農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識 2017
【果樹カメムシ防除のポイント】飛来初期・低密度時に防除2017年7月11日
口木文孝佐賀県果樹試験場病害虫研究担当専門研究員
この時期は、果樹栽培で大きな被害をおよぼすカメムシ類の防除が、品質の良い果樹を出荷するために欠かせない。そこで、果樹カメムシ類防除のポイントを佐賀県果樹試験場の口木文孝氏にまとめていただいた。
果樹を加害するカメムシ類(以下、「果樹カメムシ類」と省略)の主な加害種は、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシの3種である。これらの成虫は4月から10月頃までの長期間にわたって果樹園へ飛来し、果実等を吸汁して被害が発生する。
果樹カメムシ類の発生量は餌となるヒノキおよびスギの毬果の結実量に応じて増減することと、年によって果樹園への飛来時期が異なることから、防除時期および防除要否は飛来状況を確認してから判断する必要がある。そのため、果樹園を頻繁に観察し、果樹園への飛来が確認されたらすぐ薬剤を散布するように努める。
◆果樹カメムシ類の発生生態
果樹カメムシ類は成虫で越冬する。チャバネアオカメムシは常緑樹の林床の落ち葉の中、ツヤアオカメムシは常緑樹のしげった葉の隙間、クサギカメムシは樹皮のすき間などが主な越冬場所である。春に活動を開始した成虫は、果樹を含む多くの樹木の果実や新梢等を吸汁する。
主に、6月下旬頃からヒノキやスギに移動して毬果を吸汁するとともに、雌成虫は毬果が結実した枝などに産卵する。幼虫はヒノキやスギ等の毬果の中の種子を餌として成長し、8月中旬頃から新成虫が発生する。そのため、ヒノキやスギの毬果の結実量が多い年には、8月中旬以降の果樹カメムシ類の発生量が多くなる。ヒノキおよびスギの毬果の中の種子が果樹カメムシ類によって吸い尽くされると餌として適さなくなり、ヒノキおよびスギから成虫の分散が始まる。
なお、果樹はチャバネアオカメムシやツヤアオカメムシの幼虫が成長するための餌としては不適であるが、クサギカメムシの幼虫は成虫まで発育できる。また、ツヤアオカメムシは、カンキツの樹上でも越冬するため、越冬していることに気付かないと収穫するまで被害が続くことになる。他にも、ミナミトゲヘリカメムシ、オオクモヘリカメムシ、クモヘリカメムシおよびマルカメムシなども果樹園へ飛来し、加害する。
(写真)カンキツを吸汁するチャバネアオカメムシ成虫
◆果樹カメムシ類による被害
果樹カメムシ類は、果実や新梢などに口針を刺して果汁および樹液などを吸汁する。吸汁されると、果実の変形や落果、果実腐敗などの原因となる。収穫時期の早い果樹、熟期の早い品種では、被害の発生が早いので注意する。
また、果樹カメムシ類は園外で成虫になり、果樹園へは飛来して侵入する。そのため、風の吹きあがる尾根沿いや風の通り道に位置する谷筋などの果樹園には、果樹カメムシ類が飛来しやすく、被害が大きくなる傾向が認められる。このような果樹園では、少発生の年であっても被害を受けることがあるので注意する。
◆果樹園への飛来時期を把握!
果樹カメムシ類は、果樹ではほとんど増殖しないため、山野等で増殖した成虫が果樹園へ飛来した後に被害は発生する。そのため、成虫が飛来するまでは薬剤を散布する必要は無く、果樹園への飛来を確認してから薬剤を散布することになる。
ただし、果樹カメムシ類は、雄が果樹園に飛来して定着すると、集合フェロモンを放出して次々に同種の仲間を呼び寄せてしまう。そのため、飛来初期に薬剤を散布しないと多数の成虫が飛来して生息密度が高くなり、被害が大きくなる。そこで、果樹園への飛来を的確に把握して、飛来初期の低密度時に防除を行うことが重要である。薬剤の散布時期が遅くなり、果樹園内での生息密度が高くなった場合には、薬剤を散布しても十分な防除効果が得られないこともあるので注意する。また、被害は果樹園全体に発生することもあるが、隅の方などに局部的に発生する場合には被害の発生に気付くのが遅くなることも多い。そのため、果樹園を日ごろからこまめに観察して、飛来の有無、飛来状況を把握する必要がある。
なお、今年は8月中旬以降の発生密度が高くなると予想されるため、園内への飛来に対する注意が必要である。また、果樹カメムシ類の発生量および果樹園への飛来時期の予想については、各県の'病害虫防除所'などが越冬調査、予察灯およびフェロモントラップ調査、ヒノキの毬果上の生息密度および口鞘数調査などを基にしてホームページなどで提供しているので参考にする。
(写真)カンキツを吸汁するツヤアオカメムシ成虫
◆果樹カメムシ類の防除対策
果樹カメムシ類の防除対策として、薬剤散布を行うことと、可能であれば防虫ネット、忌避灯の設置などを行う。
薬剤は、殺虫効果および吸汁阻害効果の高い合成ピレスロイド系殺虫剤のテルスターフロアブル、ロディー乳剤、MRジョーカー水和剤などやネオニコチノイド系殺虫剤のスタークル顆粒水溶剤、アルバリン顆粒水溶剤、ダントツ水溶剤など、殺虫効果の高い有機リン系殺虫剤のスミチオン乳剤などを散布する。
果樹カメムシ類による被害の防止には、まず、果樹園への飛来初期の低密度時に薬剤を散布して、新たな飛来を阻止することが重要である。
散布した薬剤の残効期間は薬剤ごとに異なり、ネオニコチノイド系殺虫剤および合成ピレスロイド系殺虫剤で10~14日間程度、有機リン系殺虫剤で1~2日程度である。薬剤散布後に雨が降ると薬剤の残効期間が短くなるので注意する。そのため、飛来が長期間続く場合および薬剤散布後にまとまった量の雨が降った場合は、再散布が必要となる。
なお、散布後に降雨が予想される場合には、薬剤の耐雨性が比較的高い合成ピレスロイド系殺虫剤を散布する。また、薬剤散布後であっても果樹カメムシ類の飛来・加害が再確認されたら、薬剤の効果が無くなったと判断して、薬剤を再散布する。一方、合成ピレスロイド系殺虫剤およびネオニコチノイド系殺虫剤を散布した後には、ハダニ類やカイガラムシ類が増加することがあるので、薬剤散布後はこれらの害虫の発生状況にも注意する。
(写真)果樹カメムシ類の吸汁被害を受け落果した温州ミカン果実
◆薬剤使用上のポイント
果樹カメムシ類の成虫は飛翔力が強く、広い範囲を飛び回っている。そのため、地域全体で一斉防除を実施することで、その地域における生息密度を低下させることができる、薬剤による防除効果を高めることができる。果樹カメムシ類による被害は10月頃まで続くため、収穫直前の果実では散布する薬剤の収穫前使用日数および使用回数などの安全使用基準に注意して散布する。
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