農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【座談会・与党議員に聞く】食料自給は国の責務 「田舎」守る政治を(2)2018年7月26日
地域を全体で見る政治に竹下
農地確保と生産性向上を根本
農業に国の支援は不可欠萬代
自民党は「本来の保守」に谷口
【出席者】
竹下亘・自民党総務会長・地域の農林水産業振興議員連盟会長
根本幸典・自民党衆議院議員
萬代宣雄氏・新世紀JA研究会名誉代表・前JAしまね組合長
谷口信和氏・東京大学名誉教授(司会)
世界の主要国の中で最低水準の食料自給率38%の日本。なぜか最近、国や政治家からも「食料自給」の声が聞かれない。地球的規模での気候変動や人口増のなかで、政権与党には、将来にわたって国民に対して安全な食料を、安定して確保する責任がある。自民党総務会長で、今年3月に発足し、現在100人近くの自民党議員を有する地域の農林水産業振興促進議員連盟会長の竹下亘氏、日本でトップクラスの園芸産地、愛知県選出の衆議院議員の根本幸典氏、それにJAサイドで新世紀JA研究会名誉代表(前JAしまね組合長)の萬代宣雄氏の3人に討論してもらった(司会は谷口信和・東京大学名誉教授)。JAcomでは3回に分けて掲載します。本日はその第2回。
◆生産性向上は限界
【竹下】ヨーロッパの主要国は80%前後の食料自給率を維持しています。それは、何度も戦争を繰り返し、食料不足の体験があるからです。しかし陸続きのヨーロッパと違い、海に囲まれた日本では危機感がなさすぎるのではないか。良い政策なのに、財務省は飼料用米の補助金を削ろうとしているのを見ても、そう思わざるをえません。
政府は農業競争力強化プログラムなどで、農業は生産性を高めるべきだ、高付加価値農業実現だと主張しています。しかし生産性の向上には限度があります。特に主食の米は、春の田植えから秋の収穫まで時間がかかり、一年一作です。工業製品とは違います。このことをいかに国民に理解していただくかが重要です。
一方で国の政策は〝猫の目農政〟と揶揄されていますが、まずこれを改める必要があります。歴史的な背景もありますが、経産省は産業、農水省は農業と、行政が縦割りになっています。消費者である国民のことを考えると、生産サイドも含めた国家のかたち、あり方を考えなければなりません。いまそのことを主張する役所がありません。これをわれわれ政治家がやらなければならないと痛感しています。
【根本】食料自給率を高めるには、農地と技術力をしっかり担保しなければなりません。飼料用米については、愛知県でもいつまで続くのかという不安の声を聞きます。飼料用米は養豚経営の人も喜んでいます。米を食べた豚はおいしいと好評です。従って、生産する農家にも、それを食べる消費者にも、そして養豚農家の経営にもいいのです。それを一つずつていねいに国民に伝えていくことが大事だと思います。
もう一つ、最近、外食・中食が増えていますが、それへの対応が十分にはできていないように思います。カットや冷凍などの技術は発達していますので、それを利用して、新しいニーズを掘り起こしていただきたい。
また小麦の輸入が増えていますが、愛知県ではきしめん・うどん向きの「きぬあかり」が普及しています。輸入原料に代えることができるとともに、これまで米中心のところに麦を栽培することで労働の繁閑を平準化できます。農業、農業者にプラスになることを、JAは農家と連携して進め、一つひとつ政策でフォローしていくことが食料自給率のアップにつながるのではないでしょうか。
(写真)根本幸典・自民党衆議院議員
【谷口】日本では食用米でも40年ほど前までに、長野県や青森県で10aあたり800kg超を記録したことがあります。その後、おいしい米づくりへの傾斜の中で、単収向上が背景に退きました。今日では専用種を利用すれば、飼料用米で単収1㌧取りも夢ではありません。
【萬代】民主党政権のときには自給率50%の目標を掲げました。それが45%に下がり、そして平成29年度の実績は38%です。言葉だけでなく、目標達成に向け、どうしたらできるかしっかりした政策を立てて取り組んでいただきたい。しかし、いま政府のやっていることは農協いじめであり、それも准組合員に利用規制をかけるといっています。そんなことでなく、JAを巻き込んで農業振興のための仕掛けを作り上げていかなければならない時です。
政治家が自らの責任で農業振興の方針を示さないと、具体的な施策が出てきません。日本の将来のことをしっかり考えてほしい。大臣がいくら言っても、役所の官僚たちが動かないのは、官邸が人事を握っているからでしょうが、これは問題だと思います。
◆本来の「保守」政党に
【谷口】自民党は近年、都市型政党に変質しつつあるように見えます。農山村や地域を大事にしない保守政党は、本来の保守ではないように思います。田舎汁粉(ぜんざい)と御前汁粉に例えると、どちらも汁粉ですが、田舎汁粉から御前汁粉はつくれても逆はできません。栄養や機能成分を含む皮を除いた御前汁粉が洗練されているという見方は昔のことです。つまり都市と農村は適切な相互依存関係にあるべきものだと考えます。
(写真)国土と国を守る水田と農村
神奈川県藤沢市は「水田農業保全事業」を行っています。県のエコファーマーまたは有機農業生産者を対象に、水田一平方mあたり50円、10aあたり5万円を交付する制度です。また神奈川県は、水源環境税を導入し、県民の水源である森を保護しています。同県は2006年に都市農業推進条例を制定しましたが、それは農地と農業を遺すことが子どもたちへの最大の贈り物だという考え方からです。
こうした取り組みには、やはり政治の役割が大きいのではないでしょうか。竹下会長の呼びかけで「地域の農林水産業振興議員連盟」ができました。どのような思いでつくられましたか。
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