緊急提言:TPP強行採決――協同の力のみせどころ(下) 田代 洋一 横浜国立大学名誉教授2016年11月7日
◆TPPは後が怖い
TPPの真の怖さは先に行ってその全貌を現すことだ。その時になって気づいたのでは遅いが、将来の危険性を論じても水掛け論に持ち込まれ、誰も責任をとらない。怖いのは次の点だ。
第一に、既に韓国、タイ等のアジアや南米諸国が参加意向であり、将来的には中国の加盟も見込まれる。これらの農業大国に現TPP水準並みの開放を迫られたらたまらない。
第二に、日本だけが農林水産品について7年経過後の再協議を義務つけられた。それは、今回は関税撤廃を見逃してやった品目も、7年後には必ず関税撤廃させるという、2011年に「TPPの輪郭」で「関税撤廃」を決めたP9諸国の執念であり、要するに執行猶予7年の宣告だ。ここには密約があるのではないか。否定するなら交渉経過を明らかにすべきだ。政府が守秘義務を盾に拒否するなら、われわれは推理を鉾にするまでだ。
第三に、食の安全性や表示をめぐっても、肝心のところは小委員会や作業部会に委ねられている。予防原則の採用、GMの表示、国産品表示も脅かされかねない。現行協定では問題ないとする政府見解は、原発事故当時にはやった「現状では安全」とい言い方を思い出させる。問題は「現状」だけでなく、将来の安全性如何なのに。
第四に、海外投資家が、投資先国の規制等で投資機会を奪われたとして国を提訴できるISDS条項の頻用だ。政府は否定するが、国が国民の健康・安全・環境・生活インフラ等を守る公共政策も提訴対象になる。
TPPと農協「改革」は、この点で深く連動する。「改革」では、単協の信用事業を農林中金の代理店化したうえで、中金も農協出資の株式会社にするつもりだ。アメリカ金融資本はその時を待って、農協しか出資できないのは外資の投資機会を奪うとしてISDSで訴える。敗訴すれば、外資による中金株の取得が可能になり、当然に代理店(単協)も外資の手に落ちる。全農も同様で、株式会社化した上で、外資が出資し、遺伝子組み換え作物の日本への持ち込みをしない全農グレイン等の乗っ取りを謀る。
要するにTPPは時が来たら炸裂して内蔵をかき回す弾丸である。
◆諦めない―協同の力
以上はあくまで批准・発効した場合の話だ。その怖さを強調することは大切だが、それにおびえて離農を急いだり、投資をあきらめたり、新規就農を取りやめるのは尚早だ。
政治の世界の一寸先は闇、何が起こるか分からない。農相の失言はその一例。もはや日本が批准を急いでも、官邸念願の大統領選には間に合わない。新大統領が選挙戦中の反TPPの言辞を修正するには最低でも二年はかかるとも言われる。その間にもTPPのボロは次々と出てくる。
課題は二つ。一つは民意を汲み上げ、反映できる選挙制度への改革。それには時間がかかるとすれば、少なくとも多数支配が容易な小選挙区制下で多様な意見を保障するため、党議拘束をやめること。それも時間を要すれば、まずは民意を鍛え直すしかない。
そのためにも、二つ目に、農業者や農協は、TPPの危険性を声を大にして訴え続けつつ、自らやるべきことをやっていくことだ。スムースな世代交代を図る、新規就農者を迎え入れる、担い手農業者の営農環境を整える、自給的農業を直売所農業へ発展させる、農協「改革」をはねのけ、総合農協と地域・組合員との結びつきを強める。
今こそ協同の力のみせどころである。
・緊急提言:TPP強行採決――協同の力のみせどころ(上)-強行採決―民主主義と立憲主義の蹂躙
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日