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特集:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

2018.08.27 
【石破茂・衆議院議員に聞く】社会保障と6次化をキーワードに 農業・農村の発展を一覧へ

 8月8日に公表された食料自給率は昨年に続きカロリーベースで38%だった。弱体化した農業生産基盤をどう立て直すかは、食料安全保障の確立はもちろん農業の多面的機能の発揮による国土の維持、この国のかたちにとっても重要だ。
 今回は自民党総裁選に出馬を表明し、農林水産業の振興による地方創生を政策の基軸とすることを表明している石破茂衆議院議員に政治が取り組むべき課題を聞いた。(聞き手/谷口信和 東京大学名誉教授)

◆「自給力」を高める政策を 

 谷口 8月8日に平成29年度の食料自給率・概算が発表されました。カロリーベースが平成28年度と同じ38%で、平成5年度の「平成の米飢饉」の時に次いで史上二番目の低水準、生産額ベースは67%から2%低下して65%でした。引き上げようと努力しているなかで下がっているのは深刻なことだと思います。どのようにご覧になりましたか。

 

 石破 自給率は高めていかなければなりません。しかし、農水大臣のときから申し上げているように大切なのは自給力だと思っています。消費者の志向によっていくらでも数字が変わる、それを政策目標にしてはいけないということです。
 農業者がどれだけ人口構造的にサスティナブルであるか。基幹的農業従事者、後継者をきちんと確保できるか、人材の問題です。そして人口が急減するなかいかに農地を守っていくか。農業インフラをどう維持するか。 それから生産調整はなくなったということになっていますが、これから先、単収をいかに上げるか、糖度や肉質もいかに向上させるか、品種改良も必要です。つまり、世界がマーケットになるわけですから、そこに向けて日本農業のポテンシャルを最大にもっていくことが求められます。そうすると、そうしたクオリティというものは全部数字で出る。その実現をめざすということであって、自給率はあくまでその結果ですから、自給率のみに拘泥することなく自給力を高めることをメインに据えてほしいと思っています。

 

 谷口 そういう意味ではベーシックな取り組みが大事ですね。
 しかし、農水省は今年初めて「飼料自給率」(26%)を考慮しない食料自給率を参考として示しました。それだとカロリーベースは46%になって平成37年度の基本計画の目標45%を上回るということですが、農水省がこういう話をするのはどうなのかなと思います。

 

 石破 だからこそ、数字のみに拘泥せず、総合的な自給力を高めることを政策目標とすべきだと思うのです。いざという時の食料安全保障の観点からする議論と、これからの我が国の農業が目指すべき形を混同してしまいがちなのが「自給率」という言葉であり、現場の実感と乖離してしまっては目標の意味を失います。
 それから、これはかなり議論を呼ぶと思いますが、飼料用米政策をいつまでも続けるべきかということは議論されなければならないことだと思います。本当に畜産農家が望んでいる飼料とは何なのか。飼料用米に高い補助金を出していることが本当に自給力の向上につながってきたか。実際に現場の農家が望んでいることと政策目標に乖離がないかの検証はしなければなりません。

 

 谷口 私自身は飼料用米重視論者ですが、そういう冷静な議論が非常に大切で、そのうえでいったん取り組むと決めたら政策は変えないということが大事だと思います。今はそこが曖昧ですから、いつかは止めるのではないかと誰も彼も疑心暗鬼になってしまっています。

 

 石破 そうですね。どのような理由で、何を目標にして、いつまで行う政策なのかを明示する、そのための議論が必要だということですね。

 

◆国産農産物の意義 政治が消費者に語るべき

 谷口 他方、農業のなかでも最後の成長部門になりつつある畜産物は、需要が増大してもその多くは輸入増でカバーされ、国内生産の伸びが追いつかず、自給率が低下しています。輸出も重要ですが、もっと足下をしっかり見据えることも大切ではないかと思います。

 

