JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代
「若手のホープ」に聞く 食と農と地域、JAへの思い (上)12019年7月19日
家族農業や協同組合の価値が、国際的に高く評価されている。その一方で、農畜産物の自由化や「農協改革」の嵐に見舞われてきた国内農業は、これを守るJAグループも含めて前途多難の状況にある。そんな渦中の地域で独自の経営に挑み、JA青年組織の活動をリードしてきた“期待の星”に登場いただいた。元JA全青協会長の黒田栄継さんと飯野芳彦さんである。就農して20余年。二人はいま、食と農と地域とJAにどんな思いを寄せているのか。文芸アナリストの大金義昭さんに司会・進行をお願いした。
左から大金・飯野・黒田の各氏
◆「農業やれ」の強要なし 父親の背中をみて就農
大金 現代農業を担い、若手のホープとして「自分の言葉」で農業や農協に寄せる思いを熱く語ってきたお二人にお会いでき、嬉しいかぎりです。今日は日ごろの存念をたっぷり聞かせていただきたい。
この新春に、農業・農村の戦後70余年をふり返ってお話を伺った星寛治さんや山下惣一さんは、お二人にとって父親世代に当たるから、それを継承するような話に発展していったらいいなと楽しみにしています。早速ですが、黒田さんから就農のいきさつなどを聞かせてください。
黒田 小学3年ころまで、私の家は酪農を営んでいました。だから毎日、牛飼いの手伝いをしました。次男の父は、東京の国士舘大学の出で剣道部でしたから、まさに「サムライ」なんですね。尊敬していましたが、怖くもあった。
父は、家を継いでいた長兄が別のところで農業を始めることになり、カナダで農業をやるための永住ビザを取得していたのですが、家業を継いだ。新しいことにチャレンジすることが好きな父で、土づくりに精を出したりしていましたが、いまいちセンスがなかったのか、技術が追いつかずに苦労していたみたいだった。
父は、子供である姉や私や弟に「農業をやれ」とは一度も言ったことがない。「自分のやりたいことをやれ」というので、私は学校の先生になりたいと、愛媛大学の教育学部に入り、教職の免許をとりました。
大金 なぜ「愛媛」だったのですか。
黒田 自分の知らない外の世界を見たかったのと、4年後にはいずれ帰郷するだろうと思っていました。農業が好きでしたからね。祖父は、私が生まれる前に亡くなっているから顔も知らない。でも、あの厳しい自然環境の中で農業に挑んだ祖父や父の世代はやはりすごいなと思います。
1976年北海道芽室町生まれ。
愛媛大学教育学部卒。98年に就農。曽祖父が富山県から入植した畑作農家の4代目。26haで小麦、バレイショ、小豆、ナガイモ、ゴボウ、ユリ根、スイートコーンなどを生産。2014年度JA全青協会長。
飯野 私は農業をやるつもりが全くなく、他業種の世界にあこがれていた。私の父も、 黒田さんの親父さんと一緒で「農業をやれ」とは言わなかったけれど、無言のプレッシャーは感じていました。父は昭和12(1937)年生まれだから、星さんや山下さんと同世代です。戦後まもなく祖父が脳卒中で倒れ、高校進学をあきらめて農業の後を継いでいた父はいつも言っていた。「俺には学がない。現場のことしか知らない。だから勉強だけは疎かにするな」と。若いころに随分苦虫を噛まされたことがあったのかな、と父の年代に近づくにつれ、その心中が分かったような気がします。
祖父が83歳で亡くなった平成3(1991)年に、市街化区域内にある私の家は相続でもめ、農地を売って農業を縮小するのだろうと思っていました。でも、父は農業を継続した。その時にふっと「ああ、これは自分も農業をやらなければいけないんじゃないか」と思いました。大学の進路を決める際も希望のサービス業にこだわっていたら、「別に構わない」と言われて急に寂しくなり、東京農業大学の短期大学部に進学しました。
1977年埼玉県川越市生まれ。
東京農業大学短期大学部卒。97年に就農。畑作農家の7代目。3.5㌶でエダマメ、トウモロコシ、サトイモ、小カブなど10品目を生産。2017年度JA全青協会長。
黒田 そんなものかもね。
飯野 父の年齢を考えて4年制を諦め、2年で卒業し就農しました。おかげで父と共に8年間、農業の最前線を踏むことができた。父のガンが発覚したのが69歳の時でしたので、もし就農が2年遅れていたら、6年しか父から農業を学べなかったことになります。
◆周囲の励ましで"奮起" クミカンは協同の原点
大金 お二人が就農したのは、平成11(1999)年に食料・農業・農村基本法がスタートする前夜ですよね。
飯野 就職氷河期でもあったから、仕事があるというだけで周囲の学生からはうらやましがられました。反面、バブル期の余韻が残っていた地元の先輩たちからは「農家を継いで偉いな」と言われました。自分の意思で決めたことだから、別に偉くはないのですがね。
黒田 私の場合、自分が農業をやると言った時、実は地元の農協からは駄目だと言われた。
飯野 えっ!
