生乳取引の実態調査求める-規制改革答申 農業主要部分2021年6月2日
規制改革推進会議の6月1日の答申では牛乳・乳製品の生産・流通に関する規制改革について「依然として指定生乳生産者団体」による実質的な独占が継続されている」と見方に立ち、取引の自由度を増やしていくための実態調査の実施を農林水産省に求めるなどの実施事項を盛り込んだ。また、農業法人(農地所有適格法人)への企業の出資については、トーンダウンしたものの農村現場の懸念払拭措置を講じたうえで出資による資金調達を柔軟に行えるようにする、と答申している。農業関係の答申の主要部分を掲載する。
【規制改革推進会議の答申(農業関係抜粋)】
(1)農協及び漁協における独占禁止法に違反する行為の根絶に向けた取組
ア 農協における独占禁止法に違反する行為への対応
【令和3年度措置、それ以降継続的に措置】
<基本的考え方>
農業者及び漁業者が減少する中、農林水産業の成長産業化のためには、農業者及び漁業者がインターネット販売を駆使する等、創意工夫を発揮し、所得の向上を図ることができる環境を整備することが重要である。現在のコロナ禍において、その重要性はますます高まっている。そうした創意工夫の発揮を不公正な取引が阻害してはならない。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)を始めとした法令の遵守体制の構築は、コンプライアンスがビジネスの大前提であるとともに、その環境整備として極めて重要である。
独占禁止法は、「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」を目的としている(独占禁止法第1条)。農林水産分野においても、これを遵守し、適切な競争を確保することにより、産業が活性化し、農業者及び漁業者の所得の向上を図ることが可能となる。
この点に関し、農業協同組合(以下「農協」という。)、漁業協同組合(以下「漁協」という。)ともに、独占禁止法に関する法令遵守体制の構築はいまだ十分とは言えない状態にある。農協や漁協の行為のうち、共同購入、共同販売等については、組織の目的に照らし独占禁止法の適用が除外されているが、不公正な取引方法を用いる場合や一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には、独占禁止法違反となることを改めて心得ておくべきである。
まず、農協については、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づき自主的に設立された協同組合であり、小規模な事業者である農業者が相互扶助によって、共同販売による交渉力の強化、経営効率の向上や生活の改善を図るとともに、その組合員のために最大の奉仕をすることを目的としている。農業者による農協への加入・脱退が自由であることはもちろん、組合員が、農薬、肥料、飼料、農業機械等の生産資材を購入したり、組合員が生産した農畜産物を出荷したりする際に農協の事業を利用するか否かは組合員の自由意思に委ねられている。
このため、農協が組合員に対して農協の事業の利用を強制することは、そもそも農協制度の趣旨に反するものであるが、さらに、組合員の自由かつ自主的な判断による取引を妨げることや、農協と競争関係にある商系事業者等の取引の機会を奪うことなどを通じて、農業分野における競争に悪影響を及ぼすことにもなる。
平成28年6月の規制改革実施計画に記載された「公正かつ自由な競争を確保するための方策の実施」に基づき、「農業分野タスクフォース」を通じ、農業分野における独占禁止法違反の取締りの強化を図るとともに、独占禁止法違反の防止の取組が実施されてきたところであるが、あきた北農協(令和元年警告)、大分県農協(平成30年排除措置命令)、土佐あき農協(平成29年排除措置命令)及び阿寒農協(平成29年注意)など、近年でも法的措置や警告・注意を受ける事案がある。
特に、酪農分野においては、農協系統から独占禁止法に違反する可能性のある行為を受けるおそれから、生乳の出荷先や調達先を選択する自由が実質的に制限されているとの声がある。酪農家を始めとする農業者や中小の乳業メーカー等が不要な萎縮をすることがないようにする必要がある。