石破茂・衆議院議員 石破 もちろんです。消費者に国産を選択していただくためには何が必要か、というマーケットオリエンテッドな視点も追求していかなければならないと思います。
 また、農相時代にスイスの農相と会談したことがありますが、スイス人はスイスの卵しか買わないのだそうです。なぜなら養鶏家がその地域を守っているのであり、それは国を守ることでもあり、その人たちの生活を消費者が支えるのは当たり前のことだという思想があるというわけです。あまりによくできた話なので、それは本当なのかと言いましたが、当たり前ではないかと言われました。 スイスのパンはなぜまずいかといえば、その年に収穫した小麦は使わず備蓄に回すからですね。スイスは男女とも徴兵制、どの家にも銃がある、というように自分たちのことは自分たちで守るという、全部に一貫した考え方があるわけです。安ければ外国のものを買うという考えはありません。
 日本でも一時、残留農薬の問題で中国の野菜などの輸入が減りましたが、すぐにもとに戻る。そこは消費者の意識です。農業があって農業者があって国が守られているということについても、もっと政治が消費者に対して語るべきだと思います。

 

◆求められる食料安全保障の哲学

toku1808270103.jpg 谷口 今年の農業白書でも食料安全保障が取り上げられています。しかし、農水省の食料安全保障論では不足時の安全保障は強調されていますが、平時の安全保障は弱い印象です。平時の対応ができていなくて不足時の食料安保ができるのかと思います。

 

 石破 この問題はフードセキュリティの概念が日本と国際的なスタンダードとの間にずれがあるとすると議論がかみ合わないと思います。国際的なフードセキュリティというのは、国民が食料にアクセスする機会がきちんと保たれているかということだと思います。そうすると輸入でもいいではないかという話になりますが、それが途絶えたらどうするかということは常に考えておかねばならないことです。わが国は太平洋戦争の敗因を引くまでもなく、昔から補給やロジスティックスを軽視する傾向があります。
 やはり国内における生産は可能な限り高めておかなければならない。いざとなったら米国が来るから大丈夫、というのが日本の安全保障の根幹にありますが、米国がやっていることで日本ができることは他にないのか、という議論がそこにはないわけです。輸入があるから、というのではなく、日本がそれに代わって生産できるものはあるはずではないかということです。防衛と農林水産をやってきてどちらも考え方はよく似ていると思います。

 

 谷口 非常に大事な視点だと思いますが、しかし、どうしてこうも農業生産基盤が弱体化してしまったのでしょうか。

 

 石破 たぶん米の自給を100%達成したときに、食管法を止めなければいけなかったのだと思います。しかし、食管法を維持し高関税で守り、そして生産調整をやってきた。それは日本農業のポテンシャルを崩していったのではないか。そういう議論を政治と農業サイド、学者も入れて、本当にこれでよかったのか、これから先は何が必要か、という国民的な議論をするべきだと思います。

 

 谷口 当時は誰もなかなか言い出すことができなかったのでしょうが、やはりがんばって作った人を支援するというのが政策の基本だろうと思います。そういう点の検証のうえにこれからどう考えていくかですね。

 

◆農山漁村振興の発想の大転換を

 谷口 農林水産業を守り発展させることは単なる産業振興ではなく農山漁村を始めとする地域を守り発展させることだと思います。どのような政策をお考えですか。

 

