【クローズアップ:気候危機】CO2排出抑制しなければ今世紀末に4.5℃上昇 猛暑日、熱帯夜増加2021年6月23日
気象庁の予測では、二酸化炭素など温室効果ガスの排出抑制など追加的な措置をしない場合は、21世紀末の日本の年平均気温は約4.5℃上昇する。パリ協定の2℃目標を達成しても約1.4℃上昇するとの予測だ。気温の上昇や大雨が増えるなど、気候変動は今後さらに進行し生態系や食料生産、人間の生活への影響が懸念されている。その原因となっている地球温暖化を遅らせるために温室効果ガスの排出抑制が求めれている。
今回は、気象庁が昨年末にまとめた報告書『日本の気候変動2020』で示されている予測から、日本の気候に何が起きているのかを見ていく。合わせて文科省・気象庁の「気候変動に関する懇談会」の花輪公雄会長(山形大学理事・副学長)に報告書の意義など聞くとともに、地球温暖化にどう向き合うべきか大阪市立大学の斎藤幸平准教授に提言してもらった。(インタビューは順次掲載します)。
2015年に採択された「パリ協定」では、工業化以前(1850~1900年)とくらべた世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分低く保つことを世界共通の長期目標とした。それが「2℃目標」である。気象庁の報告書はこうした世界の動きをふまえ、日本と周辺の温室効果ガスや気温、降水などが、これまでにどう変化し、今後どうなるのを予測したもの。
報告書では現在までに観測されている変化をまとめている。それによると1898年から2019年の間に100年当たり1.24℃上昇した。世界平均の上昇率0.74℃よりも大きいことが分かった。その理由はユーラシア大陸に近く、陸のほうが温度が上がりやすく、そのため北半球の中高緯度は地球温暖化による気温上昇の影響を受けやすいという。
グラフに示したように日本では19世紀末からじわじわと気温上昇が続いており、右肩上がりの変化のなかにいる。報告書によると2019年の年平均気温は統計開始以降でもっとも高かった。
このデータの観測地点は網走、根室、飯田、銚子、石垣島など都市化が進みヒートアイランド現象が影響するような地域を避けて選ばれた。その結果示されたトレンドが、気温上昇が続いているということになる。
現在までに起きている変化に加えて報告書では将来予測を示した。
シナリオは2つ。そのうち4℃シナリオとは、国際機関(IPCC)が取り上げている将来の気温上昇が最大のものであり、今以上の温室効果ガス抑制策をとらなった場合だ。
それに基づく予測によると、21世紀末の日本の年平均気温は約4.5℃上昇するとの予測だ。世界の年平均気温の3.7℃よりも高い。気温上昇にともなって猛暑日は19日、熱帯夜は40日増え、一方、冬日は46日少なくなる。
もう1つのシナリオが、さまざまな温暖化防止策に取り組み、パリ協定の2℃までに気温上昇を抑えるという目標が達成された世界。それでも日本は約1.4℃上昇し、猛暑日は年に3日、熱帯夜は9日増える。
今回の報告書の特徴は、それぞれの予測に「確信度」を示したこと。研究者によって判断が異なるものは確信度は低いと記述されているが、この気温上昇とそれにともなう猛暑日や熱帯夜の増加、冬日の減少は「確信度」が高いと明記されている。
どう対応すればいいのかと考えさせられるが、ここではその他の予測を見ていく。
大雨の発生はすでに増加していることが確認された。1901年からの30年間と最近の30年間(1990~2019年)では1日200ミリ以上の大雨は約1.7倍に増えた。一方で雨の降る日は100年当たり9.5日減少している。また、年間や季節ごとの降水量に、統計的に有意な変化は観測されていない。つまり、雨の総量は変わらず、雨天の日が少なくなり、降る時はゲリラ豪雨のような極端な降り方が増えるということになる。
将来予測でも、200ミリ以上の降雨日数が2℃シナリオで1.5倍、4℃シナリオでは2.3倍に増えるとしている。雨が極端な降り方になっているのは、気温が上がるほど、空気中に含むことができる水蒸気の量が増えるからだとされている。報告書では地球温暖化にともなう気候変化と指摘している。
温暖化にともなって、雪は北海道内陸部の一部は減少すると予測されている。雨でも雪でも上空では氷の粒だが、地表付近の気温上昇にともなって、雪ではなく雨となって降ることが増えるからだ。ただ、ごくまれに降る大雪のリスクが低下するとは限らないとの予測も示した。
台風について現在までの観測データから、強い台風が増えているといった変化は認めれないという。しかし、台風のエネルギーである大気中の水蒸気が増えるため、日本付近の台風の強度が強まると予測されている。また、実験結果からは「猛烈な台風」が特定の場所に存在する頻度が高まると予測されている。
報告書では3年前の2018年7月の記録的な高温についての分析もある。平成30年西日本豪雨被害が起きたこの年、7月の熱中症の死者数は最多の1000人を超えた。
報告書では地球温暖化が進行しつつある現実の条件と、人間活動による地球温暖化が起きなかったと仮定した場合でシミュレーションを実施した結果も書かれている。
結論だけを紹介すると、『地球温暖化がなければ記録的高温は起きなかった』、である。また、7月豪雨についても過去40年間の日本の気温1℃上昇が水蒸気を増やし、約6.7%降水量を底上げしたという分析結果も示した。
気象庁によるとこの報告書を最新の知見を概観できる資料と位置づけ、概要版も作成し幅広い人に関心を持ってほしいとしている。
気候変動に関する懇談会の花輪公雄会長は、日本の気候について「気温が右肩上がりで上昇しているという、一方向の変化が進んでいる」ことを認識する必要があると指摘している。
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