【農協研究会・報告(1)】強きを助け弱きを挫くTPP-近藤康男氏2017年12月15日
・農業協同組合研究会第26回研究会
農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大学名誉教授)は12月9日、東京都内で第26回研究会「日欧EPA~TPP11の自由化に抗した食と農の再生課題」を開いた。JAグループ関係者ら70人が参加し3人の報告をもとに議論した。TPPに反対する人々の運動・世話人 近藤康男氏の報告から掲載する。
◆米国 依然TPP参加国
今年1月、トランプ大統領が米国政府として「署名」したTPPからの「離脱」を表明したことから、12か国による発効は絶望的と思われている。
しかし、近藤氏は、TPP協定の発効と離脱を規定している30章には「署名から発効までの期間」における離脱については何も規定されていないことを強調。米国は依然として「原署名国」であって復帰の権利を持ち、一方、残る11か国では現在の協定を修正することもできないという奇妙な状態が続くことなると指摘した。
11月10日にベトナムの閣僚会合で合意した米国抜きのTPP11は新たな協定ではあるが、TPP協定を全部組み込みことを規定し、そのうえで特定の規定を凍結するとしている。新たな協定のため国会での承認が必要となるが、同時に米国とともに12か国によるTPP協定はいつでも復帰できるのが現在の状況、すなわち、「米国は依然としてTPP参加国である」と近藤氏は強調する。
◆地域経済に打撃
一方、12月8日には日欧EPAが投資紛争解決の条項は除いて合意した。日本側はISDS(投資家が国家に損害賠償を訴える解決方式)にこだわったが、近藤氏によると欧州の司法裁判所が紛争解決事項はEU委員会が日本と交渉できる専権事項ではなく、各国の承認が必要との判決を出していることから日本側が望むかたちには99%ならないと見られていたという。
問題はTPP11も含め、このところの通商交渉はこうした交渉経過がまったく情報公開されておらず、交渉官だけが合意に向けて走っていることだ。近藤氏は「通商交渉といえども、交渉は交渉官だけのものではなく、国民の代表たる議員と国民のものでもある」と強調する。
より問題なのは合意されたTPPや日欧EPAとは「強きを助け弱きを挫く協定。グローバル企業が市場を広げるための協定で国民の主権や地域経済に制約をかけ、疲弊させていく」とその本質を衝く。
その象徴がTPP協定のなかで国有企業(17章)の規律や政府調達(15章)を取り上げたこと。鉄道、病院、郵便など国有(公有)企業は基礎的な社会インフラだが、TPP協定ではJRや都立病院も規制の対象となる。政府調達では人口20万人以下の中核都市の公共事業にも外資が入札できるようになる。「グローバル企業のための事業環境整備」という本質が協定文にはむき出しになっており、まさに「人々の暮らし、地域、地域主権を破壊する」。そのほか、近藤氏は、日本政府が外国人土地法が規定している外国人の土地(農地)取得制限を根拠にした投資参入への「留保」をTPP参加国に示していないとして、外資による土地取得の懸念も指摘した。
(写真)近藤康男氏
(関連記事)
・近藤康男氏のコラム【TPPから見える風景】(近藤氏のこれまでのコラム記事の一覧が表示されます)
・【農協研究会・報告(2)】水田フル活用の法制化を 加藤好一・生活クラブ生協連合会会長(17.12.16)
・【農協研究会・報告(3)】JAの強みで地域農業の再建を 谷口信和・東京農業大学教授(17.12.18)
・丁寧・真摯に説明する=強引・姑息にごまかす(17.12.14)
・貿易交渉と北海道酪農の影響(17.12.07)
・【衆議院選挙】米の需給調整 全国組織推進支援-自民党農業公約(17.10.10)
・万全な需給安定策が必須 生乳流通改革(17.07.19)
・日欧FTAを「TPPプラス」にした愚行 東京大学・鈴木宣弘教授(17.07.11)
・生乳改革 補給金を恒久的制度へ(17.02.17)
重要な記事
最新の記事
-
【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(2)子実コーンの「先駆者」 JA古川2024年3月29日
-
農業者所得増加へデジタルビジネス加速 農林中金 中期ビジョンを策定2024年3月29日
-
「子ども世代に農業勧めたい」生産者の2割 所得向上が課題 農林中金調査2024年3月29日
-
東京・大阪で組合長らが 「夢大地かもと」スイカをPR JA鹿本2024年3月29日
-
全国から1,000名を超える農業の担い手が集う 「第26回全国農業担い手サミットinさが」開催 佐賀県2024年3月29日
-
家族みんなで夏の農業体験はじめよう 食農体験イベント「土袋でデコきゅうり」開催 JA兵庫六甲2024年3月29日
-
(377)食中毒1万人は多いか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月29日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第96回2024年3月29日
-
【人事異動】全国農業会議所(4月1日付)2024年3月29日
-
品種で異なるメロンの味わいを体験 自由が丘「一果房」で29日から 青木商店2024年3月29日
-
第160回勉強会「レジリエントな植物工場運営・発展に向けて~災害からの復旧・復興事例から学ぶ」開催 植物工場研究会2024年3月29日
-
創立55周年記念 ガーデニング用 殺虫・殺菌スプレーなど発売 住友化学園芸2024年3月29日
-
「核兵器禁止条約」参加求める26万の署名 藤沢市議会が意見を採択 パルシステム神奈川2024年3月29日
-
尾鷲伝統の味「尾鷲甘夏」出荷開始 JA伊勢2024年3月29日
-
令和6年能登半島地震 被災地農家を応援 JA全農石川へ寄付 KOMPEITO2024年3月29日
-
林木育種センター九州育種場 九州育種基本区の「スギエリートツリー特性表」公表 森林総研2024年3月29日
-
農業フランチャイズのクールコネクト シードラウンドで3200万円を調達2024年3月29日
-
鳥インフル 米メイン州からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年3月29日
-
畜産施設の糞尿処理で悪臭対策 良質な堆肥化を促進 微生物製剤を開発 B・Jコーポレーション2024年3月29日
-
水田のスマート水管理で東大大学院農学生命科学研究科と共同研究開始 ほくつう2024年3月29日