生きたまま染色体を診た受精卵から健康な子牛を産ませることに成功 東京農工大など2022年6月10日
東京農工大学、近畿大学、扶桑薬品工業、農研機構の研究グループは、細胞を生きたまま連続観察する「ライブセルイメージング技術」により、染色体分配の様子を捉えた体外受精卵から、健康な子牛を産ませることに成功した。この技術で観察した受精卵の半数以上で8細胞期までに1回以上の染色体分配異常が認められ、80%以上が胚盤胞期に到達する前に発生を停止。一方、染色体分配異常が認められた受精卵でも、胚盤胞期まで発生すれば、子牛になりうることが分かった。
図1: 受精後の分裂で染色体分配異常を起した受精卵のその後の発生の様子
ヒトやウシにおいて、体外で発生させた受精卵(体外受精卵)を母体に移植し子を誕生させる技術、生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology; ART)が世界的に普及・注目されているが、の成功率はヒト、ウシともに10~20%前後と低い。
ウシの受精卵はヒトと似て、受精後の染色体分配異常を起こしやすいことが知られている。その染色体分配異常により染色体の数的・構造的異常が生じ、これにより受精卵の発生が停止すると考えられている。しかし、受精卵の染色体分配異常とその後の発生との直接的な関係はマウス以外の動物では明らかになっていなかった。
共同研究では、ウシ卵巣から採取した卵子を体外で培養しながら成熟。成熟後の卵子は、精子と体外受精させ、得られた受精卵に、細胞核や染色体を検出するためのプローブを顕微鏡下で注入後、その受精卵を超高感度カメラを搭載したスピニングディスク式共焦点レーザー顕微鏡にセット。受精後4日までライブセルイメージングを行い分裂初期の染色体分配の様子を観察した。
図2:ライブセルイメージングにより染色体分配の様子を観察した受精卵から誕生した子牛
解析した172個の受精卵のうち、115個(67%)という高い確率で、8細胞期までに染色体分配異常が認められ、そのうち胚盤胞期まで発生した受精卵は18個(16%)で、80%以上が8細胞期までに発生を停止(図1)。特に、前核期から2細胞期の間に染色体分配異常を起した受精卵では胚盤胞期への発生率はわずか6%だった(3/48)。一方、8細胞期までに染色体分配異常が認められなかった受精卵では、60%が胚盤胞へ発生(34/57)しており、受精後の分裂で染色体分配に異常があると、基本的にはその後の発生を停止させると考えられた。
次に、ライブセルイメージングを行い、胚盤胞期まで発生した受精卵を10頭の借り腹牛に移植したところ、4頭の健康な子牛が生まれ、そのうち2頭は8細胞期までに染色体分配異常が認められた受精卵から生まれた(図2)。これは、受精後の分裂で染色体分配異常が起きた受精卵からも子が産まれたことになる。この結果から、染色体分配異常は胚盤胞期までの発生には影響するが、胚盤胞期以降の発生には必ずしも影響するわけではないことが示唆された(図1)。
同研究により、ライブセルイメージングにより核や染色体を観察した受精卵から、健康な子牛を産ませることに成功。さらに、分裂初期の染色体分配異常は、胚盤胞期へ発生を妨げるが、それ以降の発生を必ずしも妨げるものではないことが示された。今後、この技術や成果を使うことで、 ARTの低い成功率の原因解明や出生の成否を予測するための新たな技術や指標の提供が可能になる。また、将来的には、分裂初期の染色体分配異常の原因を明らかにし、それを防ぐことができれば、ARTの成功率向上に繋がるかもしれない。
同研究成果は6月1日、米国の国際学術誌『 Biochemical and Biophysical Research Communications(BBRC)』に掲載された。
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