JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代
「若手のホープ」に聞く 食と農と地域、JAへの思い (下)12019年7月22日
・わがJAグループが目指すもの
・規模拡大一辺倒では駄目農業・農協は無限の可能性
・座談会:黒田栄継氏(元JA全青協会長)×飯野芳彦氏(JA全青協参与)×大金義昭氏(文芸アナリスト)
左から大金・飯野・黒田の各氏
◆家族農業を束ねる農協 常に模索し次の世代へ
大金 飯野さんは7代目の畑作農家で、3.5haでエダマメ、トウモロコシ、サトイモ、小カブなど10品目くらいを生産し、黒田さんの経営展開と案外似通っている。
飯野 若いころは、僕らとは真逆の大型経営展開を視察する機会がありました。自分の家に戻ってくると、目の前には15a、20a、10aといった畑が点在している。同じようなことをしようと思ったら、隣の住宅も畑にしなければならない。そんなことは不可能ですから、効率よく畑を活用する以外にない。
雇用問題もあるから、安定的な収益を確保するために、栽培品目を増やしながら、それぞれを経営の柱に据えていこうという考え方に立ちました。
大金 コンセプトは「少量多品目」ですか。
飯野 いや、「中量多品目」です。10a以下だと、どうしても機械が入らないんです。
大金 伺うと、「成長神話」だけに寄りかかった農業経営とは異なるアンチテーゼを示しておられるようで心強い。お二人が相談して、現在の経営に到っているわけじゃないですよね。(笑い)
黒田 トラクターや機械類に同じお金がかかるなら、5ha作るよりも10ha作るほうが、間違いなく効率がいい。しかし、そんな規模拡大だけが正解だと決めつけてしまうと、農業者はますます減る。それを都会出身の政治家の皆さんなどに何度言っても、なかなか分かってもらえない。
大金 現場を知らない机上の発想だから、画一的で機械的な政策に平然としていられる。
黒田 1戸当たりの農業所得が、ある基準年に比べて2倍になったと言うけれど、面積がただ2倍になっただけの話で面積分しか所得が増えていないとしたら、果たしてそれで「成長」と言えるのか。とにかく、規模拡大だけを唱えるのは嫌で、自分の経営だけでもそれだけではないことを示したいという思いがある。
大金 「成長」という言葉より、「成熟」という言葉の方がふさわしいのかな。お二人の経営は「成熟」を志向しておられるようにお見受けします。
飯野 世の中には、浮き沈みがある。規模拡大の一本やりを「浮上」と見なすなら、「沈下」した時の受け皿は廃業しかない。そんな世の中の最低限のセーフティーネットとして、家族農業の多様性やその多様な家族農業を束ねる農業協同組合が存在していると僕は思う。アメリカでさえ、農業経営の8割がファミリ―ビジネス(家族経営)なんですからね。
協同組合というのは、永遠に「未熟」なんだと私は思う。成熟した成果をみんなで分かち合うことも必要かもしれないけれど、常に「未熟」に柔軟に時代に対応しながら、組合員が理想とする農業や地域のあり方を模索し、それを次世代にどう引き継いでいくかが問われている。成熟した成果だけを引き継げば、次の世代はそれに甘えてしまうし、そんなことは現実にあり得ない。
◆もっと「結い」を大切に 農協の歴史を引き継げ
大金 永遠に「未熟」であるということは、「無限の可能性」があるということですね。
ともあれ、「規模拡大・生産性の向上・競争力の強化」一辺倒で、競争力のある農業者だけを残していくとなると、黒田さんが言うように、地域が持たなくなる。私はやっぱり、「金太郎アメ」のような世界より「桃太郎チーム」のような関係の方が、農業や農村には不可欠だと思いますね。百人百様なのだから、異能集団が地域の多様な農業を担い、協同組合に結集する。
黒田 北海道の農業は、先にも触れたように、離農の歴史でもあるんですね。僕らの現在の経営面積までになるためには、その土地にかつて何軒の仲間の家があったか。間違いなく現状の数倍の家はあったはずなんです。農地を開いたそんな先人の恩恵の上に、いまの僕たちがいる。その人たちの血と汗と涙が染み込んだ土地の上で暮らしていることを忘れてはならないし、これ以上の血を流させるわけにはいかない。
大金 同感です。帯広市の35年来の友人で、40haの畑作を経営してきた時田則雄さんに、次のような歌がある。「離農せしおまへの家をくべながら冬越す窓に花咲かせをり」「土地を売り村を去りたる一族のその後は知らず犬が駆けゆく」といった歌です。彼は現代歌人としても著名で、俺たちは仲間たちの墓標の上で農業経営をしているのだと常々語ってきた。
飯野 お盆になると、私の父は朽ち果てたお墓に線香を上げに行っていたんですよ。なぜか知らずにいて、ある時尋ねたら、「元屋敷」のお墓だという。うちには、離農した農家の家財やら農地やらをすべて引き継ぎ、いまで言う「居抜き」で農業を始めた歴史がある。その墓標の下に眠っている先人たちが耕してくれていたおかげで、わが家の現在の農業があると父は言っていた。
畑作地帯の私たちの地域では、昔から「結い」を大切にし、親戚みんなで回してきた。「結い」は協同の原点ですよね。ただ最近は、葬式でもなんでもすべてお金でやれるようになり、「結い」は廃れてしまった。なんか寂しい気がします。
出荷作業する飯野氏
黒田 農協は組合員がそれぞれに困っていたから、足りないものを補い合うために成り立ってきた。それが地域の中の付き合いや農家同士の助け合いとして定着してきたのだと思う。ところが今は、農家1戸1戸が力をつけ、それぞれが恵まれていることもあって「つながり」が希薄になっている。顧みればそれは、皮肉なことに農協のおかげでもあるんですよ。
組合員の経済的・社会的地位の向上を目指し、農協が懸命に取り組んできた結果でもあると思う。そんな歴史や過去への思いを継承していないばっかりに、何か勘違いしてしまうのでしょうね。僕の地元や地域は「つながり」がある方かなと思います。
大金 協同が、絶対的に必要な時代があった。その必要性が相対化し、自分の思惑通りに自立してやれるようになり、「今だけ、金だけ、俺だけ」の社会的風潮と相まって気ままになってしまっている。「忘己利他」などという言葉が、現代ではほとんど死語になってしまっている。
そんな時代に「協同」の精神をどのように共有し、協同組合としてのミッションを新たに背負っていくのか、難しい課題に直面しているということですかね。
黒田 政府による「農協改革」が降って湧いたように飛び出してきた時に、僕はJA全青協の会長を務めていました。正直言って、あの規制改革会議などからそんなタマが投げられてきた時に、こんなレベルの議論は簡単に押し返せると思った。それが、ここまで逆に押し込まれるとは考えませんでした。その原因はどこにあるのか。それをもう一度僕らは真剣に見詰めなおさなければならないと思っています。でなければ、いつまでたっても同じことの繰り返しになる。
大金 その繰り返しの中で、国内農業がますます縮退化しかねない。
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