黒田 飯野さんが言ったように、当時はバブル期の影響が残っていて、面積をいっぱい持っていた農家が土地をどんどん増やして、ものすごく伸びた。規模拡大に成功した人は、鼻息が荒かった。そんな立派な農家に帰ってきた同世代の息子さんたちは、元気がよかった。しかし、十勝地方の農業はいったん経営が傾くと、他の仕事を掛け持ちできないので離農するしかない。一方では、離農の歴史でもあるんですね。
父は時代の波に乗り切れなかったのかな。経営状態があまりよくなく、そんなところに何の経験もない若者がぽんと帰ってきて、立て直しなど出来ないといったレベルだったのです。
大金 北海道の農協はクミカン(組合員勘定)制度によって、組合員にそうした厳しい提言が出来た。組合員の経営状態によっては、農業を継続するよりも離農して新しい生活を決断したほうが、より大きなリスクを回避できるという選択肢を提案できた。そのほうが、組合員本人にとってもベターだからですね。
黒田 不良債権を過分に抱えてしまうと、やめる農家も大変ですから。
大金 やめられる周囲の農家の負担にも、結果的にはなりかねなかった。
黒田 それが協同組合ということですね。その時に今でも忘れられないのは、農協が最終的にすごく親身になってくれたこと、地域の先輩たちが農協に掛け合ってみんなで支えようと動いてくれたことです。厳しい条件がありましたが、周囲の力強いサポートや励ましがあって、今の私がある。だから、絶対に失敗したくなかったし、人より頑張らねばと思った。なかには、私のところがやめるのを楽しみにしている人もいるはずなんです。
大金 土地が出てくるからね。
黒田 先祖に感謝しているんですが、うちの土地は540m×540mの真四角の1枚で、こんな良い条件の土地はなかなかない。何をするにも、作りやすい。だから絶対に負けないぞと、最初の何年かは必死でした。
大金 黒田さんのやる気や本気・勇気に、農協の先輩たちが突き動かされたということでしょうね。やる気さえあれば、鍋・釜持ち寄っても助け合おうという精神が、北海道には開拓時代からある。
黒田 クミカンについて国はいろいろ言っていますが、クミカン制度こそ農協の最たるものだと思う。それを否定しておきながら、改革して「農協らしくなれ」というのは大きな矛盾です。
飯野 組合員が組合員のために組合員を評価し合うというクミカン制度は、僕もすごく良いと思う。「地域協同」の原点でしょ。お金だけでなく食べ物ひとつをとっても、みんなでこの地域に生きていくのだという考え方が根本にあって、その頑固さをしっかり持っていないと、協同組合の原理や原則は崩れてしまう。グローバルな時代だからこそ、その「強み」に磨きをかける不断の取り組みが大切ですよね。
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