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2013.06.19 
GDP1兆3000億円減 鈴木教授のTPP影響試算一覧へ

 関税撤廃による農業や関連産業の生産減少に加え、雇用の喪失まで含めるとTPP(環太平洋連携協定)によって、日本のGDP(国内総生産)は1兆3000億円減少するとの試算を東京大学の鈴木宣弘研究室が発表した。政府はTPPによってGDPが3.1兆円増加すると試算しているが、これは安い輸入畜産物に国産品が対抗できるなどと非現実的な仮定をしていることに加え、農業者が自由に自動車産業などの仕事に就けるという前提に立つ。鈴木教授はこれらの問題点を補正して試算、「TPPは日本の国益を損なう」と強調している。

◆政府、2兆積み増し

6月16日にJA全中とJA全青協(全国農協青年組織協議会)が東大で開いた「TPPシンポジウム〜今こそ考えよう! TPPと私たちの将来」 6月16日にJA全中とJA全青協(全国農協青年組織協議会)が東大で開いた「TPPシンポジウム〜今こそ考えよう! TPPと私たちの将来」で発表した。鈴木研究室は5月に政府試算の再検討結果を一部発表したが、それに追加、拡充した分析結果だ。
 内閣府の試算では関税撤廃によって日本のGDPは3.2兆円増加するとしている。
 しかし、鈴木研究室の試算では、そのうち関税撤廃による直接的な効果は2700億円に過ぎず、大部分は生産性向上効果(1兆9500億円)と資本蓄積効果(8800億円)だという。 鈴木教授は、GDPが増加すると貯蓄が増えるなどの資本蓄積効果はともかく、生産性向上効果については「価格が10%下落すると生産性が10%向上する」との仮定に立ったものと指摘。この仮定の「現実性はかなり疑わしい」として、政府試算はこの生産性向上効果1.95兆円分が積み増しされたもので「鵜呑みにはできない」数字と強調している。

(写真)
シンポジウムの風景。大きく映し出されたビジョンには、ネットを通じて視聴者のコメントが随時書き込まれていった。


◆農業損失額さらに大

 内閣府が試算を行ったGTAPモデルは安い輸入品に国産品がかなり対抗できることを前提にしている。そのため国内農業生産の減少が過小に評価される。 たとえば、ビートやサトウキビは農水省の試算では100%壊滅するとしているが、GTAPモデルでは3%しか減少しないという結果になる。そのほか、牛肉は4%減、生乳は2%減との試算となる。そのためGTAPモデルでは農林水産業の総生産額は1.2兆円の減少と、農水省試算3兆円の3分の1となる。 しかし、生乳でいえばニュージーランドなどの生産コストは1kg15〜20円で日本は80円程度。現実的に考えてとても太刀打ちできない前提に立っていることから鈴木教授は「受け入れ難い試算だ」とする。
 こうした過小評価を補正するため、関税撤廃によって農林水産物の生産量が全体として30%減少するという前提をGTAPモデルに組み込んだところ、生産額の減少は約3兆7000億円となった。これについて鈴木教授は農水省試算の3兆円減に、果樹・野菜の損失を加えた額にほぼ一致する妥当な数字としている。

農業への影響を補正した場合のTPPの効果

◆幸福度は9600億円減

 このように補正された試算では、食品加工業1.9兆円、建設業9500億円、輸送業2200億円の減少などとなり、小売り、医療などのサービス業、公共サービスまで含めて生産額の減少は約9兆円となる。 一方、生産額が増加する産業は自動車で3.2兆円、金属で1兆円など合計で約8兆円。総合すると農業などの損失を自動車などの生産額増加でカバーすることはできず、GDPは約4900億円減少(▲0.1%)するというのが「TPPの効果」として試算された。
 また、鈴木教授は経済的利益について経済的幸福度を評価している。これは同じ支出でどれだけ多くの満足度が得られるかをみたもの。農業への影響を補正した今回の試算では、この経済的幸福度は9600億円減少するという。

農業への影響と労働移動を補正した場合のTPPの効果◆多面的機能1.8兆減

 さらにGTAPモデルは、打撃を受けた産業から輸出産業など伸びた産業へ労働力が移動するという前提に立っている。
 しかし、農村部から都市部に移動し簡単に転職するなど、現実的ではない。そこで鈴木教授はこのような「生産要素の完全流動性」という仮定を排除して試算した。産業間で労働力がほとんど移動できないとすると、農業などに労働力が留まり、そのために自動車産業などは十分に生産拡大できないという非効率が生まれ、生産額の増加は小さくなる。一方で農業は輸入品との競争激化でさらに生産額の減少が大きくなるという。
 こうしたことを総合すると農業の損失を自動車産業などの利益でカバーすることは一層難しくなり、GDPは1兆3000億円減少、経済的幸福度は1兆9000億円も減少するという。 これらに加えて農業壊滅で多面的機能も失われる。
 日本学術会議が平成13年に答申した試算では農業の多面的機能は水田の洪水防止機能、地下水涵養機能などで合計5兆8345億円とされている。かりに生産が30%減少することにともなって水田が30%失われるとすれば、多面的機能の喪失額は1兆7500億円と見込まれ損失はされに拡大する。 鈴木教授の試算ではTPPによって国益は増えるどころか「どんどん減るばかり」だ。 シンポジウムではこうした経済的影響のみならず、食の安全、国民皆保険制度の崩壊につながりかねない規制緩和の導入など「暮らしが立ちゆかなくなるTPP」への懸念が次々と指摘され、JA全青協の山下秀俊会長と益子丈弘副会長は「農業に矮小化されているが国民全体の問題。後世につけをまわさないようしっかり立ち止まり、なんとか止めないといけない」と訴えた。


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