【読書の楽しみ】第16回2017年7月16日
◎三山喬
『国権と島と涙』
(朝日新聞出版、1620円)
沖縄の人々の苦難と思いを永年にわたり取材し続けた著者は、保守も革新も、左も右も関係なく沖縄の人々の心の奥へと入り込んで貴重なルポルタージュにまとめました。
だいたい沖縄では保守と革新といっても本土のそれとは根底から違った様相を呈していて、一筋縄ではいきません。超党派勢力である「オール沖縄」の存在がそのことを雄弁に物語っています。
本土の人々(ヤマトゥンチュ)の多くは沖縄の歴史も現実もほとんど知りません。まして若い人々には沖縄が「鉄の暴風」つまり砲弾の嵐にさらされたなどと言われてもほとんど理解しがたいでしょう。そして今、米軍基地の7割が沖縄に押し付けられています。どこまで沖縄県民(ウチナーンチュ)を苦しめればすむのか。
辺野古移転をめぐる人々の考え方や行動をはじめ、ここまでその肉声が聞ける、そして背景など知られざる事実を知ることができるという点で、屈指の書といえるでしょう。
沖縄に対する偏見や沖縄タイムス、琉球新報など現地メディアへの中傷など、沖縄の人権を侮辱するかのような動きを自信をもって否定していくためにもとても役に立つはずです。ルポですから当然ですが、臨場感あふれた文章が魅力です。
◎チューリップテレビ取材班
『富山市議はなぜ14人も辞めたのか』
(岩波書店、1944円)
議員報酬を不透明な審議の末にお手盛りで引き上げた富山市議会を取材していた地元の中小テレビ局。その記者たちが政治家とカネの問題に疑問を抱いたのは当然でした。そして政務活動費にからむ偽造領収書の闇に探りを入れていきます。
膨大な書類のコピーを一枚一枚、目を皿のようにして通常の仕事を済ませた夜ごと追究していく中で、自民党の大物議員に対する疑惑が深まっていく。証拠隠滅や口裏合わせなど議員側も必死です。
最後は野党の民政クラブ議員まで含め合計14人の議員が辞職するという大スキャンダル事件となります。その攻防がドキュメンタリータッチで描かれていくのですが、テレビならではの映像的な面白さもたっぷりです。
市役所の役人も議員を守ろうと画策する。森友や加計学園同様、議員と役人がお仲間になった時、メディアはいかにして政官連合軍に風穴を空けるか。これは一地方都市だけの問題ではありません。住民と自治の問題を考えていく上でも大いに参考になるはずです。
◎前野ウルド浩太郎
『バッタを倒しにアフリカへ』
(光文社新書、993円)
今、日本ではバッタは少ないですが、アフリカでは折にふれて大発生し、飢饉の原因になっているそうです。
本書は幼少時からファーブルにあこがれていたポスドク昆虫学者が就職もままならぬ中で、アフリカ西海岸のモーリタニアに滞在してサバクトビバッタの生態を探ろうとする3年間の記録です。
破天荒な研究生活(と自由奔放な私生活)の描写が378ページも続くのですが、ついつい時間がたつのを忘れてしまうほど面白い。軽いのりの文章でとても読みやすく、写真が多いので現地がよくわかります。
サービス精神たっぷりの本書から、読者は不屈の精神を与えてもらえるはず。「逆境はありがたい」というところでしょうか。
なお私事ながら昭和20年代初めイナゴ(つまりバッタ)を田んぼで捕まえては炒って食べたものでした。アフリカではなぜ貴重な蛋白源として食用にしないのかというささやかな疑問が残りました。
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