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特集:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代

2019.07.23 
【提言 JAグループに望むこと 姉歯暁・駒沢大学教授】農協は地域の"命綱" 多様なニーズに対応一覧へ

 食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代を本当に迎えるために、いまJAグループは何を考え、どのような行動を起こすことが必要なのかについて、姉歯暁駒沢大学教授に提言していただいた。

姉歯 曉(あねは あき)駒沢大学教授姉歯教授

 

◆蓄積した知識活用 計画作り実行支援

 JAはもちろん農家のために協同する組織である。しかし、JAが農業に専念したサービスにとどまっていては農業そのものも守ることはできない。農協は農家に特化したサービスを提供せよと政府はいうが、そもそも農業がコミュニティを作り、また農業が共同体としての機能を必要としていることから考えても、農家を守るためには、JAは組合員である農家の枠を超えて地域全体の課題に関わらざるを得ない。その地域共同体には、子育て中の家族もひとり親世帯も、高齢独居世帯も障がいを持った人も、それこそあらゆる異なったニーズを抱える人々が住んでいる。そしてその誰もが地域を支える力になりうる人々である。そんな地域共同体の複雑な構造を無視して、農家と農家以外、組合員と准組合員を切り分けていては地域の維持はできない。
 もともと農協は「地域のライフライン」として、農村の暮らしを丸ごと支える仕組みを作り上げてきた。例えば、農協の助け合いは、共同炊事や保育所の開設、ヘルパーの養成など、長きにわたって農民のライフサイクルに寄り添い、さまざまに形を変え、その裾野を広げてきた。農協の医療・厚生事業は、1919年に島根県鹿足郡青原村(現・津和野町)で始まっている。長野県厚生連佐久総合病院の若月俊一名誉総長(故人)がその生涯を通じて取り組んだ農村医療の実績は日本から世界へと発信されることとなった。生活指導員は営農に限らず貧しさや家族制度の暗闇に放置された女性たちにもその手を差し伸べた。流通網からこぼれ落ちた過疎の地域では、農協の店舗が農作業用の資材と一緒に日用品や食料品を店舗に並べて暮らしを支えてきた。今も、過疎地域では、Aコープの小さな店舗だけが自動車を運転できない高齢者の食の隙間を埋めている。メガバンクの窓口が不在の地域でもJAバンクの窓口はそこにあった。
 今日、医療の偏在も解決するどころかますます深刻化している。山あいに住む知り合いのお年寄りは、具合が悪いのに総合病院まで1時間半も車を運転し、長時間待ってやっと診療を終え、帰宅途中に事故で亡くなった。「それなら」と政府はコンパクトシティ構想を打ち出し、住民を1か所に集めて銀行や病院、商店をそこに集中させることを提唱している。このような話は何も目新しいものではない。むしろこれまでがまさにそうだったではないか。資本の集中による過疎と過密の発生、銀行や商店の撤退、公的施設も「採算が合わない」ことを理由に閉鎖してきた結果、インフラは「コンパクト」に1か所に集中し、生活の場からますます遠くなった。
 地域再生に取り組むリーダーたちは、経験上、地域の課題を把握し、ともに動くためには小学校の学区単位がちょうど良いと言う。集落の誰もが容易にアクセスできる場所に拠点を作ることであり、さらに言えば、その拠点は何も箱物とは限らないということである。今必要なのは、ライフラインの分散である。また、希望する住民に対して、たとえ最後の一人になっても住み慣れた場所に最後まで住む権利、移動の自由や医療アクセス、生活用品の供給を保証する包括的な社会保障システムを国や地方公共団体が構築することであり、同時に、地域の要求をくみ上げ、公的機関と交渉し、ともにプランを作り実行をサポートするコーディネーターである。JAはその役割を果たすノウハウを蓄積させているはずである。

 

組合員と対話深める農家訪問組合員と対話深める農家訪問

 

