【農業・農協改革】地方創生は農協が担う 阿部雅良・JAみどりの(宮城県)代表理事専務2014年12月15日
・結論ありきに疑問
・業務監査に意義あり
・地域振興は当然の仕事
・継続性をいかに保つか
・地域の選択肢奪うな
農業・農協改革の目的は農業者の所得向上と地域の活性化にあるはずだ。その具体策をどう考えることこそが、総選挙でも問われることのはずだし、その重要性は選挙後も変わらない。しかし、選挙後にも議論が本格化するとされる農協改革は「中央会改革」と「准組合員問題」が焦点となる見込みで、なぜこれが農業と地域活性化につながるのか、と現場には疑問と反発が強い。
このシリーズではまさに現場を担ってきたJAトップ層に農協改革はどうあるべきかを語ってもらってきたが今回は宮城県のJAみどりの・阿部専務と神奈川県のJAはだの・宮永参事(別記事参照)に聞いた。阿部専務は農業生産法人を立ち上げ経営に携わり現在は県法人協会の会長も務める。「地方創生は農協こそが担う組織」と強調する。JAはだの・宮永参事の記事で掲載したのはJAはだのの「総会」風景である。会場は正組合員だけではなく准組合員でぎっしり埋まっている。宮永参事は「准組合員もあくまで協同組合の一員」と強調している。聞き手は田代洋一・大妻女子大教授。
今こそ中央会の力発揮
◆結論ありきに疑問
田代 阿部専務は11月の自民党規制改革推進委員会のヒアリングに招かれたとお聞きしていますが、あの場では議員からたとえば中央会はいらないといった発言はなかったようですね。それでも稲田政調会長の発言を聞くと中央会制度は見直すとの主張を変えようとはしないし、西川農相も、世の中には中央会は一般社団法人化してだめなのかという意見が強い、などと言っています。こうした議論を現場からどう思われますか。
阿部 自民党の会合で私が主張したのは60年間破綻した農協を出さなかった事実です。JAはかつて1万もあった時代と環境は変わりましたが、変わらない根幹は農協の維持です。なぜ維持が必要かといえば地域を守るためで、農協は地域があって農地があってこその組織、事業で地域から絶対に離れられない。地域から離れて事業をするのは一般企業です。
自民党の会合では、これからもJAが地域活性化を推進する機能を担っていく大事な組織だとも訴え、中央会ができた当時、一楽照雄さんが残した名言も紹介しました。一楽さんは、農協系統の本店は単協である。県連は支店であり、全国連はせいぜい出張所である、と言われた(下図)。ピラミッド構造ではないということです。
そこで申し上げたいのは主権在民です。国民のために国があるのであって国のために国民があるのではないということですよね。ところが、今回の議論を聞いていると、そうではなくてトップリーダーが俺がやればできるんだ、という傲慢さも見える。もっと謙虚に、私らは米を作っていますが、それこそ稔れば稔るほど垂れる頭、になって冷静に物事を判断してほしいと思います。
(写真)
阿部雅良・JAみどりの代表理事専務
◆業務監査に意義あり
田代 改めるべきところは改めるとしても中央会は必要だというのがJAトップ層の意見だと思います。地域が望む中央会の具体的な機能は。
阿部 やはり重要なのは中央会の監査機能です。監査なくして企業の存続なし、と言われていますが、監査は外部でも内部でもきちんとやること自体が大事だと思います。私は、監査によって悪いところを見つけていただきありがとう、だと思うんですよ。それによって組織自体が健全化していけばいい。要は改善、改善でいけば進歩だと思います。
田代 監査→改善、というサイクルですね。
阿部 そこに公認会計士を使えといいますが、JA監査士という資格には業務監査、会計監査の両方をできる能力がある。しかも全国監査機構という独立した組織をつくったことで694のJA全体を見たうえで個々のJAを見ることができている。これは財産であり、日本の農協が持っている力、これを把握しておくことは今後の日本の農業をどうするかという方向性も出すことができると思います。
田代 ところが今の議論は初めから監査はやめよ、一般社団法人化だと結論ありきで進めている、と。
