JAの活動:農協時論
【農協時論】半導体騒動―工場進出に困惑 環境激変を憂う 三角修・JA菊池前組合長2023年11月15日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は熊本県のJA菊池前組合長・三角修氏に寄稿してもらった。
JA菊池前組合長 三角修氏
世界的な台湾の半導体メーカー「TSMC」が熊本県JA菊池管内の菊陽町に進出した。熊本進出が決まってまだ3年。夜を徹して工事が続けられ、オフィス棟は既に完成、年内には試作ラインが稼働するという。
菊池地域は熊本県屈指の農業生産地である。中でも生乳生産量は、北海道を別にして栃木県に次いで熊本県が第2位であり、菊池地域はその3分の1を占める。そんな酪農家の自給飼料が生産されている地区に巨大海外企業がやってきた。決まってからというもの、関連会社等が事務所や倉庫を建てる用地が欲しいと要望し、酪農家が飼料生産に借りている土地を地主に返さなければならないことが多くなった。配合飼料の値上がりで、今こそ自給飼料を生産しなければならない時に土地を返すことは、コストが上がり経営が悪くなることにつながる。
多くの組合員から相談を受け、県知事に直談判したのが5月末だった。「県が一方的に工業用地にするなら近隣に飼料畑を準備してほしい」と、地下水保全も含めて要望した。畜産クラスター事業を利用して牛舎を増改築、牛を増やし大型機械も導入。そこへ配合飼料の値上がり、土地の貸しはがしとなったら元も子もない。
熊本市は水前寺公園、江津湖で象徴されるように、阿蘇で降った雨が菊池地域管内の大津町、菊陽町の地下で貯められ、30年の歳月を経て伏流水として湧水しているのだ。熊本市民74万人が飲料水として99%以上を地下水に依存しているのは世界でも類を見ない。工場での水の使用量は、1日当たり8千500t(1カ月ほど前までは1万2000t)といわれている。今後、子会社、孫会社、関連会社まで含めるとどれだけの量になるのだろうか。牛が飲む水は酪農家がボーリングを50~100m掘削して吸い上げており、大きな口径で深くから揚水されると水が出なくなってしまうのではないかと心配する。2~3カ月前より水の涵養についての議論が頻繁に行われ、冬場に水田に水を張ろうとの話が多くなってきた。しかし、冬はニンジンや麦が二毛作として作付けされている地域である。
麦は湿気に弱く、畦ひとつでは浸水して安定した収量は望めない。よって、麦を作付けせず全面水張りという話も出てきた。JAのカントリ―エレベーターの運営は麦の収納で成り立っており、麦作皆無となればカントリーは大赤字となってしまう。
台湾有事の際の想定にもとづいての国策であり、反対とはいわないが食料安全保障が叫ばれている中、どうも釈然としないのは私だけだろうか。
北海道千歳市では、次世代半導体の国産化を目指して国内企業が手を組んだ「ラピダス」が2027年操業を目標に今年9月着工した。菊陽町のTSMCの用地21haの3倍以上の65haで造成工事が始まっている。広い北海道だから土地はあると思うが、水は大丈夫かと心配している。JA綱領に「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」とある。半導体も必要である。国土保全も大切である。しかし、日本人の胃袋を満たすことが最も必要、大切と考える。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】とうもろこしにアワノメイガが多誘殺 早めの防除を 北海道2025年7月1日
-
【人事異動】農水省(7月1日、6月30日付)2025年7月1日
-
農水省 熱中症対策を強化 大塚製薬と連携し、コメリのデジタルサイネージで啓発2025年7月1日
-
作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
-
【JA人事】JA岡山(岡山県)新会長に三宅雅之氏(6月27日)2025年7月1日
-
【JA人事】JAセレサ川崎(神奈川県)梶稔組合長を再任(6月24日)2025年7月1日
-
【JA人事】JA伊勢(三重県) 新組合長に酒徳雅明氏(6月25日)2025年7月1日
-
米穀の「航空輸送」ANAと実証試験 遠隔地への迅速な輸送体制構築を検証 JA全農2025年7月1日
-
JA全農「国産大豆商品発見コンテスト」開催 国産大豆を見つけて新商品をゲット2025年7月1日
-
こども園で食育活動 JA熊本経済連2025年7月1日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施2025年7月1日
-
7月の飲食料品値上げ2105品目 前年比5倍 価格改定動向調査 帝国データバンク2025年7月1日
-
買い物困難地域を支える移動販売車「EV元気カー」宮崎県内で運用開始 グリーンコープ2025年7月1日
-
コイン精米機が農業食料工学会「2025年度開発賞」を受賞 井関農機2025年7月1日
-
「大きなおむすび 僕の梅おかか」大谷翔平選手パッケージで発売 ファミリーマート2025年7月1日
-
北海道産の生乳使用「Café au Laitカフェオレ」新発売 北海道乳業2025年7月1日
-
非常事態下に官民連携でコメ販売「金芽米」市民へ特別販売 大阪府泉大津市2025年7月1日
-
農作物を鳥被害から守る畑の番人「BICROP キラキラ鳥追いカイト鷹」新発売 コメリ2025年7月1日
-
鳥取県産きくらげの魅力発信「とっとりきくらげフェア」開催 日本きのこセンター2025年7月1日
-
鳥インフル 英国チェシャ―州など14州からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2025年7月1日