このような事案の発生は、組合員への背信行為であるばかりでなく、近年の企業不祥事に対する国民の厳しい視線に鑑みても、農協系統組織全体に対する国民の信用を失墜させ、農産物の販売等にまで影響が及ぶおそれがあり、組合員の利益や組合の社会的信用に関わる重大な問題である。
その問題の重大性を踏まえれば、農業の成長産業化のため、独占禁止法違反の行為はもとより、そのおそれのある行為についても根絶するべきである。
そのため、公正取引委員会は、独占禁止法に違反する疑いのある事案について、積極的に実態を調査し、その是正を図ることが重要である。また、農林水産省は、農協の本来の機能や役割が効率的・効果的に発揮されるよう、経営の健全化や法令遵守体制の確保に向けた自主的な取組を促進し、必要な場合には法に基づく監督を適時適切に行う責任を有していることから、都道府県とともに、そうした事案の発生を未然に防止し、その責任を完遂すべく集中的な取組を行うべきである。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。
<実施事項>
a 農林水産省は、都道府県等と連携し、酪農家や乳業メーカー、チーズ工房等を対象として、全国的に生乳取引に関する実態調査を行う。調査結果を踏まえ、課題分析を行い、不公正な取引を防止する取組を行う。
b 農林水産省は、全国組織がリーダーシップを発揮し、農協の自主的な行動を引き出すよう、全国組織を指導するとともに、都道府県と連携して、農協が独占禁止法に違反する行為及び独占禁止法に違反するおそれのある行為を行わないことを表明し、独占禁止法を遵守するよう、農協を指導する。また、農林水産省は、農協の取組状況を毎年調査し、その結果を公表する。特に、酪農分野では、酪農家に対する優越的地位の濫用や乳業メーカー等に対する不公正な取引方法及び販売先の事業活動に対する不当な拘束を行わないことなど、農協及び指定生乳生産者団体が独占禁止法の遵法に向けて、自主的な行動を行うように指導する。
c 農林水産省は、公正取引委員会や都道府県と連携して、農協系統組織の役職員に研修等を行い、その浸透度合いを適切かつ定量的に評価するなど、独占禁止法の違反又は独占禁止法に違反するおそれのある行為を根絶するための集中的な措置を講ずる。
d 公正取引委員会は、酪農分野に係る独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に、「農業分野タスクフォース」を通じ、効率的な調査を実施し、必要に応じて効果的な是正措置を実施・公表することで、酪農分野における独占禁止法違反の取締りの強化を図る。
(2)若者の農業参入、経営継承の推進、農業経営の法人化等に関する課題
【令和3年度検討・結論、結論を得次第順次措置】
<基本的考え方>
高齢化と人口減少が本格化する中、基幹的農業従事者数は平成7年の256万人からおよそ半減し、令和2年には136万人まで減少した。また65歳以上が94.9万人(70%)を占める一方で、49歳以下はわずか14.7万人(11%)にとどまっている。
今後、生産基盤としての農地を持続性をもって最大限利用していくためには、担い手の確保と育成が課題であり、地域外や農業分野以外からも広く担い手を探していく必要がある。
とりわけ、将来の地域農業を担う若い就農者の確保・育成は重要課題であり、意欲ある多様な若者を農業に呼び込むためには、若者の農業に対するイメージを刷新し、魅力的なビジネスであることを情報発信していくべきである。新規就農者の多くは、農地の確保、資金の確保、技術の習得などの課題を抱えており、就農準備段階や就農後において、総合的なサポートを希望する声がある。就農者一人一人のニーズに合わせ、きめ細かくワンストップでの支援を行うべきである。
今後、離農に伴い増加する農地はもとより、農地以外の施設等の経営資源も、次世代に円滑に承継し、有効活用していくことが重要である。施設等の経営資源を、地域内外の受け手に円滑に引き継ぐには、技術・ノウハウ、販路等も含め、移譲者と継承者の十分な調整が必要である。地域を超えた人材のマッチングや関係団体によるサポートなど、第三者継承・家族継承を計画的に進めるための仕組みや支援体制の整備が求められる。
