【クローズアップ:外国人労働者】日本農業の一翼~制度と現状 技能実習生は強力な戦力(4)堀口健治・日本農業経営大学校校長(早稲田大学名誉教授)2021年7月6日
地域農業支える外国人労働者
4.外国人を受け入れる経営体の2つのタイプ
カンボジアでの技能実習生の選考・算数の計算問題
1)家族員と技能実習生の組み合わせによる規模拡大―家族経営的性格が強い小規模雇用型経営
19年の調査だと、熊本県の技能実習生の増加は主に八代や玉名、宇城などの施設園芸の拡大によるものであった。ハウス増加は収穫や定植労働を雇用で対応するもので、農協や事業協同組合の技能実習生紹介に依存する。受け入れ農家の多くは2世代家族で家族員3~4人の下、規模拡大のため実習生3人前後を雇うもので、今まで家族員と日本人パートの経営であったものが、パートの募集が難しくなる中で、家族員と同数の技能実習生に依存する形に急速に変わってきている。
19年の熊本労働局の統計では、農業の961事業所が3420人を雇用しており、事業所当り3.55人になっている。
八代で最大規模のY氏の施設(法人)をみてみよう。メロン4ha、トマト3haの規模を家族員5人、技能実習生8人で担っている。受け入れは農協が06年監理団体になった時に始まり、初めは2人、その後4人が長く続き、この2~3年前から8人体制になった。規模拡大に応じ実習生を増やしたが、所有水田が「イ草」からほぼ施設に替わり、これ以上の拡大は考えていない。
8人の実習生であれば帰国後の交流も続く規模であり、今の家族員数であれば外国人を指導する日本人雇用は必要がない。Y氏の経営は家族員の多さが実習生数を増やし規模を地域最大にさせている。
家族員で農業従事が3人いれば、技能実習生の採用枠により毎年最大3人雇用は可能で、3年繰り返せば9人の雇用になり、あとは毎年3人の帰国・新規補充の形が可能である。しかし9人の大規模な実習生の雇用経営が現地で少ないのは、9人の実習生だと家族員以外に指導の日本人が必要になり、日本人確保の難しさが大規模経営の発生を妨げていると思われる.
このように外国人雇用の経営でも家族員の従事者が依然として重要な役割を果たしている。他方、外国人雇用で規模を拡大し売り上げと所得の最大化を達成して、後継者の確保を可能にしている。実習生確保は日本人雇用者が減りつつある地域での家族経営の「生き残り戦略」になっている。
2)経営者・日本人雇用者・技能実習生の組み合わせによる大規模化―大規模雇用型経営
家族員以外に日本人を多く雇い、それに対応する技能実習生の数を確保して、規模の大きさのメリットを実現した例として香川県の例を軍司・堀口(「大規模雇用型経営と常雇労働力」『農業経済研究』2016年12月)が紹介している。
同県は農協が監理団体を解消した以降、規模の大きい農家・法人が08年ごろ相次いで自ら事業協同組合を作り、カンボジアやラオスなどの送り出し団体と組んで技能実習生を受け入れている。露地野菜経営が多いが、最大規模の法人は、経営面積25.0ha(作付け延べ面積131.6ha)、家族5人、日本人常雇20人、技能実習生27人、の52人の常勤労働力である。他に日本人臨時雇が12人いるが主は常雇で、数の上で実習生が最大である。
これだけの実習生は、一つの経営では実習生を除く常雇人数規模からいって雇えない。毎年3人、3年目で最大9人ということなので、27人雇用は制度上不可能である。そのために4社に分け9人枠を複数確保することで対応している。
分社化した経営で雇われた実習生はそれぞれの経営で計画に従い日本人の指導を受けて働く。しかし経営間で作業を受委託し計画に従うものであれば認められる。こうした分社化が大規模層に取り入れられ、必要な日本人確保を前提に大面積での定植や収穫作業などを多くの技能実習生でこなしている。大規模化は実習生で達成できているのである。しかし人数枠のない特定技能が広がるにつれ、状況が変化することは想定される。
なお技能実習生の2割を占める畜産での外国人の働き方は、農畜産業振興機構のホームページで見ることができる。「令和2年度畜産関係学術研究委託調査、肉牛繁殖・肥育経営および酪農経営における外国人労働力の役割」を参照してほしい。
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