【農協研究会 研究大会】報告(3):令和の米騒動と水田政策の課題 JAいわて中央・佐々木雅博組合長2025年6月2日
5月31日に開かれた農協研究会の研究大会で、JAいわて中央の佐々木雅博代表理事組合長が「農協からみた新基本計画―令和の米騒動と水田政策の見直し」をテーマに報告した。以下はその要旨である。
「安く」「安く」一辺倒の米問題報道では困ると話すJAいわて中央の佐々木雅博代表理事組合長(左)。
隣は安藤光義東京大学大学院教授
北上川沿いに広がる水田 JAいわて中央の紹介
1999年、3JAが合併して発足したJAいわて中央は岩手県のほぼ中央に位置し、奥羽山系と北上山系にはさまれ北上川が流れる肥沃な大地に水田が広がる。水稲のほか、野菜、果樹、畜産などを生産している。管内(盛岡市、紫波町、矢巾町)の人口は33.7万人で基幹的農業従事者は5468人だが、うち80%が60歳以上になる。
発足時と2024年との販売事業の規模を比べると、米穀が42%減、野菜が36.1%減、果実が21.5%減、畜産が56.7%減などで麦・雑穀だけは233%増だ(販売高全体では42.2%減)。組合員資本は増えているがほとんどは利益剰余金の積み上げによるもので、正組合員の減少に伴い出資金は減っている。
リンゴ輸出伸びたが課題も
新基本計画では輸出を重視している。当JAも年2.18トンから始まったリンゴ輸出が近年には50トンになるなど輸出が伸びてきたが、昨年は国内需要が堅調だったので輸出は38トンに減った。アメリカ、カナダ向けは独自の選果が必要なこともあり、生産者にはそれほどの還元はない。
トランプ政権には毅然と
5月13日には、岩手県農協中央会と岩手県農政連で、鈴木俊一自民党総務会長に「農業構造転換集中対策期間における別枠予算の確保等にかかる要請」を行った。内容は①食料安全保障の確保に向けた基本法及び基本計画の実効性の確保、②生産基盤の強化に向けた共同利用施設の整備・更新、③多様な農業者への支援、圃場の大区画化やスマート農業技術の利用促進、④将来にわたる生産基盤の確立に向けた新たな水田・畑作政策の実現、⑤米の生産・流通の安定に向けた対策、⑥米国の関税措置にかかる日米協議における毅然とした対応、である。
米の「増産」、簡単ではない
昨今、米の増産がいとも簡単にできるかのような報道があるが、種の確保に1年かかる。増産となれば、共同利用施設の増設など資本投下も必要になる。管内では転作で小麦、大豆を作っているが、水活の補償がなければ所得にならない。需要をこえて生産すれば価格が下がる。セーフティネットがなければ米価が下落し農業者が立ち行かなくなる。
昨年の作況指数は管内では107だったが、「そんなに取れていない」という農家がほとんどだ。統計と実態で収量が乖離しているので、需給・在庫の見通しにも誤差が出る。精緻な統計を出してほしい。
先祖代々の農地と食、守り抜く
私は東京農大を出て一度は北海道にわたったが、1982年に実家に戻った。当時は食管制度で米価闘争も体験した。1995年に食管制度が廃止され、以降は市場任せで低米価に苦しんできた。過度な自由主義経済と低米価に対策を講じてこなかった結果、「米騒動」が起きた。
食料安全保障の観点からこれまでの農政をしっかり総括してこそ、しっかりした政策につながる。新基本計画は「大規模化・低コスト化」が柱だが、「多様な担い手への支援、再生産可能な価格、所得補償」が重要だ。農業者は、先祖代々の農地を守り国民の食を守るべく努力していることを理解してほしい。
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