【特別寄稿】"農協改革"ついに本丸へ 福間莞爾・総合JA研究会主宰2014年5月30日
・組織と事業は一体
・理想的な運営形態
・農水省の責任転嫁
政府の規制改革会議が打ち出した"農協改革"の提案は、「農業とJAの実態を知らない者の作文」だとして、農業・農協の現場から批判の声が上がっている。なぜ、いま"改革"なのか、提案のどこがどう間違いか。協同組合の理論と現場実態をもとに、新しい視点からの反論を試みる。
事業譲渡という名の
信用・共済分離
今回の一連の農協批判の本質は信共分離論であることは「ここがカンジん」(本紙コラム)でも述べてきたが、信共分離は農協の信用・共済事業を農林中金、全共連へ事業譲渡するという形で最後に登場してきた。いよいよ本丸への攻撃が始まったのであり、JAはこの問題への対処を誤れば、全てを失うことになるだろう。
報道を見る限り、この問題の深刻さは一般に理解されていないように思われる。JA内でも、事業譲渡はせいぜい郵政における郵便・郵貯・簡保の分離ぐらいのこととしかとらえられていない面がある(郵政の分社化は国営企業の民営化のなかで行われたのであり、民間でかつ協同組合たる農協とは議論の土台が全く違う)。事業譲渡という形での信共分離こそわれわれが最も警戒をしなければならない大問題であり、農協解体の“本丸”だ。
◆組織と事業は一体
信共分離がなぜ危険なのかは、事業運営の効率性から連合組織を含めてJA内にも、ともすればこれに賛同しかねない意見があると思われるからだ。そこが攻める側の思うつぼでもある。だが信共分離すれば、農協はこの分野が協同組合ではなくなり、かつ収益分野を取られた農協は確実に消滅する
そもそも、協同組合は組合員の協同活動を基礎に成り立つ組織であり、単位農協の段階で組織と事業活動は分離できない。それを農協から収益部門である信用・共済の事業を奪い、農林中金やJA共済連を本社と見立て、農協をこれらの単なる事業の代理店と考えるのは、この分野でJAを協同組合から会社組織へ切り替えることを意味する。協同組合の何たるかが全く分かっていない者が考える所業である。
一方、経済事業は単位農協から全農への事業譲渡ではなく全農の株式会社化となっているのは、総合農協を農業専門農協に矮小化させ、そのうえで農協の二次組織たる連合組織の存在さえ認めないということであり、まさに農協解体論以外のなにものでもない。もっとも、全農の株式会社化は全農が二次組織であることを考えれば、単位農協の同意がなければ実現は不可能であり、法律改正での強権発動には無理があると考えるのが常識であろう。また信共分離が実現すれば、総合農協の指導を前提とする中央会に賦課金が集まるはずもなく、制度的廃止を待つまでもなく機能停止に陥ることは確実だ。
◆理想的な運営形態
実際、信用事業の農林中金への事業譲渡を見た場合、事実関係から正しい方向かどうかを検証してみるべきだ。農協の信用事業を全国一つの金融機関と見なすJAバンクシステムは、不正・事故防止など農林中金が全国の農協を上意下達で指導する目的で進められた。だが皮肉にも事実はその逆で、リーマンショックによって1兆9000億円という莫大な資本不足に陥った農林中金を、瞬時にしてまさに神業的手法(後配出資)で救ったのは、他ならぬ指導対象とされた単位農協だった。
この事実こそ、協同組合たるJAが持つ強みであり、協同組合の面目躍如だ。このような協同組合のボトムアップ型の運営形態は会社組織の上意下達の運営形態を上回る、比較優位の運営形態であり、それゆえ協同組合は価値ある社会的存在である。なにごとも会社組織が協同組合組織を上回るというのは、思い違いの幼稚な議論である。
◆農水省の責任転嫁
そもそも事業譲渡は、譲渡する側が事業的に行き詰まるか、余程の利益がない限り行われることではない。なぜなら、事業譲渡によって譲渡する側(農協)は事業上の一切の権限はもとより、資産・負債までもを譲り受ける側(農林中金・JA共済連)に明け渡すことであるからだ。だが現実には農協は信用・共済の分野において行き詰まりをみせているわけではなく、むしろ地域の農業振興に貢献している。また、事業譲渡によって農協が多くのメリットを受けるわけでもない。つまり、事業譲渡する理由など全くないのだ(仮に事業譲渡の規定を入れるとすれば、協同組合組織の性格から譲渡先は農協の二次組織である連合組織ではなく、隣接の農協とすべきだ)。
事実がそうであれば、無理やり事業譲渡を行わせる理由はただ一つ、一部農水官僚の意見と思われる、農協は農業振興に成果を上げていないダメな組織であるから、単協の信用・共済事業を連合組織に譲渡させ、営農経済事業に専心させよということだ。農水省でも手に負えない国民的課題である農業問題の責任を、民間組織たる農協に一方的に負わせ、法律で農協を思い通りの組織に改変するなどという暴挙は決して許されることではない。
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