◆現場を歩いて対話 地域との結合強化

 それまで過疎に悩んでいたある地域では、住民の足を確保しようと、地域の住民自身が車両を購入してオンデマンドで外出・付き添い支援を行い、アンケートで見えてきた地域の資源を加工品にした。その栽培と収穫には地域の児童、障がい者、高齢者が一緒に関わる。若い移住者も増え、彼らを巻き込み、ともに試行錯誤しながらどうしたらそれぞれが生きがいを感じながら地域に愛着と誇りを持って住み続けられるのかを考える、現在進行形の地域づくりがそこでは展開されている。
 数々のアイデアを形にしてきた事務局長はJAで長年地域の課題をその目で見てきたもと青年部員である。これらの事業にはJAや市当局の理解と協力は不可欠であった。この地域のJAと自治体の担当者に共通していることがある。それは、職員が現場を自分の足で訪ね歩き、常に地域の農家と対話し、共に作業に参加しているという点である。上司は職員に対してデスクに座って誰か来るのを待っているのでは駄目だ。とにかく地域を歩き、農作業を経験し、農家と共にあるようにと話していると言う。JAが広域合併を進めている中で、現場との関係を将来にわたって引き継いでいくことは難しい。それでも、JAの存続は、現場を知り、現場と協働する以外にはないものと考える。
 これまでも言われてきたことだが、自然と共生し、自然のサイクルで生産活動を行う農業が生産性で製造業と競争することはできない。大規模な農地で輸出志向の農業を展開するアメリカやニュージーランドと規模の大きさで競争することもまたナンセンスなことである。
 どうも最近、国民が忘れているようなので、再びここに記しておきたい。洪水防止機能や地下水を作り出す機能、気候を緩和する機能などの「農業の多面的機能」に対して日本学術会議が2001年に貨幣評価を行った。価値額は年間8兆2000億円、それも「農業の多面的機能のうち、物理的な機能を中心に貨幣評価が可能な一部の機能(日本学術会議)」に過ぎない。
 井上ひさし氏の『コメの話』によれば、農林業が生み出す国土保全機能は年に37兆円に相当する。農業が縮小していけば、私たちはそれまで無料で享受していたものをそれだけ失うことを自覚すべきである。アメリカから軍事兵器を買い入れる金があるなら、それを食料安全保障にこそ使うべきである。また、考えてみれば、これまで農家が生み出した資源を利用し、農村の豊富な労働力を利用して大企業は多額の利益を上げてきたのに、その見返りをまだ農業は受け取っていない。そう考えてみれば、政府がこうして農家に支払いを滞納している大企業からきちんと税金を取り、これで農産物価格を保障し、戸別所得補償で農家を支えることもまた当然の要求である。

 

多面的機能を果たす棚田(兵庫県丹後半島)

多面的機能を果たす棚田(兵庫県丹後半島)

 

◆国民に農業を訴え 政府と対決姿勢を

 振り返ると、JAは、原発や公害と闘い、市民と共に自然環境を守る運動の中にいた。例えば、福島県の浪江・小高原子力発電所、宮崎県の串間原子力発電所などの建設計画を白紙撤回させた例を思い起こせば良い。
 TPPに反対する署名は全国1000万人を超えた。必ず選挙に行く農家の一票一票は変わらず存在感をもっている。農協から信用・共済事業を切り離すことに懸命な政府は、各地で「准組の利用制限」に対する反対の声が高まる中、とうとう「『准組合員の規制』をどうするかは自分たちで判断せよ」といわざるを得なくなった。その一方で、「准組合員の利用制限」については、今後5年間をかけて調査を行ってその是非を問うことになっているので諦めたわけではないのだが。2019年4月に日本農業新聞が行ったモニター調査では、安倍内閣の農業政策に対して約7割が「評価しない」と答えており、さらに先述した2019年3月の集落営農法人・組織に対する調査でも安倍政権が掲げる所得倍増の方向に対して87%が「進んでいない」と答えている。ただし、これらの安倍農政批判がそのまま選挙で投票行動に現れるかといえば、そうはなっていないのが現状である。学生に聞かれたことがある。「悪いことは悪い、良いことは良い、なぜそんな簡単なことを行動の基準にできないのでしょうか」
 かつて、農協から信用事業を切り離そうとする「平野私案」が政府によって示されたことがあった。1956年のことである。その時も、政府は日本の農業が生産性が低く、補助金に頼っていて国際競争力が弱いとして農家や農協を非難したが、農協はマスコミと国民世論を味方につけてこれに立ち向かい断念させた。JAが、押し付けられた「農協改革」に対して安倍首相が農協を励ましてくれているなどと受け止めるほどお人好しではないことを心から望むとともに、もっと果敢に国民に訴え、政府と対決していく姿勢を鮮明にすることを望みたい。

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