ジャパン・ワズ・ナンバーワン【小松泰信・地方の眼力】2021年7月7日
山陽新聞(6月26日付)の社会面に、「経産省キャリア給付金詐取容疑 警視庁2人逮捕」と「国会トイレで政府職員盗撮 経産省に重要参考人」の記事が並んでいた。あ~、またか。

若手官僚も後追い劣化
「苦境にあえぐ企業を支援する資金を、不正受給するとは言語道断」とする琉球新報(7月1日付)の社説は、「給付金は経産省の中小企業庁が所管する。支給する側が制度を悪用して税金を懐に入れた。資金繰りに苦しむ中小企業と国民に対する背信行為であり極めて悪質だ」として、「官僚の質の劣化を憂慮」している。
これらに加えて、総務省幹部が放送事業会社「東北新社」やNTTから受けていた接待問題、農林水産省幹部が鶏卵贈収賄事件の一方の主役である鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表から受けていた接待問題などを列挙し、「なぜ官僚の不祥事が続くのか」と自問する。
そして「安倍長期政権下で官邸主導のスタイルが定着したことが一因なのか。森友問題では、人事を握られた官僚が官邸の意向を忖度(そんたく)して、公文書を改ざんしたのではないかと取り沙汰された」と自答し、「国民の信頼を回復するため官僚組織の在り方を根本から見直す時期に来ている」ことを告げている。
「コロナ禍からの経済再生を先導するべき経済産業省が、まるで悪病に冒されたようなありさまだ」と表現しているのは河北新報(7月1日付)の社説。梶山弘志経産相が「国民におわび申し上げる。捜査に全面協力し、全容解明を踏まえて厳正に対処する」と陳謝したことを紹介する中で、その記者会見が「逮捕から3日後」であったことを記し、その遅さをチクリと刺している。
北海道新聞(7月2日付)の社説は「安倍晋三前政権では、経産省出身者が官邸の要職に就いて影響力を誇ってきた。『桜を見る会』をはじめ前政権下で目立った倫理観の欠如が、政官に広く及んでいる面もあるのではないか」と、トップの姿勢に言及している。
三菱電機の検査不正
今年創立100周年を迎えた三菱電機の長崎製作所における、鉄道車両向け空調機器の検査不正問題にも驚いた。
毎日新聞(7月1日)の関連記事から、事件の概要は次のようになる。
架空の検査データを算出するためのパソコンのプログラムを遅くとも1985年から使用し、プログラムで算出された架空の数値を検査成績書に記入し、検査したように装っていた。その前から、不正そのものが行われていた可能性もある。
全国の鉄道会社に車両用の空調機器を出荷しているほか、欧米の地下鉄や高速鉄道向けにも納入実績があるが、温度や湿度の制御、省エネ、防水、電圧変動への耐久性などの性能に関し、顧客の指定する方法で検査する契約を交わしていながら、実際は検査を省いたり、指定された方法とは異なる条件で検査したりしていた。
さらに、鉄道のドアの開閉やブレーキの操作で使われている空気圧縮機ユニットの一部でも検査不正があったことが明らかになった。これまでに約1000台を納入したが、今まで事故は確認されておらず、製品出荷前の別の検査では合格値を出していることなどから、「製品そのものの安全・機能・性能には問題がないことを確認している」としている。
しかし同紙は、「長年にわたって検査を軽んじてきたうえに、問題発覚後も説明を尽くさない三菱電機。事態が車両の安全に関わる問題にまで発展しつつある中、同社の信頼は失われる一方だ」と、怒りを隠さない。
落日の「ものづくりニッポン」
「三菱電機でまた不祥事が発覚した」で始まるのは、中国新聞(7月2日付)の社説。
ドア開閉やブレーキに使う空気圧縮機でも不正が判明したにもかかわらず、「安全性に問題ない」と説明する同社の姿勢に対して、「どうして問題ないと言えるのだろうか」と疑問を投げかける。そして、「車両のブレーキやドアなどは、乗客の安全にも直結する。利用者が安心できるだけの丁寧な情報発信」を要求する。
6月29日開催の株主総会で株主から「不祥事のデパート」などと厳しい言葉が飛んだ。
近年同社において「検査や品質試験のデータ偽装などが相次いでいた」ことに加えて、「14~17年に社員5人が長時間労働などで労災認定された。うち2人は過労自殺し、さらに19年にもパワハラで新入社員が自殺している」ことから、「株主軽視だけでなく、経営陣の責任感の欠如や企業統治への意識の低さが表れている」と、厳しく迫っている。
北海道新聞(7月3日付)の社説は、「近年は三菱自動車や日産自動車、神戸製鋼所など日本を代表するものづくり企業で品質や検査に関する不正が明らかになった。このままでは、すでに指摘されている国内製造業の地盤沈下に拍車がかかるばかりである。産業界全体が危機感を持つべきだ」と、わが国の「ものづくり企業」の劣化に危機感を示している。
南日本新聞(7月4日付)の社説も、「企業風土の改善が今後の焦点となる。内向きの価値観から脱却できなければ『ものづくり大国ニッポン』の信頼までもが損なわれかねない」と「ものづくり大国」の衰退を危惧している。
アズ(as)とワズ(was)とは大違い
これらの社説の危惧が杞憂ではないことを、作家・髙村薫氏が教えている(「サンデー毎日」7月18日号)。
髙村氏の旧知の外資系証券マンによれば、「直近の日本市場や為替市場の動きを見ていると、いよいよ日本が新興国の立ち位置に近づいてきたような印象だ」とのこと。そこから髙村氏は、「東京市場の振れ幅だけが異様に大きくなったり、円が新興国通貨に似た投機的な売り買いの対象になったりしている現状が示しているのは、日本が国としてもはや安定した成長を見込めず、長期的な投資対象ではなくなっているという厳しい事実である」と分析する。
戦後の日本経済の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価したアメリカの社会学者・エズラ F. ヴォーゲルによる『ジャパン・アズ・ナンバーワン: アメリカへの教訓』(TBSブリタニカ、1979年)は70万部を超えるベストセラーとなった。
ベストセラーには飛びつかないぞ、と無意味な意地を張り、手に取ることはなかったが、「アズ(as)」じゃなくて「ワズ(was)」じゃないのと茶化していたことだけは覚えている。
わが国をリードしているらしい経産省の、若き官僚らの犯罪と、ものづくり大国を支えてきたはずの企業が犯し続けていた不正は、わが国が後退国であることを象徴している。
今ならば、『ジャパン・ワズ・ナンバーワン』(邦訳「むかし、ニッポンはナンバーワンだったとさ」)でベストセラーかな。
「地方の眼力」なめんなよ
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