労働生産性の高い農業経営を展開 福島県の営農再開に向けた支援策 農林水産省2019年9月5日
農林水産省は9月3日、福島県の農林水産業の将来を見据えた復旧・復興に向けた取り組みについて、3月以降、省内で検討を行うとともに、地元福島県やJA福島中央会、被災12市町村長とも意見交換を実施し、共同で取りまとめた「福島県の農林水産業の復旧・復興に向けて」を公表した。
原子力被災12市町村の営農再開に向けて、福島県営農再開支援事業、被災地域農業復興総合支援事業、原子力被災12市町村農業者支援事業により、農業関連インフラの復旧、除染後農地等の保全管理から作付実証、農業用機械・施設等の導入支援、新たな農業への転換まで、一連の取り組みを実施し支援してきた。しかし、原子力被災12市町村の営農休止面積1万7298ha(帰還困難区域2040haを含む)のうち、営農再開面積は、約25%の4345haに留まっている(表参照)。
また、避難指示解除の時期により、営農再開率に格差が生まれ、2極化が進んでいる。営農再開割合の高い市町村は、人・農地プランの作成や農業委員会の活動が進んでいる。一方で、営農再開割合の低い市町村は、人・農地プランの作成や農業委員会の活動など農業振興のベースが不足しており、集中的に対策を講じる必要があるという。
【原子力被災12市町村の営農再開状況】

◆営農再開意欲にも大きな差が
12市町村の農業者の営農再開状況および意向を見ると、認定農業者は、既に多くの人が営農再開(61.7%)しており、加えて営農再開の意向がある農業者(23.4%)も多く、合計で85%に上る。
一方で、認定農業者以外の農業者は、多くが営農再開未定または再開意向なし(60.3%)となっており、担い手の確保が極めて重要な課題となっている(グラフ参照)。
営農休止面積1万7298haから、帰還困難区域(約2040ha)と農地転用(約1440ha)を除いた約1万4000haのうち、約半数は、農地復旧・整備が実施・検討されている。しかし元住民の帰還率の低い、農地復旧・整備を検討中の地域では実施に向けた調整が課題となっている。帰還率が低い約7000haのうち基盤整備が未実施の条件の悪い農地では、不在地主化が進み営農再開が課題となっているが、整備済みの農地であっても、将来の営農展開に合わせた再整備が必要となることもあるという。
【原子力被災12市町村の農業者の営農再開状況及び意向】

◆最先端技術を活用
こうした中で、農水省は、福島県やJA福島中央会との意見交換を実施し、課題やニーズを把握するとともに、12市町村を東北農政局が巡回し、各首長などと意見交換を実施し、地元の課題やニーズを細かく把握した。
福島県およびJA福島中央会はともに、現行の帰還事業の継続は必須であり、「第一に地元の担い手育成、次に外部(法人を含めて)の担い手の参入が必要」との意見だった。また、「市町村行政に農業の専門家が不足しておりサポート体制の構築が必須であること」「農業者に対して、具体的なビジョンやモデルを示すことが必要で、広域ビジョン作成などの横連携も必要」「双葉地区は特に、兼業農家数が多く、農地の集積や担い手の確保が重要」などといった具体的な意見も出された。
このような取り組みを踏まえてまとめた、「福島県の農業の未来に向けて」では、最先端の技術を活用し、大規模で労働生産性の著しく高い農業経営(土地利用型農業、管理型農業)を展開していくとした。また、現地に営農再開推進チームを設置するなど、人的体制の強化などを推進するとしている。
◆農業の復旧・復興の考え方を明示
「福島県の農業の未来に向けて」の概要は次のとおり。
○大規模で生産性の著しく高い農業経営の展開
これまで行ってきた被災農業者への支援などによって、引き続き営農再開を推進する。加えて、担い手不足が顕著、不在地主化が進んでいる条件の悪い農地、農業労働力の確保が困難な中であっても、大規模で労働生産性の著しく高い農業経営(土地利用型農業、管理型農業)を展開する必要がある。
こうした農業経営の展開に向けては、一筆一筆の土地利用調整が必須となる。このため関係機関が連携してチームを編成し、各市町村における地域の農業ビジョンなどの作成を支援する。
「土地利用型農業」については、生産から加工に至るまで機械・施設の整備を支援し、企業による営農再開もその対象とする。またロボットトラクタ、収穫コンバインなどのICTを活用した農業の実現に取り組む。
「管理型農業」については、自動で、温度、CO2、水分などを管理できるICTを活用した、風評にも強い施設園芸のような農業に取り組む。
○広域的な産地の将来像と推進チーム
12市町村には、土地利用型農業(加工業務用野菜など)が展開しやすい平野部エリアと管理型農業(施設花き、果樹、畜産など)による高収益化の展開が必要な中山間エリアが存在する。
こうした地理的条件を踏まえつつ、国は、国内で供給拡大が求められている品目について、高付加価値化が可能な産地の将来像(12市町村高収益化産地構想)を策定し、福島県、JA、市町村に提案し、市町村が行う営農ビジョン策定などに貢献することを検討する。 そのためには、地域の農業ビジョン、人・農地プランなどの土地利用調整が必須となる、このため、農水省、福島県、市町村、福島相双復興推進機構(復興推進機構)、JAが連携する必要がある。また、市町村を超えた広域的な高付加価値化産地の将来像の作成が必要である。
このため、農水省担当職員などによる営農再開推進チームを編成し支援する。
○将来の担い手確保
将来の担い手の確保については、地域の実情を良く見極め、これまで行ってきた被災農業者への支援などによって引き続き営農再開を推進する。その上で、外部からの担い手の参入を考える必要がある。
外部の参入も含め、営農再開を進めていくためには、区画の整形、排水条件の改善などの基盤整備と農地の集積が重要である。このため、市町村、農業員会、JA、復興推進機構などが連携し、農地所有者に一筆ごとに農地の利用意向を把握し、営農再開を望む農業者への農地集積など支援を行う。
また、農地集積と大規模化に向けた必要な制度改正などについて検討する。
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