(446)人手不足ではなかった?米国のトラックドライバー問題【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年8月1日
昨年、「物流の2024年問題」が話題になりました。これはトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限されたため、人手不足や長距離輸送の減少など、さまざまな影響が懸念されるという問題です。
実際には、法改正はあくまで発端であり、慢性的な人手不足やインターネットの普及に伴う宅配需要の急増、さらにはトラックドライバーをめぐる労働環境の厳しさなど、複数の要因の影響と考えられている。2024年時点でトラックドライバーはすでに約14万人不足しているが、2030年度には約30万人が不足するという(NX総研・農水省HPより)。農林水産物・食品はほぼすべての輸送をトラックに依存しており、これは深刻な問題である。
ところで、こうしたトラックドライバーの人手不足は日本特有の問題なのだろうか。実は米国でも興味深い事例が報告されている。
カリフォルニア州では、2021年当時、トラック輸送コストの記録的な上昇があり、その中で原因はトラックドライバー不足ではないかとの見方が出たようだ。そこでカリフォルニア大学が調査を実施した結果、浮かび上がった課題が興味深い。以下、要点を紹介しよう。
まず、「トラックドライバーになりたい人が不足しているという証拠は見つからなかった」という米国らしい説明である。実際、カリフォルニア州では、大型トラックの運転免許を持つ人は約50万人いるが、業界に必要な運転手は推計約16.5万人とされている。では、何が問題なのか。
調査によれば、2021年当時の運賃上昇は、Covid-19パンデミックによる混乱と、トラック輸送業界の長期的なキャパシティ削減が重なった結果だと、調査を説明している。それ以上に重要な点は、「質の低い研修と最初の仕事の質の悪さが、多くのトラックドライバー希望者の意欲を削いでいた」点である。
特に、「離職率の高いトラック運送会社は、新規ドライバーの採用と研修に最も力を入れている」が、ドライバー視点から見ると、これが「業界の定着率低下の根本原因」という点である。一般に、カリフォルニアでは新人は採用後に数週間研修を受け、その後、数週間から数か月はトレーナーと一緒に路上走行をする。独立後は週に80~100時間労働の上、時には数週間も自宅を離れて走行する。こうした勤務形態は、拘束時間を含めると、実質的に最低賃金を下回るケースもあるようだ。言い換えると、長時間かつ不規則な長距離輸送を担っているのは経験の浅い新人ドライバーであり、低賃金と家を離れる時間の多さが離職率につながる可能性が高い。
そこで調査報告は、ドライバーはキャリアの初期段階では地元で訓練を受け、地元で雇用される形を重視し、経験を積んだベテランこそが困難で危険な長距離輸送の仕事を高給の選択肢として担うべきとしている。特に農業分野では、新人ドライバーの研修に最適な地域密着型の雇用が数多く存在する。まずはドライバーの初期キャリアにおいて地域の研修と雇用に重点を置き、公的な予算をそこに集中させることが重要だとする。
こうした地域密着型の雇用は多様だが、多くの場合、毎晩の帰宅は比較的容易である。トマトのように季節性が高い作物は離職率が高く、雇用主は毎年ドライバーを確保しなければならない。こうした季節変動を考慮した上で、例えば、新人ドライバーの卒業時期などに合わせた研修プログラムの柔軟な調整も可能であろう。また、毎晩の帰宅が可能であれば、女性ドライバーの雇用増加にもつながると期待されている。
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日本とは状況が異なるものの、この事例は人手不足の裏に隠された本質的な問題が、単なる人数の問題ではないことを私たちに気づかせてくれます。
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