日本の花は過剰品質で高コスト【花づくりの現場から 宇田明】第70回2025年10月9日
かつて日本は「ものづくり大国」と呼ばれていましたが、家電製品や半導体など多くの産業は、過剰な品質追求によるコスト高が原因で競争力を失い、衰退しました。
同じことが、いま花産業でも起きています。
「過剰品質」によるコスト高が花農家の経営を圧迫し、花づくりからの撤退が相次いでいます。
日本の花は「世界一の品質」といわれ、花農家も強い自負をもっています。
しかし、その品質とは、見た目の美しさを指す「外的品質」、すなわち「品評会的品質」に偏っています。
日本の花づくりは、消費者ニーズと乖離した外的品質を過度に追い求めた結果、高コスト体質に陥っています。
それは、かつての家電・半導体産業がたどった道とよく似ています。
その背景には、「匠」や「職人」の技を尊び、「良いものをつくれば売れる」という信念があります。
バブル期まではその考え方で花産業も成長しましたが、市場価格が上がらなくなった「失われた30年」では、この高コスト体質が経営悪化の要因となっています。
では、なにが「過剰品質」か?
① 実需を無視した「過剰な切り花長」
花業界では「大は小を兼ねる」という考え方が根強くあります。
それは消費者のためではなく、花屋の販売上の都合によるものです。
切り花は店頭で水に生けられ、茎を日々切り戻しながら売れるのを待ちます。
そのため、仕入れ時には実際に必要な長さ以上の切り花が求められています。
この過剰な切り花長を実需に合わせて短くするだけで、資材費や輸送費などや、生育期間の短縮によるコスト削減が可能になります。
② 品評会レベルの厳密すぎる「選別・結束」

切り花の収穫後には、病虫害・傷・茎の曲がりなどを選別し、等級分けして結束する作業がおこなわれます。
その作業には、日々の市場出荷においても品評会のような厳密さが求められており、多大な労力と高い技術を要するとともに、多くのロスフラワーが生まれ、コストを押し上げています。
こうした作業を小売現場で支障のない範囲に簡略化することで、労力とロスの双方を大幅に削減できます。
③ 出荷作業を煩雑にする「小箱化」
切り花の出荷容器には、当コラム第20回で紹介したように、従来の乾式横箱、オランダ式の湿式バケット、それらの折衷型である湿式立箱が流通しています。
これらの容器が混在することで、輸送効率が下がり、市場での取扱いにも多大な労力を要しています。
さらに、主流の乾式横箱の入り本数が、大箱200本から中箱100本、さらに小箱50本・30本へと小口化が進んでいます。
これは、街の花屋など小規模な買参人が仕入れやすいようにするためですが、本来こうした少量対応は仲卸の役割です。
市場と仲卸の業務分担があいまいなために、市場の出荷ロットが過度に小口化し、結果として全体のコストを増大させています。
1ケース100本以上の大箱流通を標準化し、仲卸機能を活用すれば、流通コストは大幅に削減できます。
国内の切り花生産を維持するためには、実需とかけ離れた「過剰品質」を見直し、コストを削減することが急務です。
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