ナガイモの産地間競争と国際化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第349回2025年7月17日

ご存じのように、ナガイモの栽培では、その蔓を這わせるために支柱を立て、てその間に白く細い糸で編んだ網を張る。網の目は20センチから30センチ四方の正方形をしている。これだけ荒い網の目だから当然その網の目を通して畑の向こうの景色がよく見える。たとえば十和田市のナガイモ畑を見ると網の目の向こうに八甲田山などがすけて見える。
ところが、北海道ではちょっと違う。20年前に住んでいた網走を例にしていえば、何十メートル、何百メートルと長くナガイモ畑が続くものだからあの細い糸が何重にも重なる。それで網の目の隙間が白い糸でふさがれ、織った布のように見えるようになり、その真っ白な布で畑の向こうの景色が見えなくなる。一戸平均2~3ヘクタールものナガイモを栽培しているのでこうなるのである。
だからこうした農家が30戸も集まれば50~100ヘクタールの産地が簡単にできてしまう。
しかし、東北ではそんなわけにはいかない。50ヘクタールの産地にしようとするなら、50戸の集落の農家が、経営面積全部にナガイモを作付けしなければならなくなる。しかし米も野菜もつくらず、ナガイモだけをつくるわけにはいかない。兼業農家もいる。だから産地としての規模はどうしても小さくなる。
でも、かつては北海道もそんなことができなかった。
北海道では冬期間の寒さの厳しさのために畑の土のなかに天然貯蔵しておくことができず、つまり秋掘りしかできず、これが青森を始めとする都府県に比しての弱点となっていた。
しかし、機械化を始めとする長いもの栽培技術が北海道にも普及し、規模の有利性をもつ北海道は青森に次ぐ大産地となった。
それを見たときに青森の農家が北海道を目の敵にしていたのがよくわかった。あれだけ大量につくられて市場に出されたらとてもじゃないけどかなわない。産地間競争に負けてしまう。
網走に行く前の年、青森の農家の方に私が北海道にある大学に再就職すると言ったら「東北を裏切るのか」といやな顔をされた。
そう言われるのはよくわかる。しかもこんな話しがある。青森が苦労してナガイモの技術を確立し、産地を形成したのに、北海道はその成果を持っていった、それを持っていったのは盛岡にある農水省東北農試にいた研究者で、北海道農試に転勤したとき東北の技術をもっていって教えたらしい。その結果北海道は大量生産して府県の市場に出せるようになり、東北の自分たちを潰すくらいまでになった。研究者はけしからん、先生も東北の敵である北海道に行ってわれわれを裏切るのかと。それに私はこう答えた。裏切るのではない、北海道をスパイしに行くのだと。
とは言ったものの、ともかくこの北海道の大規模な農業を改めて見たときに考えこんでしまった。いったい何をスパイすればいいのかと。いうまでもなく東北の農業が北海道の大規模農業のやり方をそっくりそのまままねすることはできない。そうなると、技術力、組織力、節約力、情報力等の強化で対抗していくより他ないではないか。
そして北海道・青森をを始めとする全国の産地と切磋琢磨しつつ共同協力しあって品質を高め(これは日本人が得意なはずだ)、さらに生産量をともに増やし、外国農産物の輸入に打ち勝つばかりでなく、全国の産地が補完補合しあって輸出し、大輸出国になっていく必要があるのではなかろうか。
そんなことを当時言ったものだった。そして網走で7年間暮らし、06年また仙台に帰って来た。
それからもう二十数年経ってしまった。
そして北海道と切磋琢磨しつつともに発展させ、外国農産物の輸入に打ち勝っていく、さらには外国に進出していく必要があるのではないか。こんなことを言ったものだった。
それからもう30年近く経った。
そして今、何と日本は台湾、アメリカなどへの「ナガイモ輸出国」となっている、しかも日本で規格外として価格が安くなる太物が海外では高く買われており、2倍から4倍の値が付いているとのことだ。
土地面積は狭いが豊かなアジアモンスーン的風土と勤勉で優しい人材に恵まれているわが国の特質を生かしていけば、外国農産物の輸入に打ち勝って行けるのではなかろうか。ナガイモがそれを教えてくれているのではなかろうか。時代遅れのボケ老人の幻想なのかもしれないが。
さて、次回は、話題を替えて、ヒエとかアワとかのわが国の雑穀作について語らせていただこう、時代遅れの老人らしく。
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