また、農業の収益性を高め、魅力的なビジネスとしていくためには、農家への経営管理の浸透が重要である。家族経営体としての一戸一法人は他法人と区別せず法人経営体として取り扱うべきであるが、一戸一法人の数は、平成12年の7914法人から平成27年の4301法人まで減少傾向にあり、農業経営の法人化を推進することなどで、経営感覚を持った農業者の育成を急ぐべきである。令和5年5万法人という法人化目標の達成に向けては、その推進体制や農業経営相談所等による支援方法を見直すなど、取組を強化していくことが求められる。
<実施事項>
a 農林水産省は、農業ビジネスの魅力の発信等を通じた若者の農業に対するイメージの刷新、世代交代を機とした継承者への就農支援など、多様な主体と連携して若者を農業に呼び込むための施策や体制を構築する。
b 農林水産省は、全国レベルでの就農希望者のためのマッチング(例えば、移譲希望者の情報の集約・一覧化による実施、地域・生産品目の分類等に即した実施)や関係機関による継承時のサポート(例えば、法的手続の支援)など、第三者継承等を計画的に進めるための仕組みや支援体制を整備する。
c 農林水産省は、経営感覚を持った意欲ある農業者を育成するため、農業者の経営管理能力の向上のための取組を充実させるとともに、ターゲットを明確にした上での関係機関による農業経営の法人化の積極的な働きかけ等推進体制を見直す。
d 農林水産省は、農業経営の法人化に関する実績管理において、一戸一法人の扱いを変更することを踏まえ、過去比較する際の統計上の扱いや目標達成の評価方法を整理する。
(3)農業者の成長段階に応じた資金調達の円滑化
【令和4年措置】
<基本的考え方>
農業従事者数の減少による農業の存続自身が危ぶまれる中、持続的な農地利用、地域経済の活性化、農業所得の向上を実現していくためには、意欲ある若者を惹きつけ、農業の多様な担い手を確保することが必要不可欠である。
そのためには、農業者が広域的な活動や6次産業化等の経営の多角化、輸出等の国際展開、スマート農業などのハイテクノロジー化等を通じて農産物の付加価値・生産性の向上を達成できるよう、その成長段階に応じて必要な資金調達を円滑に行うことができる環境が整備され、将来の展望を見通しながら農業経営を進められる魅力のある産業として、農業の成長産業化に取り組み、農業のイメージを変えていくことが重要である。
資金調達は融資、出資等多様な手段が存在するが、現在は融資が中心的に活用されている。一方で、出資に関しては、農地法(昭和27年法律第229号)第2条第3項において、農地所有適格法人としての要件が規定されており、株式会社のうち会社法(平成17年法律第86号)上の公開会社は農地を所有することが認められておらず(法人形態要件)、総議決権の過半を農業関係者が保有しなければならない(議決権要件)などの規制がある。
意欲的な若者による農業ベンチャー等の更なる成長や、事業の拡大を企図する農業者が自ら望む場合に、資金調達手段を柔軟に選択できるようにするため、法人設立時には一定の制限を設ける場合であっても、一定期間ある地域に溶け込み、農業で実績を残した法人に対して、出資による資金調達が柔軟に行うことができるようにすることが必要である。
<実施事項>
農林水産省は、地域に根差した農地所有適格法人が、地元の信頼を得ながら実績をあげ、さらに農業の成長産業化に取り組もうとする場合、農業関係者による農地等に係る決定権の確保や農村現場の懸念払拭措置を講じた上で、出資による資金調達を柔軟に行えるようにする。
(4)農協改革の着実な推進
【令和3年度以降順次措置】
<基本的考え方>
農協改革については、「農協改革集中推進期間」の終了後も引き続き自己改革が進められているところであるが、人口減少・高齢化の進展、それに伴う農業生産基盤の弱体化の恐れ、SDGsや環境変化に対する関心の高まり、コロナ禍を契機とした消費行動の急激な変化、デジタル化やフィンテックの進展、異業種の金融業への参入、超低金利環境の継続、地域金融機関の経営統合・再編や異業種との提携と農業分野への参入といった農協を取り巻く経済社会環境が大きく変化しており、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化という基本目標を達成するため、自己改革の取組を行ったことに満足するのではなく、その取組を具体的な成果につなげていかなければならない。
