JAの活動:農協時論
【農協時論】東日本大震災3.11の教訓と協同組合 JA福島中央会最高顧問・菅野孝志氏2025年3月11日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップなどに、胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は、JA福島中央会、JA福島厚生連最高顧問の菅野孝志氏に寄稿してもらった。

JA福島中央会、JA福島厚生連最高顧問 菅野孝志氏
今日、東日本大震災・原発事故から14年目を迎えた。
前身の我がJAには、「心はひとつ! 明るい未来へ 輝くふくしま!」~3.11からの軌跡~JA新ふくしまホームページに掲載された5年間の記録がある。
午後3時30分「東北地方太平洋沖地震災害対策本部」設置、同時に第1回災害対策本部を開催、速やかな実態把握を確認した。今やるべきことと明日(土曜日)以降やるべきことの確認である。組合員の安否は、組合員や利用者の家屋は、インフラとしての水・電源は、JA施設は――など、数項目を整理した。休日である翌日以降の組合員・利用者等対応のお願いと指示のために7地区に常勤役員・部長が飛んだ。現場での状況をどんなことでも記録して報告してくれ。指示が終わらぬうちに職員の無事を喜び合い、こんな時だからこそ頼むよと声を掛け合いつつ家族の待つ家路に急がせた。
東日本大震災による関連死も含めた死者・行方不明者が22,000人以上にのぼった。発災直後の出荷制限が掛かった時から五重苦の福島「地震、津波、原発事故、農業復興と風評被害、政府統治機能不全」というフレーズで発信を続けた。
その後熊本地震、北海道胆振東部地震、国土強靭化を目指している日本をあざけ笑うように線状降水帯による河川の損壊、土砂災害、そして能登半島地震など災害多発国日本での生きる術を再確認することが重要なのではないだろうか。
教訓1「想定外・大丈夫という認識の甘さが、大きな災害に」
① 地震...大きさ(震度)は震源地の深さやプレートの状況との関係が大きく、即座に予測できるものではないために難しさがある。ゆえに1960年のチリ地震、1964年のアラスカ地震、2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震などを再検証し次なる対策を講ずること。
② 津波...陸地を駆けあがった津波の高さを大学や研究機関の専門家で作る「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ」が調査を行ったところ岩手県大船渡市綾里40.0m、宮古市田老地区39.75m、宮城県女川町35.0m、気仙沼市本吉町26.08m、福島県相馬市尾浜21.3m、いわき市泉町下川15.77mなどと予測を超えた。
教訓2「地域の実情を知る協同組合(JA)だからこそ寄り添うべき」
③ 原発事故...日本の原子力発電所は、辺境の地に立地するものが多い。少数の人が住む町でも人を敬う経済政策は不可欠である。
我がJAグループも2023年5月「東日本大震災の教訓をふまえた農業の復権に向けたJAグループの提言」で農業・地域社会の将来像を描くためにJA自らの取り組み方策と必要な政策を提起して第26回JA全国大会決議に、五つの柱とも言うべき「将来的な脱原発に向けた循環型社会への取り組みの実践」が提案された。が、忘れ去られたように感ずるのは私だけだろうか。近年、広域合併・支店統廃合・縦割りの事業展開でJAの組合員や利用者間で最も付加価値の高い総合性(何でも屋とコミュニティーのつなぎ手と中心的役割を果たすJA)が低下しておりつながりが希薄化している。
復旧・復興は、当然の取り組み課題で地域ライフラインの一翼を担うJAは災害対策に備えるとともに、職員の消防団活動への積極的な参画や集落防災組織の活性化など日常的な活動を下支えする貢献が見られることは喜ばしい。地域コミュニティーの中心的役割を担い「地域共生の未来づくり」に取り組み出したものと評価する。
④ 農業復興と風評被害...原子力発電所の事故による放射能に起因する風評は、一度形成されと改善されることは稀である。指数として12~15%は戻らない。放射能軽減対策に時間と費用を費やしながらも、新たな園芸ギガ団地や担い手の育成のためののれん分けなど創意に満ちた取り組みは評価される。
教訓3「国民(人)中心の施策行政サービスや運動には適切な判断力が求められる」
⑤ 国・政府統治機能不全(県市町村自治体)...あらゆる角度から検討検証し国民の安全を担保する仮称「緊急事態省」=「防災庁」の速やかな設置があればと思う。
避難者への炊き出し支援策は、当時、JAでは3月13日早朝県からの要請を受けて準備に入った。JA(協同組合)の持つ共助と地域(エリア)に立脚するがゆえに施設設備は近くで準備できほぼ半日で全ての原材料が調達できた。翌日朝4時からの炊飯と握る人々により温かい塩結びが4,000個、昼前に届けられた。しかし、適時に配られないために「冷たい塩結び」が夜遅くに配られたものもあった。災害時等要綱要領は、大切な道標であるが緊急時の対処には超法規的判断が求められる。聞くと「みんなに配る数量がそろわなかったから配れなかったとのことである」。そこに避難している人は、主体では無かったということである。
教訓4「大企業東京電力のガバナンス欠如に学ぶ組織学」
福島第一原子力発電所の事故以来,東京電力第一原発や柏崎刈羽発電所での不祥事が頻発される度に、東電幹部に対し企業風土の改善やガバナンスの強化を申し入れて来たが、「ぬかにくぎ」の感が否めない。聞きっぱなしということではないと思うが、東電と下請け会社により構築された大企業「東電」のコーポレートガバナンスの不具合を感じざるを得ない。原子力が故に「頭から尻尾まで技術体系や伝令・確認事項の一気通貫」が求められる。
我々も「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」~協同活動と総合事業の好循環~忘れることなく寄り添い、2025国際協同組合年を実践年と捉え、農に地域に誇りと潤いを醸し出したい。
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