JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第67回 「谷ごと農場」による和牛放牧の推進を2018年10月27日
日本農業の歴史的特質は、さきに述べたように、世界農業遺産にも示されているように、小さな谷や小河川沿いに作りあげられた、いわゆる棚田地域が世界農業遺産として認定され、日本農業の特質が認められていたのであった。
〈トキが絶滅していた時代に佐渡の牛の放牧地を訪ねた〉
佐渡のトキは2003年に最後の一羽が死に絶滅したと言われている。1995年だと記憶しているが、佐渡の国中平野の稲作農業の実態調査と合せて島の中北部の金北山麓の棚田地帯を訪ねたことがある。棚田は西の日本海を眺望するような姿であったが、この地域では棚田に入る水源を止め谷川に落とし、水田でなくなった所にレンゲや牧草を播き、和牛の放牧をしている姿を見て威銘を覚えた記憶がある。当時の調査ノートを私宅の書庫に無いかと探したが、あの東日本大震災で崩れ散ってしまい、脚を悪くしている私には探す気力は無く、当時の記憶をたよりに書いている。飼育管理していた老人の話をいまでも想い起すが、「牛というのはなかなか利口なもので昼は日本海まで降り水浴び(海水浴?)したり海藻を食べたりしてもきちんと帰ってくるんだ」と言っていた。かつての棚田の畦畔などはそのままでも、牛はゆうゆうと段差のある旧水田を登り降りしながら草やワラをもくもくと食べゆうゆうと遊んでいた光景はいまでも瞼に焼きついている。
〈トキの復活の話〉
余談になるがトキの復活の話を書いておくので参考にしてもらいたい。それを年譜風に記しておく。
1981年 野生のトキ5羽を捕獲。国内の自然界から野生トキが姿を消す
1999年 中国産ペアから初の人工孵化成功
2003年 国内産最後の1羽が死に絶滅
2007年 野生復帰ステーション開設
2008年 第1回放鳥
2012年 放鳥されたトキから自然界でヒナ誕生
2016年 自然界で生まれ育ったつがいから初めて「自然界2世」誕生
こうしていまでは佐渡島を訪ねると空を舞い水田でエサを探しているトキに出会うことができるようになった。トキのエサは田んぼにいるドジョウやカエル、タニシなどを、国中平野の水田だけでなく棚田地帯でもエサを求めつつその舞う美しい姿を見ることができ、そしてそこでできた米は「朱鷺と暮らす郷米」として認証され、特選米として賞味されている。このトキと合せて私は佐渡の棚田の放牧で育った牛を肥育して「トキ牛」とでも呼ばれるような佐渡の銘柄牛にならないか、と期待している。つまり、「トキと遊ぶ棚田の和牛」というキャッチ・コピーができないか、という期待である。
〈九州の棚田地帯でも放牧が進む〉
佐渡での調査の後、九州の大分県竹田市九重野地区、宮崎県高千穂町椎葉地区などを訪ね調査した。それぞれの地区を詳しく述べる余裕はないが、竹田市九重野地区は宮崎県境にそびえる名峰祖母山、傾山を望む典型的な中山間地域であり、高千穂町椎葉地区は「ひえつき節」や「夜通し神楽」などで著名なところでこれも典型的な中山間地域であった。
両地区の詳細は省略するが、比較的条件の良い棚田には水稲ー麦あるいは、水稲一冬野菜などの二期作をしていたが、条件の悪いと思われる棚田は佐渡で述べたと同じように水源を切り谷川や水路に落とし用水を断って、雑草、牧草、レンゲなど牛の好む草により、和牛の周年放牧をしていた。和牛導入や水利施設の改良などには、中山間地域等直接支払交付金を地域住民合意のうえで活用するなど、市・町の農林課ならびに農業委員会とともに協議しながら合意作りを通して行っていた。
〈谷ごと農場のすすめ〉
私は、さきの佐渡の事例や、大分、宮崎などでの実態調査を進めるなかで、こうした活動と実践の姿を、「谷ごと農場」と名づけて日本各地に拡げていくべきではないかと考えた。そのために次のような作詞を考えた。これは、多分、多くの方々が若い頃歌ったであろう、あの「雪山賛歌」のメロディに合わせて歌ってもらいたいと考え、かつ、中山間地域の応援と激励の歌をと、考えて作詞したものである。この歌に引き寄せられて若い人たちが中山間地域の再建に来てくれないかと期待して作詞したものである。
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