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選挙が教えた主権者教育の必要性【小松泰信・地方の眼力】2024年11月20日

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禊(みそぎ)とは、本来は罪や穢れを落とし自らを清らかにすることを目的とした、神道における水浴行為。しかし、現代では醜聞を抱えた政治家が、選挙を勝ち抜いた際に「選挙区の民意を得た」として「禊は済ませた」と気軽に使用する。もちろん、道義的さらには刑事責任が免責されたわけではない。

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一死をもって抗議された斎藤氏

 自身のパワーハラスメント疑惑を含む文書告発問題を巡り、県議会から不信任決議を受け自動失職した斎藤元彦前兵庫県知事が、11月17日投開票の知事選挙で新人6人を破り再選を果たした。
 この文書告発問題は、元兵庫県西播磨県民局長の男性が3月に、斎藤氏らの疑惑を記した文書を一部の報道機関や県議に匿名で配布したことに端を発する。県は5月、公益通報の調査結果を待たずに男性を停職3カ月の懲戒処分とした。7月、男性は「一死をもって抗議する」とのメッセージを残し自死。県議会は百条委を設置し、疑惑について調査していたが、公益通報として扱わなかった県の対応に批判が高まり、9月に全会一致で斎藤氏の不信任決議を可決した。

新人候補者たちの慢心を衝く

 当然、告発文書への対応の適否や、知事に求められる資質とは何なのかが、投票行動を左右すると思われた。しかし、神戸新聞(11月19日付)の社説によれば、同紙の出口調査では、「重視した点は『政策や公約』が最も多く、『文書問題への対応』は4番目」に止まった。斎藤県政の3年間についても、大別して「評価する」が7割超に達していたとのこと。さらに年代別では、10~50代でそれぞれ5割以上が斎藤氏を支持していたそうだ。
 沖縄タイムス(11月19日付)の社説によれば、共同通信社が実施した出口調査では、投票で重視したことに「告発文書問題」と回答した人は9%。最多は「政策や公約」の39%で、「人柄やイメージ」が27%で続いている。
 当コラムも、「斎藤再選阻止」という一致点でまとまらない新人6人の顔ぶれを見て、接戦になるとは予想していた。それでも、まさか兵庫県民が彼の名前を書くはずがない、と思い込んでいた。ひょっとすると、有力新人にも「負けるわけがない」という慢心があったのではないだろうか。
 その隙を鋭くかつ巧妙に衝いてきたのが、「当選を目指さぬ攪乱候補者」とSNSである。

みそぎは済んでいない

 前述した沖縄タイムスの社説は、斎藤氏の1期目における行財政改革などに関わる「改革を求める民意は重い」とした上で、「今回、県政の混乱と停滞を招いたのは斎藤氏自身だ」「県職員の4割が『知事のパワハラを目撃した』とアンケートで回答するなど、知事としての資質への疑いは依然として残っている」ことから、「当選で『みそぎを済ませた』ことにしてはならない」と訴える。
 さらに、政治団体党首の立花孝志氏が「『当選する気はない』と公言し、斎藤氏への投票を呼びかけるなど立候補の在り方にも疑問符が付く」と疑問を投げかける。
 加えて、投票率が55・65%で、前回を14・55ポイント上回ったことから、「従来投票率が低い傾向にある若者世代をはじめ、票の掘り起こしにSNSが果たした役割は大きい」と分析する。
 その一方で、有力候補者の稲村和美氏について「稲村氏が当選したら外国人参政権を推進する」との誤情報や、「(斎藤氏は)県議会にはめられた」とする陰謀論が飛び交ったことに言及し、「デマやフェイクにどう対応するのか。有権者のリテラシーに頼るだけでは足りない。プラットフォームへの働きかけなど取り組みの検証を始める時だ」と問題提起する。

既存メディアが受け止めるべきもの

 北海道新聞(11月20日付)の社説は、「民意を得た」と胸を張る斎藤氏に、「だからといって疑惑がなかったことにはならない」とクギを刺し、「まずなすべきことは、選挙でも約束した一連の疑惑解明」とする。
 立花氏が「マスコミはウソばかり」「斎藤さんは県議にはめられた」などと根拠もなく訴え、ユーチューブへの投稿を続け、それに呼応するかのように斎藤氏が選挙後半、メディアや議会に矛先を向け、「メディアの報道が本当に正しいのか。多くの県民がSNSやユーチューブなどで調べている。一部の県議は政局を見て動いている」と主張したことなどから、「一連の疑惑を真摯に反省しているのか疑わしい」とする。
 そして、「21世紀に誕生し、急激に普及したメディアにどう向き合うのか私たち一人一人が問われる」とする。
 中国新聞(11月19日付)の社説は、「こうした発信が拡散したのは、若者を中心に既存メディアへの信頼感が低下していることも原因の一つなのだろう。その現実を私たち既存メディアは重く受け止めなくてはなるまい」と自戒自省の言葉を記す。

「かくされた悪を注意深くこばむこと」のできる人づくり

 「気がかりなのは、県議会の追及姿勢が失速していることだ」と指摘するのは、新潟日報(11月20日付)の社説。
 「全会一致で知事を失職に追い込んだが、知事選の期間中から一枚岩ではなくなっているという。選挙戦で当初劣勢だった斎藤氏が、本命視されていた対抗馬に猛追していることが伝わると、支持に回る県議もいた」という指摘には、だから政治屋は信じられない、という気持ちが湧いてくる。当然それは、政治不信となっていく。
 さらに、「百条委の委員で疑惑を追及していた県議は、ネット上で誹謗中傷されるなど、生活を脅かされたとして議員を辞職した」とくれば、政治を忌避し政治との関係を断とうとする有権者を増やすこととなる。
 今回の兵庫県知事選の選挙戦で攪乱候補者とSNSが見せつけた事態を、社説子は「民主主義の根幹が揺らぎかねない事態で、由々しきことだ」と断罪し、「有権者側にも真偽を見極める力が求められているのではないか」と正論で締める。
 当コラム、特に攪乱候補者の役割に危機感を覚える。ある候補者が攪乱候補者を雇用したとする。雇用した候補者は涼しい顔で「清き一票」をお願いすれば良い。攪乱候補者はすべての汚れ仕事を引き受ける。そしてこの国は地獄への道を突き進む。
 そんな国にしないためには、タブー視されている「主権者教育」を初等教育の段階から取り組み、「かくされた悪を注意深くこばむこと」(谷川俊太郎氏の詩『生きる』より)のできる有権者を生み出すことだ。

 「地方の眼力」なめんなよ

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