経済事業については、農業者の所得向上のために価格交渉力を確保しつつ、買取販売やEコマースの活用を含む直接販売の強化、生産資材価格の引下げ等の更なる取組が必要である。また、取組が農業者の所得向上につながっているのかについて、定量的な把握が必要である。このため、売上増加や費用低減に必要な取組及びKPI・成果目標を定め、取組を着実に実行することが必要である。加えて、目標達成には、目指す姿に向けたシナリオに即して、ロジックツリーとして、実施主体(全体・部門・階層等)毎に、相互に重複せず、全体として漏れがない形で、質の高いKPIを設定する必要がある。さらに、改革の成果に対する組合員の評価を把握し、新たな取組に効果的につなげていくことも重要である。
また、信用事業については、あくまで本業である農業への貢献を基本とした自己改革を各単協やJAバンクが検討し、金融業界における「破壊的」といっても過言ではない変化のスピードを踏まえ、必要な取組を迅速に実施する必要がある。その際には既存の体制・資源に基づいた取組のみならず、ビジネスモデルとガバナンスの同時改革、リスク管理体制の強化、デジタル化への対応や外部人材の活用などの構造改革を行うことが重要である。
そもそも、農協は、農業が本業であって金融は副業であるということを忘れることなく、事業全体の優先順位やバランスを引き続きしっかり考えていく必要がある。
その中で、農協の在り方についても、引き続き検討していくべきである。
これらの課題に対しては、農協及び全国組織による自己改革を前提としながら、農林水産省としても、KPI・成果目標等について、各農協が農業所得とのつながりが見える多数の類型等から複数設定できる枠組みを構築する等、改革に自律的に取り組み続けられる枠組みを構築する必要がある。また、農協のKPI・成果目標、中長期のシミュレーションや経営戦略、JAバンク中期戦略、農林中央金庫(以下「農林中金」という。)の経営計画、准組合員の事業利用の方針や状況等についても、提出を受けて、海外のベンチマークなども参考に、検証等を行う等、自己改革の継続的な実施を担保するための仕組みを構築することも重要である。
<実施事項>
a 農林水産省は、農協において、組合員との対話を通じて自己改革を実践していくため、以下の自己改革実践サイクルが構築され、これを前提として、農林水産省(都道府県)が指導・監督等を行う仕組みを構築する。
(1)農協において、次の方針等を策定し、組合員との徹底的な対話を行い、総会で決定する。
(ⅰ) 自己改革を実践するための具体的な方針(信用事業に過度に依存するのではなく、経済事業の黒字化を図ることも目指し、それぞれの農協が置かれている事業環境に応じて、農業者の所得向上につながる実績を判断するためのKPI等の目標を質の高い形で設定しつつ、農業者の所得向上に取り組むための具体的な行動内容等を定める)
(ⅱ) 中長期の収支見通しについてのシミュレーション(農業者の所得向上に取り組むべく、健全で持続性のある経営を確保する観点から、経済事業はもちろん、全ての事業について将来の見通しを作成する)
(ⅲ) 准組合員の意思反映及び事業利用についての方針(准組合員の意思反映に関する仕組みを明確化するとともに、事業利用について、組合員が具体的な利用状況を把握した上で、農業者の所得向上を図るとの農協改革の原点に立って判断するものとして定める)
(2)農協は、(1)の方針等や事業計画等に基づいて、自己改革のための具体的アクションを実行する。
(3)農協は、毎年、自己改革の実績や取組状況等について、(1)の方針等との比較・分析を含め、組合員に丁寧に説明するとともに、組合員の評価と意向を踏まえ、更なる改革の取組のため、事業計画への反映や方針等の修正等を行う。
(4)この一連のプロセスを毎年継続して実施していく。
b 農林水産省は、全国組織において、農協がaの(1)の方針等を策定するに当たって助言、優良事例の横展開等を図るとともに、自ら生産資材価格、輸出、他業種連携、販売網の拡大等の農業者の所得向上のための改革を実施し、これらを通じ、農協に対する支援等を行うための仕組みを構築する。