 石破 農村コミュニティをどうやって維持していくかは、人口が減少していくなかできわめて大事なことだと思っています。農村振興には産業政策と社会政策の両面がありますが、農業、農村がこれから果たすべき役割とは、社会保障政策との組み合わせと、6次化がキーワードになると思っています。
 農業に高齢者が参画することによって高齢者に活力が生まれ、生活習慣病や認知症など病気にならず、生きがいも出てくる。このようにこの国の医療、社会福祉も変わっていくと思うんです。あるいは障害者の方がその能力を最大限に発揮できる分野は農業にこそたくさんあると思っています。農業は社会福祉の大きな担い手になっていく。そういう考え方をもっと強く打ち出していかなければなりません。
 もうひとつの6次化については、先日、なるほど新しい視点だな、と思う話を聞きました。
 山梨の北杜市ではオリエンタルランドと連携してディズニーランドへ農産物を供給していますが、実はオリエンタルランドが考えているのは、今度は北杜市をディズニーランドにしようということだそうです。ディズニーランドには作り物の山や川があり、それはそれでおもしろいですが、本物の山、川、田んぼがあるところでディズニーランドのようなことはできないかということです。
 これはグリーンツーリズムとも共通する発想だと思いますが、農山漁村に「わくわく感」をつくるということは今までの発想にはないことです。6次産業化とはそういうことも含むのではないかと思いました。
 十勝の更別は、実は日本一外車の保有率が高い町だそうです。なぜかといえば広大なので日本のコンバインやトラクターが使えない。ランボルギーニなどの海外農機が導入されていて、それを見に行こうというツアーも始まっているということです。ですから農業・農村が社会福祉や観光、インバウンドの担い手となっていくという農村づくりはあるはずです。

 

 谷口 それは大切な視点ですし、伸びしろも大きいと思いますね。

 

 石破 実は農業は今まで生産性を高めることをしてこなかった。機械を導入して労働時間は減りましたが、その余剰の労働時間は建設業や誘致企業に振り向けられていったわけです。ですから農業そのものの生産性は上がらず、むしろ機械を買うことによって負担が増した。土地改良の負担金も本来、農業で利益を上げて返すべきものですが、実際は兼業で得た利益で返してきた。機械の費用も負担金も農外収入でまかなっていったということです。そこに根本的な問題があったのではないか。
 今こそ農業の力を最大限引き出すということについて国と農業者、JAが本当に本音の話をしていかないと解決しないと思います。

石破茂・衆議院議員(左)と聞き手の谷口信和・東京大学名誉教授

(写真)石破茂・衆議院議員(左)と聞き手の谷口信和・東京大学名誉教授

 

◆保守政党は政治の原点に戻るべき

 谷口 ところで自民党は都市型政党になりすぎてしまったのではないかと思います。もう少し地に足のついた考え方が議員に必要ではないかと思います。

 

 石破 もしかすると、現場を歩く人が減ったのかもしれません。私たちが議員になったころは本当に現場を歩いていたから、政策と現場の受け止め方はこんなに違うじゃないかという議論がありました。
 私も議員になるときに田中角栄先生から、歩いた人の数しか票は出ない、握った手の数しか票は出ないと言われ、選挙区は一軒残らず歩けと言われました。今から34年前の挨拶廻りはいちばん奥の集落から始め、だんだん街中に降りていった。本当に一軒ずつ農家や林家、漁家、そこの思いを自分が体現しているんだという自信を持ってこれまでやってきました。

 

 谷口 本来、政治とはそういうものですよね。

 

 石破 そうだと思います。しかし今はもしかすると、私は自民党公認です、アベノミクスは正しい、すばらしい外交実績です、などと言っていると当選してしまうのかもしれない。そうだとすれば、逆風が吹くとみんな落ちることになる。
 やはりきちんと地方の一軒一軒を回って、どこで誰が何を考え、何に悲しみ、何に怒り、何に喜んでいるかを知るべきだと思っています。そこが私の原点です。自民党は地域に根ざした政党であることを決して忘れるべきではないと思っています。
 

インタビューを終えて

 曖昧・寄らば大樹の陰・忖度。これが今日の政治家・官僚・財界人・スポーツマン・・・あらゆる日本社会のエリート達が毎日唱えねばならない呪文になってしまった▼そんな灰色の空に覆われた日本を"半分でも青く"しようと志をもって立ち上がった一人の保守政治家の姿を石破議員にみた▼食料自給率・飼料用米などの位置づけや評価で氏と私は微妙に異なっている。にもかかわらず、全く違和感なしにスムーズに対談を進められたのは、氏の農業・農村・地方に対する暖かいまなざしと冷静で客観的な分析力の首尾一貫性と透徹力に魅せられたからだろう▼農業・農村の6次産業化の話はまさに目から鱗が落ちるものだった。(谷口信和)

 

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