阿部 そうです。実際、監査があることによってJAは成長しています。破綻してJAが潰れてしまえば地域もおかしくなってしまう。JAの基本である、1人は万人のために万人は1人のために、という理念自体が地域住民も守っていけるものだし、それを実践している全国の農協を相互扶助で全体として守ってきた仕組みは国にとって有益なはずです。それをなぜ解体しようとするのか全然理解できないです。
田代 阿部専務が冒頭から強調されているように、JAグループの自己改革は、農業振興とともに地域振興も担っていくJAを大前提にしています。それに対して西川農相などは地域を引き受けるのは行政であって、農協は農業に特化すべきとの趣旨の発言をしています。
◆地域振興は当然の仕事
阿部 国であれば農業は農水省、病院なら厚生労働省などと分かれていますが、地域は全部を束ねているんです。同じところにある。省庁によって線引きはされておらず複合的に地域は動いているんです。
そういう実態をきちんと押さえたマネジメントがなければ現場とは食い違う。まずはこうした捉え方がないことを指摘したいし、さらに農業協同組合だから農業だけをやっていればいいというのは完全に間違いです。
農家組合員は生活者です。生活者ですから直売所も利用するし、あるいは介護事業も利用したりする。そういう見方を全然していない。
もっと矛盾しているのは今、農林水産省は農業生産額8兆円を6次産業化し、100兆円の食料産業界から農業者が所得をとろう、というわけですが、それこそ農業だけではだめで2次、3次産業との関わりが必要だということでしょう。そうであるならむしろ農協も事業を広げるべきだという話になるのではないですか。
地域が維持されていることは農政にとってもいいはずです。一般企業も農業に参入するようになっていかにも天下を取ったように言っていますがまだ微々たるもの。むしろ多くの地域の農業者の農業魂、それが大事です。
一方で農水省の農地・水・環境保全対策は農業者だけでなく地域住民も含めて参加することが直接支払いの要件になっているではありませんか。これも矛盾しています。
◆継続性をいかに保つか
田代 ご指摘のように農政自体が地域住民と共に、というスタンスで動いているのに、農協「改革」に限ってはそこを分けるというわけにはいかないはずです。
阿部 JAみどりのは1万6000人の組合員がいますが農業法人はまだ30社です。農業振興をしようと考えたときに農業法人が担うことができるかといえばそれは無理で、やはり農協が担っていかなればなりません。
その意味で私は県の農業法人協会の会長でありながらJAの常勤役員にも就任したのなら、ここを繋げていこうと考えたわけです。
もちろん、いずれ集落営農も法人化しなければいけません。高齢化が進んでいますから法人化して社員を雇えば営農を継続させることができる。その意味でJAも出資法人をつくるなど、農業の法人化にどう対応するかが農業振興の課題ですが、地域が維持されていることが前提です。
田代 農協「改革」の議論のなかで農協は利益を上げて新規の投資や組合員への還元をもっと積極的にやれ、という議論もあります。そうなってくると株式会社と変わらない利益追求になってくると思います。
阿部 出資者のために農協はあるわけですが、一方で地域の組織体としてのいちばんの問題は継続することです。地域があり農地があることでしか成り立たない農協が継続していくために利益をきちんと上げるべきだと思います。
利益はあくまで組織体が維持されるためです。そういう意味ではJAの事業方式もたとえばプロダクトアウトからマーケットインに転換してしっかり利益を上げる必要があるということだと思います。相手が納得するものを販売してそこできちんと利益を上げる、と。買取販売なども必要で、そのための意識改革に役員も職員も含めて取り組むことには大賛成です。
田代 さらに規制改革では准組合員向けのサービスは全部切り捨てろという姿勢で、准組合員の利用制限も求めています。
◆地域の選択肢奪うな
阿部 やはり根本的に考え方が違う。繰り返しますが地域は集合体なんです。農業は農業、という縦割りはない。だから農協による農業振興のあり方としてその地域にいる方々、農家組合員が農産物をつくって供給し、食べる方も地域の方々という姿があります。そうした地産地消のなかに地域の連帯感も生まれてきて、そこからJAの金融・共済事業やガソリンスタンドも利用するようになる。それによって農協も地域住民の生活を守ることができる。