c 農林水産省は、aの(1)の方針等の作成に当たっての助言、(2)の具体的アクションのヒアリング等を行いつつ、毎年、自己改革の実績等について報告を求め、進捗状況、収支状況等を把握し、農協や全国組織における取組の加速化・見直し等が求められる場合には、自律的な改革の継続・強化や経営の健全性・持続性の確保等の観点から、農協改革の原点に立って、必要な措置を検討・実施する。
d 農林水産省は、JAバンクにおいて、以下の自己改革実践サイクルが構築され、これを前提として、農林水産省(都道府県)が、金融庁と連携し、指導・監督等を行う仕組みを構築する。
(1)JAバンクとして、農業者向けの事業融資の強化や関連産業への投融資等に向けて、中長期的な戦略を策定する。
(2)これを踏まえ、農林中金、信農連、農協において、それぞれ、農業・関連産業向けの投融資活動等について目標を設定し、具体的な行動内容等を定める個別計画を策定する。
(3)その個別計画に基づき具体的アクションを実行し、その実績や取組状況について、中長期的な戦略等との比較・分析を含め、組合員等に丁寧に説明し、更なる活動等を進めるため、個別計画への反映を行う。
(4)農林中金において、金融環境の急速な変化に対応できる態勢を強化するとともに、農協から実績や取組状況の定期的な報告を求め、農協に対して融資の審査等に必要な貸出システムの導入といった支援や目標達成のために必要な助言等を行う。
e 農林水産省は、dの(1)の中長期的な戦略の作成に当たっての助言、(3)の具体的アクションのヒアリング等を行いつつ、JAバンクに対し、農業・関連産業向けの投融資の実績について報告を求め、進捗状況等を把握し、見直し等が求められる場合には、必要な措置を検討・実施する。
(10)畜産業に関する規制改革
ア 牛乳・乳製品の生産・流通に関する規制改革
【令和3年度措置】
<基本的考え方>
酪農家が生乳の出荷先等を自由に選べる環境を実現するため、指定生乳生産者団体制度の是非や現行の補給金の交付対象の在り方を含めた抜本的改革として、畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律改正(平成30年4月施行)がなされた。
その結果、生産者補給金等の交付対象が指定生乳生産者団体以外に出荷される加工原料乳にも拡大し、酪農家の出荷先の選択肢を拡大し、付加価値を高めた牛乳乳製品の開発製造、販売などの酪農家の創意工夫を生かせる環境が整備された。
しかしながら、生乳の流通において、制度的な独占は解除されたが、依然として、指定生乳生産者団体による実質的な独占が継続されている。指定生乳生産者団体とそれ以外の事業者に圧倒的な規模の違いがある中で、取引先を自由に選べるような取組が必要である。また、取引の自由度を実際に増やしていくためには、生乳取引の実態を調査し、公正な取引環境の整備に向けた更なる取組を検討する必要がある。
さらに、農林水産省が作成した、農協が受託販売を拒否できることを示した資料が酪農家の自由な取引を委縮させているとの声や、農林水産省が指定する地域ブロック外の工場で中間生産物を加工した場合や別会社に中間生産物から最終製品への製造を委託した場合に、生産者補給金等の対象とならない運用がなされており、実態に即していないとの声があり、改善が必要である。
<実施事項>
a 農林水産省は、都道府県等と連携し、全国的に生乳取引の実態調査を行い、必要な措置を講ずる。特に、実態調査も踏まえ、生乳流通業者が農協系統か系統外であるかに関わらず、酪農家や乳業メーカー、チーズ工房等が取引先を自由に選べるよう、生乳取引に係るガイドラインを作成するなど、取引の透明化の向上などの運用改善を行う。さらに、乳業メーカー等が農協系統と系統外の双方の生乳の取扱いを公平に行うよう指導する。
b 農林水産省は、酪農家が自由な取引を萎縮することがないように、「指定事業者が生乳取引を拒否できるルール違反の事例集」を見直す。また、制度改正の趣旨を周知徹底する。
c 農林水産省は、生産者補給金等における加工原料乳の数量算出において、その算出に係るブロック地域の考え方について、全国を一つのブロックとして扱うこと及び別会社に中間生産物から最終製品への製造を委託した場合に一つの乳業工場で製造したこととして扱うことができるよう、必要な制度改正を行う。
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