これまでの多国間経済連携協定と3極化の世界を振り返る (1)【近藤康男・TPPから見える風景】2024年2月22日
グローバル企業の巨大化・国境による規制・国際秩序の変化
一般に、グローバリゼーションは「人・モノ・カネ・情報が国境を越えて結びつき、世界の一体化が進むこと」とされている。しかし、規制の強弱に影響されるものの、グローバル企業は存在・拡大するが、グローバリゼーションは、実態を持つ社会経済的枠組みとは言い難い。
一方、巨大テック企業のGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple. Microsoft)はプラットフォーム企業として世界中に進出し、巨大化と利用者囲い込みを進めてきた。しかし、それでも国境・国家権力による規制は無制限なグローバル化に対する制約として存在している。
例えばEUは、デジタル市場法(2022年11月1日発効DMA)により巨大テック企業の拡大に一定の制約を掛けている。また、米国は半導体輸出規制を強化している(2018年制定輸出管理改革法ECRAに基づく輸出管理規則EAR制⇒2023年10月更に強化)。
2,000年代初頭以降の動きを類型的に挙げると、大枠、以下のように整理できる。
(1)先行して始まったTPPなど地域的あるいはスーパーリージョナルな多国間経済連携。
(2)多国間経済連携から、3極化した秩序の中での有志国同盟(フレンドシェアリング)への動き。
(3)グローバルサウスといわれる国々の緩やかなまとまり。
(4)経済連携とは少し異なるがEUやASEAN、そして2019年発効・21年から動き出したアフリカ大陸自由貿易圏、中露主導のユーラシア経済連合など。
(5)政治的、軍事的色合いを持つBRICS、AUKS,上海機構などの有志国同盟。
(6)現在進む、経済安保の目立つIPEFと、貿易を除く3分野へのインドの参加。
(7)"グロ-バルサウスG77グループ"は、中国を含むと既に世界貿易の7割に関与し(出所:国連貿易開発会議)、21世紀半ばにはG77グル-プのGDPが米国や中国を超えるともみられつつある(出所:三菱総研)。(2024年1月22日付日経新聞)。
上記の枠組のなかで最も翼を広げているのは、中国は勿論だが、意外にも日本かも知れない。そして経済連携の面で最も狭い枠組みにいるのは、米国とロシア、とも言えそうだ。そして、現在色濃くなってきているのが、経済安全保障という考え方だ。
日本が加わる、国境・規制の垣根を低くする多国間経済連携協定
CPTPP(TPP11)以降の日本が加わる多国間経済連携協定及び主要な2国間協定は以下の表の通りだ。2国間協定を含めると、2002年以降21件が発効・署名済で(IPEF供給網協定を含む)、他に交渉中のものが4件ある(2023年12月22日末現在。)
※TPP12 は2016年2月署名されたが、米国トランプ政権は2017年1月23日の大統領令署名で離脱した。
※外務省は、TPP12、 CPTPP、RCEP、日米貿易協定以外の略称は全て"EPA"とし、日本文の協定書での末尾は全て?協定"となっているので、以下の表もそれに準じて記すこととする。
各地域の多国間経済連携協定の例
世界の各地域にも、様々な経済連携協定と言える協定・連合がある。
・域内に原産地比率の壁を作る、北米自由貿易協定NAFTA(1992年)が衣替えした米国・メキシコ・カナダ間の経済連携協定USMCA(2018年)
・ブラジル・パラグァイ・ウルグァイ・ボリビア・アルゼンチン・ベネズェラのメルコスル MERCOSUR(2018年)
・米国とも協定全体としてつなげられたコスタリカ・エルサルバドル・グァテマラ・ホンジュラス・ニカラグァ・ドミニカ6ヶ国の中米自由貿易協定CAFTA(2004年)
などがある。
その外にも、規模の点で突出する、27ヶ国が参加する?共同体"としてのEUと2019年に54ヶ国が署名したアフリカ自由貿易圏がある。後者はアフリカ全体の自由貿易圏を目指して発足したが、まだごく一部の国で動き始めている段階に留まっている。
また、15年1月1日に発足したユーラシア経済連合があり、ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア・キルギス・モルドバ(オブザーバー)・ウズベキスタン(オブザ-バ-)・キューバ(オブザーバ-)が加盟している。ユーラシア経済連合は、発足年の5月に最初の自由貿易協定をベトナムと締結した。その後18年5月に中国と貿易経済協定を締結、23年12月にはそれまで暫定的な協定だったイランとの自由貿易協定が締結された。
ユーラシア経済連合も、基本的には経済連携を目指している。
◇
次回は、多国間経済連携協定の原型とも言えるTPP12の章の構成について振り返ってみたい。
重要な記事
最新の記事
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】酪農の地域循環圏の構築は可能か~全中・NHKフォーラムのために準備したQ&Aの概要2024年9月12日
-
外便所、外風呂【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第307回2024年9月12日
-
"IPEFクリ-ンな経済協定"にも本気度を感じられず 肝心の貿易分野は?【近藤康男・TPPから見える風景】2024年9月12日
-
【注意報】大豆、野菜類、花き類などにハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 岡山県2024年9月12日
-
【クローズアップ】どうする離農加速や飼料自給、制度欠陥 課題山積の新酪肉近論議開始 10月には酪農集中審議2024年9月12日
-
稲垣啓太・貴子夫妻がCM初共演『ごはんがおいしい幸せ』篇公開 JA全農にいがた2024年9月12日
-
鳥インフル 米アラスカ州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2024年9月12日
-
斑点米カメムシ類 多発のおそれ 令和6年度病害虫発生予報第7号 農水省2024年9月12日
-
ちぢみホウレンソウ栽培講習会 台風対策万全に JAおやま2024年9月12日
-
JA全農福島 24年産米の仮渡金(JA概算金)、会津産コシヒカリ1万6800円に2024年9月12日
-
横山優代表取締役取締役社長就任 クミアイ化学工業2024年9月12日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第101回2024年9月12日
-
日本育種学会で作物解析「フェノタイピング・サーベイシステム」展示 ナイルワークス2024年9月12日
-
根こぶ病抵抗性のハクサイ新品種を開発 成果を紹介 生研支援センター2024年9月12日
-
J-クレジット創出プロジェクト開始「インパクトレポート」アップデート Eco-Pork2024年9月12日
-
JA全農とやまとコラボ「富山米と食の祭典」開催 日の出屋製菓産業2024年9月12日
-
国連「未来サミット」目前 脱炭素目指し全国アクション開催 パルシステム連合会2024年9月12日
-
長野県飯綱町「りんごdeつながる関係人口フェア」29日に開催2024年9月12日
-
10月12日は「豆乳の日」加盟各社が豆乳月間にキャンペーン展開 日本豆乳協会2024年9月12日
-
第78回全国お茶まつり静岡大会「全国茶品評会」審査結果を公表2024年9月12日