そのとき准組合員は自分の意思で農協に入っているわけで、農協に魅力がなければ准組合員にならないということです。われわれも地域に必要とされる協同組合づくりに努力していますが、そこに自らの意思で入ってこられている。それをなぜ規制するのか、ということです。なぜ魅力があって参加している方々を規制するのか、と思います。
田代 地域住民に対する選択肢を奪ってしまうことにもなりますね。
阿部 農業者自体も減少し、さらに人口も減っているなかで地域住民も巻き込んでいって農業協同組合という組織が発展して地域が維持されていけば、これこそ地方創生ではないですか。
その意味ではこれから准組合員との話合いはやっていく必要があると思っています。そこは農協にも意識改革が必要です。農地をきちんと活かさないと農協の存在意義はありませんね。やはりそのなかで農協職員は地域をデザインしていくんだという意識を持つ。そして地域住民と農業を核としてどういう地域をつくっていくのかと話し合いをしていく。そういう仕組みを農協につくるべきだと思います。
これを充実させるためにも全中にはコンサルタント機能がありますし、総合調整機能もある。つまり、全中が地方創生機能を持つことこそこれから求められていることではないかと思います。
田代 ありがとうございました。
(関連記事)
・【農業・農協改革】協同組合の理念を実践 宮永均・JAはだの(神奈川県)参事(2014.12.18)
重要な記事
最新の記事
-
宮崎県で鳥インフル 今シーズン国内12例目2024年12月3日
-
【特殊報】キウイフルーツにキクビスカシバ 県内で初めて確認 和歌山県2024年12月3日
-
パックご飯の原料米にハイブリッド米契約栽培推進【熊野孝文・米マーケット情報】2024年12月3日
-
第49回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクール 各賞が決定 JA全中2024年12月3日
-
大気から直接回収した二酸化炭素を農業に活用 JA全農などが実証実験開始2024年12月3日
-
江藤農相 「農相として必要な予算は確保」 財政審建議「意見として承っておく」2024年12月3日
-
鳥インフル ポーランド4県からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
鳥インフル ニュージーランドからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】JAみやざき 地域密着と総合力追求 産地県が県域JA実現2024年12月3日
-
今ならお得なチャンス!はじめようスマート農業キャンペーン Z-GISが4カ月無料 JA全農2024年12月3日
-
全農日本ミックスダブルスカーリング選手権「ニッポンの食」で応援 JA全農2024年12月3日
-
JAグループの起業家育成プログラム「GROW& BLOOM」最終発表会を開催 あぐラボ2024年12月3日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」クイズキャンペーン開始 JA全中2024年12月3日
-
日本の酪農家 1万戸割れ 半数の酪農家が離農を検討 中央酪農会議2024年12月3日
-
全国427種類からNO.1決定「〆おにぎり&おつまみおにぎりグランプリ」結果発表 JA全農2024年12月3日
-
JA全農 卓球日本代表を「ニッポンの食」で応援 中国で混合団体W杯2024開幕2024年12月3日
-
「全国農業高校 お米甲子園2024」に特別協賛 JA全農2024年12月3日
-
【農協時論】協同組合の価値観 現代的課題学び行動をする糧に JA全中教育部部長・田村政司氏2024年12月3日
-
「上昇した米価が下がらない要因」などPOPデータを無料配布中 小売店で活用へ アサヒパック2024年12月3日
-
料理キット「コープデリミールキット」累計販売食数が2億食を突破2024年12月3日