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2015.11.13 
田園回帰と日本の未来 都市と農村の共生社会へ 全国リレーシンポジウムより一覧へ

 今年の食料・農業・農村白書(26年度)は、巻頭特集で若者や子育て世代などで高まっている「田園回帰」の動きを取り上げた。これを都市と農村の共生社会を創造する動きとして捉え、何をすべきかを考えるため、都会から農村へ移住した若い世代と有識者が集まったシンポジウムが11月7日、東京都内で開かれた。会場には300人が集まるなど関心の高さをうかがわせた。
 シンポジウムでは田園回帰は農山村活性化のためだけではなく、東京一極集中に象徴されるこれまでの成長追求型都市社会から、脱成長型都市農村共生社会へと日本が転換するための岐路にあると国民全体で捉えるべきと提起された。

◆的はずれな内向き批判

広井良典千葉大学教授 全国町村会と(一財)地域活性化センターが主催し、今年度は全国5か所でこのシンポジウムを開くことにしておりこの日は第3回。全国町村会の藤原忠彦会長(長野県川上村村長)は「都市の知識や知恵も入れ共生社会ができればと思う。具体的な行動を起こすことが求められている」などと語った。
 基調スピーチは3人。広井良典氏(千葉大学法経学部教授)は「人口減少社会を希望に」と題して報告。人口減少社会では人口増加期(高度経済成長期)とは「逆の流れと志向が生じる」と基本的視点を示した。
 たとえば、1970年代のヒット曲『木綿のハンカチーフ』は「僕は旅立つ、東へと向かう列車で」と歌い、地方(農村)からとにかく東京(大都市)への時代を象徴したが、今、それはローカル志向に変わってきている。各地域の持つ固有の価値や文化的多様性に関心が高まり、広井氏は「最近の学生には、静岡を世界一住みやすい町にしたい、地元新潟の農業をさらに再生させたい、などと考える若者が多い」と指摘、「ローカル志向は時代の流れであり、若者の内向き批判は的はずれ。むしろ支援する政策が必要だ」と強調した。
 ローカル志向を支える視点として「コミュニティ経済」の必要性も説く。それはヒト・モノ・カネが地域内で循環するような経済で、例として商店街をケア付き住宅、子育て世代向け住宅とも結びつける福祉商店街や、自然エネルギーや農業をコミュニティ経済に取り込む試みなどを挙げた。
 こうした取り組みから「地域の自立」も見えてくる。これまでは"財政的な自立"であり、この視点では東京など大都市圏は自立、農村部は依存ということになる。しかし、食料や自然エネルギーなどの生産と供給を考えれば「明らかに都市は農村に依存している」。
 こうした点を指摘し「人口減少社会への移行は地域に根ざした真の豊かさを実現していく入り口であり大きなチャンス」と提起した。


◆地域みがきが人を呼び込む

小田切徳美明治大学教授 小田切徳美氏(明治大学農学部教授)は「田園回帰と地域づくり」と題して報告した。
 農村への移住者の特徴は実は団塊の世代は少なく20~30歳代が中心で単身女性やシングルマザーもいるなど女性の割合が高いという。また、Iターン者がUターンを刺激していることや、NHK朝ドラ「あまちゃん」のアキのように親の世代を飛び越えた「孫ターン」もみられると小田切氏は指摘した。
 明治大学と毎日新聞の合同調査によると2013年度の移住者は全国で約8200人。この数字には県内移動を含めていないことなどから実際には数倍になるという。しかも、4年間で2.9倍に増えていることから、2020年には約7万人が移住すると推計される。東京圏への純流入人口が11万人だということから、この推計は若者を中心とした田園回帰の動きが決して小さなものではないことを示している。
 ただ、地域差も大きいことから受け入れる農山村側の課題として、▽地域と人とのマッチング、▽移住者のライフステージに応じた支援などを指摘した。とくに行政の支援は移住段階に集中しており、定住・永住のための仕事、子どもの教育費の確保などの支援策に取り込めるかが課題となる。
 一方、支援策と同時に重要なことは「みがかれた地域に人は集まる」ということを小田切氏は強調する。人口減少下であっても地域の働き盛り世代の「輝く場」であり、高齢者が「安心できる場」であり、子どもたちが「戻ってくる場」をめざすことで、「地域外の人々のあこがれの場」となる。それを地域住民自身が考えていくことが必要で、その地域づくりには移住者も関わり「地域づくり」をサポートする。そうすることで「田園回帰」と「地域づくり」の好循環が生まれていく。
 都市から農村への人口逆流は欧米では1970年代から始まり、それは単なる人口移動ではなく「国民の選択」だったと指摘。日本も「田園回帰と地域みがきの積み重ねで都市農村共生社会づくりを」と提起した。


◆地域で暮らすシゴトを発見

大江正章コモンズ代表 ジャーナリストで出版社コモンズ代表の大江正章氏は移住者たちと農村の動きを報告した。
 大江氏が強調したのは田園回帰を考えるには「人間は『人口』ではない」(神野直彦氏)の視点の重要性。それを象徴するような移住者や受入れ側の言葉をいくつかを紹介した。
 ▽家の裏には段々畑があり石垣が残っている。ここで農作業ができる、歴史のなかに入り込めると思ったらうれしくって、▽ど田舎に生きたかった大事なのは地域内循環。集落の景観維持や担い手になることも考えているなどの声のほか、受け入れる側のリーダーは▽変わり者ほどいい。意識改革の面でIターン者に期待している。専業農家を作らないことが定住対策だと思っている、▽自給プラスアルファの農家は昨今の米価値下がりの影響を受けない。小さい農業だから安定している、などとの考えもあるという。また、「移住の決め手は人」との話から、「自立とはどれだけ手助けしてくれる人をつくれるか」と指摘した。
田園回帰の意義と今後の課題を探ったシンポジウム パネルディスカッションには移住者たちを招いた。島根県邑南町の定住支援コーディネーターの横洲竜氏は広島市の出身で移住希望者への案内や移住者の相談・支援などを行っている。地元にずっと住んできた先輩たちに敬意をもって接することでふれあいのある懐かしい暮らしを若い世代も取り戻していることなど話した。
 岡山県の農村に家族で移住し米のインターネット販売を行っている須田元樹氏は、今は消防団や猟友会にも加わるようなった。稼ぐこと以外の仕事のゆとりが田舎ぐらしに必要などと話した。
 地域おこし隊として茨城県常陸太田市里見地区を拠点に地域づくりの会社を立ち上げた長島由佳氏は、もとは横浜で旅行会社に勤務。「仕事と暮らしが2分された生活だったが、田舎では暮らしと仕事とシゴトがある」と表現。シゴトとはお金にはならないが水路の清掃など地域の構成員として必要なことだと自分なりに発見したと話した。
 コーディネーターを務めた藤山浩氏(島根県立大学連携大学院教授)は「地域社会への関わり方のヒントが農山村にはある。田園回帰を日々の暮らしと別に論じるのでは意味がない」、自らの暮らし方の問題として都会でも考えるべき問題だと提起した。

(写真)
広井良典千葉大学教授、小田切徳美明治大学教授、大江正章コモンズ代表、田園回帰の意義と今後の課題を探ったシンポジウム

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