アナログ検査からデジタル検査に移行するメリットとは【熊野孝文・米マーケット情報】2022年8月18日
大きな目的の一つとして「現場の負担を軽減する」ことが掲げられ改正されたはずの農産物検査法。ところが実質初年度に当たる4年産米の検査が本格化する寸前に検査登録機関から「どうすれば良いのか分からない」、もしくは「これではますます我々の負担が大きくなる」と言う声が上がっている。農産物検査法の改正事項は多岐にわたるが、分かり易く言うとアナログ検査からデジタル検査への移行であり、それに伴う戸惑いや混乱は避けらないが、混乱を出来るだけ少なくするには手続きや書類を簡素化することがまず第一歩で、それなしにはデジタル化への移行は進まない。
4年産米の検査がもうすぐ始まる関東の検査登録機関から「未検査を銘柄表示するときの生産者からの申告はどうやっていますか?」という問い合わせがあった。
改正された「銘柄米の検査方法の見直し(鑑定方式の見直し)」では、「水稲うるち玄米の銘柄の検査について、現行の目視鑑定を必須とする方法を改め、農業者等から提出される種子の購入記録、栽培記録等の書類による審査する方法に見直す」とされ、4年産から適用される。見直し後は、農業者等からの資料の提出として①どのような種苗を用いて生産されたか分かる資料(種子の購入記録等)②全体の作付け状況及び品種ごとの作付状況がわかる資料(営農計画書等)③その他登録機関が必要と認める資料―となっている。
生産者からこうした書類が提出されれば、それを担保にして目視検査しなくても銘柄表示が出来るということになる。それではこれまで自家採種していた生産者はどのような書類を提出すれば良いのかと言う疑問が出て来る。これに対して農水省は検査改正のQ&Aで以下のように答えている。
「農業者が自家採種を行っている場合には①前年産及び当年産の品種ごとの作付状況が分かる資料・前年産(自家種採取時)の種子更新がわかる客観的資料(種子の購入伝票、DNA検査の結果)②自家採種に関する申告書<記載する内容>・当該種子を購入又は入手した産年・自家採種をしているほ場名・採取したほ場の収穫量(例:乾燥籾重量500kg-出荷籾換算200kg=自家種子利用数量300kg・当該年産の採取量など→〔登録検査機関が必要な書類により検査していただきたい〕」としている。
そもそも論としてこれまで検査を受けず未検査米としてコメを出荷して来た生産者が自家採種した種子の記録を残しているのかと言う問題がある。さらに言うと残していたにしてもそうした書類を検査登録機関に提出するのかということもある。ましてや検査登録機関が上記に示されたような書類を生産者から集めなければならないこと事態に無理がある。冒頭の検査登録機関が「他がどうしているのか?」と聞いてくるのもわかる。
今まで自家採種でコメを作って来た生産者が銘柄を担保するための申請書のひな型があっても良さそうなものだが、そうしたものはなく、検査登録機関は農家から確認出来る書類を提出してもらいそれをもとに確認書類とするしかない。
農産物検査法改正では、集荷業者の負担になることはこれ以外にもある。皆掛け重量が記載された旧玄米検査袋は使えなくなるが、これに対してコメの生産者で集荷業と検査登録機関を兼ねているところが、農水大臣に直談判したことがあり、この時は旧玄米検査袋の使用延期が認められた。こうしたケースもあるので、検査登録機関も負担が増すことがあったらまずは農水省に要請することも一手である。
ただし、アナログ検査からデジタル検査へ移行という大きな流れは変えられず、コメの検査はいずれ目視検査から機械検査になる。その際最も重要になるのは担保される"情報"で、その情報にはこれまでの検査では必要なかったことも加わる。このことをコメの販売促進に役立てようと取り組んでいるところもある。
大手コンビニベンダーにコメを納入している卸は、仕入部長自ら検査官の資格を取り、出来秋には穀粒判別器を産地に持ち込んで機械検査を行っている。検査項目は20項目もありそのデータを全て保存して仕入販売に役立てている。仕入れ面では目視検査で1等に格付けされたものであっても穀粒判別器で測定したデータでさらに仕分けして1等をAとBに仕分けして買取価格に差をつけている。格差を付けるだけではなく、自社が扱うコメの品位向上を糧に産米改良を行っているのだ。この狙いは自社のブランド米を作ることで、データで裏打ちされた品位であれば最終ユーザーの信頼が増すことは言うまでもない。
デジタル検査が進めばデータでブランド米を作ることも可能になるのである。
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