JAの活動:第6回JA営農・経済フォーラム
JA全農経営管理委員会委員(農水省元大臣官房長)荒川隆氏【第6回JA営農・経済フォーラム】2020年11月19日
今回の基調講演は農水省の元大臣官房長でJA全農経営管理委員の荒川隆氏が「食料・農業・農村基本計画と農協系統への期待」と題して基調講演した。荒川氏は農協がめざすべき方向は協同組合原則を基盤とした「地域総合事業体」として自信を持って前進する必要があると強調した。概要を紹介する。
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(農水省元大臣官房長)荒川隆氏
今年3月策定の食料・農業・農村基本計画では、強い農業を実現し産業として成り立つ経営体を実現するための「産業政策」と豊かで活力ある農村を実現するための「地域政策」を車の両輪として位置づけて政策展開することが閣議決定された。
安倍政権の農政は一時期、産業政策偏重が懸念されたが、今回は中小・家族経営など多様な経営体による地域の下支えや、地域資源を活用した所得・雇用機会の確保、農村に人が住み続けるための条件整備などが明記されたことは評価できる。
ただ、地域の疲弊にもつながりかねないEPA(経済連携協定)時代が始まった。TPP交渉に参加反対の公約からわずか2カ月で自公政権は方針転換し、平成27年にはTPP大筋合意にいたった。センシティブ品目を交渉によって「除外」または「再協議」としてきた従来のEPAとは異なり、多くの品目で長期の関税削減と輸入枠が設定された。協定受け入れのためのTPP国内対策を決定しTPP(環太平洋経済連携協定)は平成30年12月に発効、その後は日EU・EPAや日米貿易協定も発効し日英貿易協定も署名された。いずれもTPP並みの水準で収まったからいいだろう、と説明されるが、TPP協定自体が厳しい。それでいいのか大いに懸念される。求められる政策対応は個別経営体の努力では克服できない圧倒的な国内外の競争条件格差の是正である。その点で昨今の関税の削減など国境措置の劣化は将来に禍根を残すのではないか。
そのなかでめざすべきは、個別経営体が規模を拡大して輸出も含め所得向上しさらに規模拡大するというミクロの好循環が期待される一方、多数のリタイア農家の出現と集落の崩壊、耕作放棄地の拡大というマクロの悪循環に留意して、産業政策と地域政策のバランスで豊かで元気な地域の実現を図ることだ。地域政策なき産業政策では「一将功成りて万骨枯る」になる。
政策としては戸別所得補償制度への期待を10年経った今もまだ現場から聞く。しかし、民主党政権の「コンクリートから人へ」のかけ声のもと、農水省はいわば「ひとりコンクリートから人へ」をやらされ農業・農村整備事業の大幅削減を行い、その財源で戸別補償を実施した。しかし、戸別補償一本足打法では課題は解決せず、自給率50%は絵に描いた餅となった。定額給付で米の買い叩きが生じて米価下落で変動払いも発動し、総額3000億円の交付でだれが結局得したのか。
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新たな基本計画のもとではまずは農協改革の総括が必要だ。専門家が不在の規制改革会議が上から目線で農協改革を提言し、それをもとにした農協法改正案の立案過程では准組合員規制の導入などを人質に取るかのような手法で合意を形成するという非常に卑怯なやり方だったと思っている。
そのなかで農協は農業者の職能組合であり、地域ための事業をやりたければ株式会社に分社化すればいい、貯金者保護の観点から農協が信用事業を行うことはよくないといった農協の歴史と農村の実態を無視した暴論も出てきた。
ただ、こんな農協改革が押し進められたのはなぜかも考える必要がある。組合員の営農や生活より組織優先になっていなかったか、地域住民や消費者に対して農協への理解促進活動は十分だったか、さらに真に味方になる政治勢力を醸成できていたか、などだ。
市町村が疲弊し集落行政力が脆弱(ぜいじゃく)になるなか、農協への期待は高まっている。農協は協同組合原則を基盤とした「地域総合事業体」であるべきだ。職能協同組合原則にとらわれた古い理念から脱却し、地域政策・社会政策などさまざまな分野で地域で最大の担い手と自信を持って前進する必要がある。産業政策の担い手としては、地域農業振興計画の策定への積極的な関与や、生産基盤強化のための産地形成、輸出促進とグローバル産地の育成などが期待される。地域政策では資本の論理では店舗などが撤退しかねない地域社会で、組合員以外に対する総合事業体機能の発揮も求められる。さまざまな農業団体や商工会、地域づくり組織などを巻き込むコーディネート機能の発揮も期待される。
こうした活動をボランタリーで行うのではなく、地方公共団体と連携協定を締結し経済対価を得るなど総合事業体の本来事業と位置づけることが必要だ。そのためには法的な位置づけと財政的な裏付けが必要になる。「真の味方」は誰なのかを見極め、農業・農村の価値を共有できる仲間づくりが何よりも重要だ。
効率至上主義や競争万能主義への違和感が顕在化するなか、コロナ後の社会を見据えて終わりなき競争から地域協同社会での「安寧なる共存」への転換が求められている。地方回帰、国産への再評価などの動きもみられる。価値観・パラダイムの揺らぎを一過性のものとせず自信を持って幸福で安全な経済社会の実現をめざしていただきたい。
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