農政に翻弄されることもたびたびあったが、妻と共に歯を食い縛って歩んできた。現在は娘婿に経営を委譲し、私たち夫婦は補佐役である。ロシアのウクライナ侵略や円安などによって農業をとりまく状況は極めて厳しいが、家族一丸となってこの難局を乗り切りたいと思っている。
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