米農家の「時給」 23年も厳しく 農業経営統計調査(確報)から試算 「欧米並みの所得補償」必要性を示唆2025年4月7日
米農家の時給は10円――。「令和の百姓一揆」トラクターデモで繰り返し唱えられた窮状を象徴する数字は、世論に一石を投じた。これは2022年の農業所得から導かれたものだが、ある程度米価が回復した2023年はどうか。農水省がこのほど公表した農業経営統計調査(確報)をもとに、改めて試算した。
農水省は3月26日、「農業経営統計調査(営農類型別経営統計) 令和5(2023)年農業経営体の経営収支」(確報)を公表した。
自営農業労働時間から家族の労働時間だけ抽出
2024年12月26日付で掲載したJAcomの記事では、同じ調査の「速報」をもとに米農家(個人・法人含めた平均)の「時給」97円、主業経営体では「時給」892円と報じた。
この記事や「2022年は時給10円」という発信は米農家(水田作経営)の農業所得を自営農業労働時間で割ったものだが、自営農業労働時間には農家が通年ないし臨時で雇用した雇用者(雇用労働者)の労働時間も含まれる。その労働にはすでに賃金が支払われているため、今回は自営農業労働時間から雇用労働者の労働時間を引いた「家族の労働時間」で農業所得を割った。自営農業労働時間の内訳は「速報」にはなく「確報」でわかる(自営農業労働時間の内訳やそれが確報でわかる点は、農水省大臣官房統計部経営・構造統計課の担当者から教示を得た)。
家族農業の米農家平均では
個人経営体(法人成していない家族農業)の米農家米を2.2ヘクタール作付し、年間の農業粗収入は319万6000円、経営費は314万5000円で、農業所得(「農業粗収入」-「経営費」)は5万1000円だった。
自営農業労働時間は年878時間で、内訳は家族が807時間、雇用者が71時間。そこで5万1000円を807時間で割ると、個人経営体の米農家の時給は「63円」となる。2023年産米の相対取引価格(全銘柄平均)は玄米60キロ当たり1万5315円で22年産米より10.6%上がり「約11年ぶりの高値水準」ともいわれたが、それでもこの水準だった。22年の「10円」から上がったとはいえ、23年の平均「63円」は、農家の労働が米価にほとんど反映されていないことを意味する。これでは生活が成り立たない。
国会質疑では
2022年(令和4年)の米農家の「時給」が10円だったことについて、24年5月29日の衆議院農水委員会で農水省の平形雄策農産局長(当時)は、池畑浩太朗議員(日本維新の会)の質問にこう答えた。
「1時間当たりの農業所得......水田作全体では10円という、令和4年はちょっと(米の)値段が下がったということもありましたが。......主業経営体で見ると平均約700円です。水田作の面積が20ヘクタール以上の層では1706円となっています。一般的に、水田作は、経営規模が拡大することによって生産性が向上し、収益性が向上する......。着実に生産性の向上を図っていくことが農林水産省としては非常に重要だと考えています」(要旨)
主業の米農家では
そこで、2023年についても、主業の米農家と作付面積20ヘクタール以上の主業米農家についても見ておこう。
主業の米農家(水田作主業経営)は米を9.5ヘクタール作付し、農業粗収益1499万5000円、経営費1229万9000円、農業所得は269万6000円だった。
自営農業労働時間は3024時間で、内訳は家族が2675時間、雇用者が349時間。そこで269万6000円を2675時間で割ると個人経営体で主業の米農家の時給は「1008円」に上がる。2022年よりも改善したとはいえ、雇用労働者の最低賃金の全国加重平均1055円を下回る。農機の更新等も考えると、経営が持続する水準ではない。
作付面積20ヘクタール以上になると
主業で20ヘクタール以上(米の平均33.4ヘクタールに作付)に限ると、農業粗収益4200万7000円、経営費3239万9000円、農業所得は960万8000円だった。
自営労働時間は5012時間で、内訳は家族が3880時間、雇用者が1132時間。そこで960万8000円を3880時間で割ると、個人経営体で20ヘクタール以上の主業の米農家の時給はようやく「2476円」となる。
大規模ほど補助金のウエイト増
農水省のいうように「経営規模が拡大することによって生産性が向上し、収益性が向上する」のは確かだが、大規模経営ほど収入にしめる補助金等の割合が増えている点も見落とせない。
粗収益に占める「共済・補助金等受取金」の割合を算出すると、個人経営の米農家平均では20%だが主業になると25%、20ヘクタール以上の主業では31%だった。逆にいえば、大規模化し生産性を上げたとしても純粋な農業収支だけで黒字化することは困難であり、米作りを継続するためには何らかの所得補償が必要であることが示唆されている。
欧米並みの所得の補償を
「令和の百姓一揆」トラクターデモでは「農民に欧米並みの『所得補償』を」というスローガンが掲げられ、沿道の市民から声援が寄せられる場面もあった。大規模な経営体ほど粗収益に占める「共済・補助金等受取金」の割合が高い事実は、「令和の百姓一揆」の問題提起を農業統計の面から裏付け、政策課題として正面から議論すべきことを示しているのではないだろうか。
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