JAの活動:農協時論
【農協時論】感謝と期待 持続可能な社会 国の将来は農次第 鬼木晴人・前JA福岡市組合長2023年7月10日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、鬼木晴人・前JA福岡市組合長に寄稿してもらった。
鬼木晴人 前JA福岡市組合長
私は今年の総代会を以ってJA福岡市の代表理事組合長を退任いたしました。3期9年間務め、昨年は発足60周年を迎える事が出来ました。これもひとえに役職員の支えはもちろん、関わりをいただきました関係各位の皆様方、そして何より組合員のJAへの厚い信頼があっての成果であり、60年間職員と組合員が、共に支え合ってきた証でもあります。今は「感謝」の言葉しかございません。今回、身を引くにあたり、将来を担う後進の皆様に期待を込めて寄稿させていただきます。
日本の農業、そしてJAの現状を考えますと将来への明るい展望はなかなか見えてきません。まず農業に関しては、日本人の主食である米の消費減、生産コストの高騰による農業所得の減少、人口流出による地域社会の衰退(農事組合の消失)、そして食料自給率が37%しかないにもかかわらず大事な食の将来を真剣に考えず、通信と娯楽を優先に考える風潮を憂慮しています。
JAを取り巻く環境もますます厳しくなっています。基本的に組合員中心の業務を行うJAですから、急速な農家人口の減少は必然的に右肩下がりの将来が予見されます。単協はもちろん、県連、全国連もこの状況にまだ対策が取れていないと感じています。現在日本ではほぼ全ての分野で「人財不足」に悩んでいます。経営が厳しいJAはなかなか給料が上げられず、募集しても定員に届かず、優秀な若者が入組しなくなっています。これは、20年後、30年後のJAを託せる職員がいなくなる危険性を持っています。
いずれも深刻な問題であり、なお且つ早急な対策を必要としていますが、私の考えではまずは国を変えることが必要と感じています。政府による農業者、地域に対する政策を根本的に見直し最も大切な解決の「要」としていくことが必要でしょう。
現在の国会議員に農業者はわずかです。本当に農業の深刻さを理解している先生方は昔と違い極端に少なくなっています。そのため農業についての識見や危機感が著しく低下している、これが一番の問題です。今回「食料・農業・農村基本法に、平時を含む食料安全保障を基本法の目的として明確に位置付ける」と、野村哲郎農水大臣が発言をされています。野村農相は鹿児島出身です。「食料安全保障に関する検討委員会」の森山裕会長も鹿児島です。さらに全中会長に、同じく鹿児島県の山野会長が選出されます。農業の実態を知る、野村、森山両先生としっかり意見交換して頂き、まずは農業が持続できる政策を立案して欲しいものです。
「人財不足」の解決策はただ一つ、いつも言っていますが「JAの魅力を上げる」これに尽きます。今でも地方ではJAの知名度は高いのですが就職先となると嫌われるようです。しかしながら現在はSDGsの時代です。地産地消で生まれるフードマイレージの優位性、農業そのものがメタンガス等課題もあるものの、持続可能な産業構造なのです。その農業に携わる農業協同組合の立ち位置は、既に一番SDGsを実践している優良企業体といえます。今こそこれを地域の若者にアピールするべきです。また、当然、現代社会に求められているコーポレートガバナンス(内部統制)は、なお一層律していく必要があります。不祥事一件で信頼度、人気度は落ち、今までの苦労は水の泡となります。
正組合員が減少する中、残された道は准組合員を増やすことが持続可能なJA基盤の確立のために必要不可欠だと考えます。JAファンを増やしましょう。信用事業も世界の金融市場でも厳しい情勢が続き大変ですが、信連や各JAでも農林中金頼みとせず自前での余裕金運用を進めるべきです。
熊本・阿蘇地域の世界農業遺産認定に尽力した大津愛梨さんが言われています。「農業なくして、持続可能な社会なし」その通りだと思います。悲観論では何も解決しません。この言葉を信じて、未来に持ち続けましょう。
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