【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】給食を核にした地域内循環によるローカル自給圏と都市部と産地との地域間連携に希望2024年8月15日
ゲノム編集技術について、「遺伝子を切りとるだけで組み換えていない」という理由で審査も表示もするなとの要請に応えて日本は率先して野放しにした。しかし、さすがにゲノムトマトの販売業者も日本人も心配するだろうから、どう浸透させるか、やはり子どもからだ、ということでGABA含有量を高めたゲノム編集トマトの苗を全国の小学校に無償配布した。これを日本の子どもを「実験台」にした新しいビジネスモデルかのように国際会議で発表している。100歩譲ってもゲノム食品を食べ続けて何が起こるのか誰もわからない。それを子ども(学校給食)から広めて、結局利益は特許を持つ米国のグローバル種子農薬企業に入るという構図になっている。
戦後、日本の子どもから食生活を改変し、米国の穀物メジャーが利益を得た占領政策が、今も形を変えておこなわれていると考えても過言ではない。私たちは総力を挙げて子どもたちを守らなければいけない。ここから逆に示唆されるのは、米国の思惑から子どもたちを守り国民の未来を守る鍵は「学校給食」にあるということであり、地元の安全・安心な農産物を学校給食を通じてしっかり提供する活動を強化することが必要だということだ。こういう活動が女性陣を中心に全国で広がりつつある。
よく例に出るのが千葉県いすみ市。市長が化学肥料や農薬を原則使わない有機米を1俵2万4000円で買いとると宣言し、農家の有機米生産を奨励。いざやってみると最初は草が生えてきてどうにもならなかったが、有機農業の技術を持った方に研修に来てもらって軌道に乗り、4年くらいで市内の学校給食がすべて有機米になった。野菜もかなり有機になっている。それに触発された京都の亀岡市の市長さんは、私の話が終わった後、「いすみ市が2万4000円なら亀岡市はその倍(4万8000円)で買いとる」と宣言し、会場から拍手喝采を受けた。
まず一番身近な地元で給食という「出口(需要)」をしっかり作り、高い価格で買いとり、なによりも子どもたちの健康を守る。それはみんなを幸せにする地域循環の仕組みをつくるうえでも大きな鍵になる。いすみ市は現在、「子どもが元気になる」ということで「移住したい田舎」の首都圏1位だ。
東京でも世田谷区(90万人)が有機給食に動き始めた。世田谷区内での田畑では全然足りないが、全国から有機米を買いとる。都市部の自治体が頑張っている生産地の農家と連携していくという地域間の循環も生まれている。国がやらなくても、これは非常に大きなうねりになる。兵庫県明石市では、財政難のときに前市長が「守るべきは命、子ども、食料だ」ということで給食無償化をはじめ子ども予算を2倍に増やした。当初は嘲笑されたが、子どもが元気になり、出生率も上がり、人口は増加。経済活性化で税収も増えて財政赤字を解消した。これは非常に大きな教訓だ。
今、財務省はOBを含めて誰に聞いてもやるべきことは二つしかないという。増税と支出削減だ。こんなことをやれば悪くなるだけだ。経済の好循環を生むには守るべきものを守る仕組みを作り、みんなが元気になる流れを作ることだ。その意味でも給食を核にした地域循環の仕組みは大きな重要性を持つ。
今、種を握って支配する巨大な力も動くなかで、全国各地の地元の在来の種を守り、生産したものをまず地元で循環させる仕組みをつくる。その鍵になるのは学校給食の公共調達だ。さらに公共施設、福祉施設の食事も地元産を使っていくようにすれば需要は広がる。産直的な流通や直売所も含めて、地域の種から作るローカル自給圏を強化し、これをベースにして都市部と産地が支え合う地域間の循環も広げること、それが希望の光だ。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(150)-改正食料・農業・農村基本法(36)-2025年7月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(67)【防除学習帖】第306回2025年7月12日
-
農薬の正しい使い方(40)【今さら聞けない営農情報】第306回2025年7月12日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】出会いの大切さ確信 共済事業部門・全国共済農協連静岡県本部会長 鈴木政成氏2025年7月11日
-
【第46回農協人文化賞】農協運動 LAが原点 共済事業部門・千葉県・山武郡市農協常務 鈴木憲氏2025年7月11日
-
政府備蓄米 全農の出荷済数量 80%2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
【2025国際協同組合年】協同組合の父 賀川豊彦とSDGs 連続シンポ第4回第二部2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日