JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【コロナ禍で命と向き合う厚生連】「全力で駆け抜けた」JA北海道厚生連旭川厚生病院看護師に聞く【第29回JA全国大会特集】2021年11月15日
JA厚生連は、今般の新型コロナウイルス禍において、感染症患者の受け入れに加え、発熱外来の設置、感染症患者の病床の確保や自治体のワクチン接種への協力など、公的医療機関として積極的に協力してきている。
このような状況の中で、JA厚生連では、新型コロナウイルスの感染者が増加し、医療体制がひっ迫している大阪府・沖縄県・東京都に対して、看護師派遣を行い、コロナ対応に尽力している。そのうちの一つである北海道の旭川厚生病院に勤務する看護師にコロナ対応についてインタビューした。(聞き手=JCA客員研究員の根岸久子氏)
2020年11月20日に新型コロナウイルスの大規模な院内感染が発生したJA北海道厚生連旭川厚生病院(患者と職員311人が感染)は、感染収束までの2カ月とその後の市内感染拡大のなかで感染者の治療と感染防止に取り組んできた。今回はその最前線で奮闘した二人の看護師に当時の状況を聞いた。コロナウイルスはまさに未知との闘いで、手探りの中での対応だったが、二人とも「今回の経験を後輩たちに伝え、地域の中核病院として守っていきたい」と話している。
感染リスクが重圧 無念さ風化させぬ
島田係長
――まず、お二人に自己紹介をお願いします。
島田佳代と申します。緩和ケア病棟勤務でしたが、院内感染でレッドゾーン(汚染領域)のスタッフが心的疲労や感染等で休む人が多くなったため、レッドゾーンに異動し、現在もコロナ病棟です。
保土澤智史です。外科病棟から今年5月に災害派遣で大阪に2週間行き、その後コロナ感染病棟で2カ月勤務し、現在は外科病棟に戻りました。
――最初に旭川厚生病院のコロナ感染対応についてお伺いしたいと思います。
保土澤 昨年11月の院内クラスター発生の際は、PCR検査で陽性だった入院者は一般病棟の一角をゾーニングしたレッドゾーンに移動してもらい、スタッフは一般の患者を見ながらコロナ患者も見る状況でした。
感染者対応は外部の専門家の指導も受けながら、院内のクラスター対策班が作ったマニュアルを共有し実践してきました。しかし、クラスター収束後、今年に入り市内感染が拡大したため、旭川市の五つの大病院が対応を協議し、高度医療が必要な患者の受け入れ病院と軽症者受け入れ病院を区分けしました。エクモがなかった当院は軽症者を受け入れ、6月には緩和ケア病棟を感染症専門病棟にしました。
――感染不安の中でスタッフは次々とダウン。看護だけでなく種々の仕事もあったようですが。
保土澤 職員の感染不安もあり、クラスター発生時は家族のいる職員には病院がホテルを借り上げました。私は一応防護具着脱の知識はありましたが、実際にやってみると大違いで、脱ぎ方を失敗すると感染の可能性があるので、手探り状態で緊張しながら働いていました。
感染者の看護業務は普段と変わらないが、現場では全身を覆うガウンを着て、N95マスクをつけ、手袋もしたままのフル装備なので、汗だくでした。順番に休憩はとるが病棟全体がレッドゾーンなので一回入ってしまうと、そのまま数時間、全て着たままそこにいました。どこかに破損があるとクラスターが拡大するので、緊張感の中でスタッフにも感染不安があったと思います。
島田 感染対策の指導は受けてはいましたが、慣れないので全て手探り。加えて次々にスタッフが倒れ、また新しい人が来るという入れ替えが多かったので、事故を起こさないようコミュニケーションをきちんと図り対応していました。しかもレッドゾーンには看護補助や清掃業者は入れないので、掃除や排泄・食事の管理等の業務も全てこなしながら働いていました。
――患者やご家族への思いはどうでしたか。
島田 感染の不安もあったが、最後の時を迎えているのに家族に会えないままの患者さんや急逝した患者さんをみるのは辛く、特に患者さん家族に死亡後の手続き等を説明する時が辛かったです。
保土澤 コロナ感染者は家族と面会できないので、家族には電話で病状を伝えますが、急変の時もそのことだけしか伝えられない。家族と会えないまま最後を迎える人もおり、スタッフもそれに心を痛めたと思います。
――看護を支えた思いとは?
島田 私は事務職として就職しましたが、病棟で働く看護師の仕事を見て苦しんでいる人に手を差し伸べるやりがいがある仕事だなと思い看護師になりました。だから困っている人がいたら手を差し伸べるのが当たり前のように動く自分がいました。レッドゾーンで働くスタッフは使命感や頑張ろうとの思いで皆仕事に向かっていたと思います。
保土澤 私はクラスター発生時に感染し10日間の隔離生活で、その間に病院がめまぐるしく変わったことを聞いて休んでいて申しわけなく、だから復帰したらガムシャラに働こうと思っていました。
職員のなかには帰宅しても十分に休めない、寝られない等、精神的ストレスを抱えながら駆け抜けた人も多かったと思います。当院が医療ひっ迫の大阪府に5人、東京都に2人の看護師を派遣した際には30人位の看護師が応募したと聞いています。
――厚生連旭川厚生病院が当地域で果たしている役割についてお伺いします。
保土澤 当院はがん診療の拠点病院で、また少子高齢化で旭川市内でもお産ができる個人病院や周産期の妊婦を受け入れる病院も少なくなるなかで、周産期医療や小児科入院施設もあり、幅広い世代の診療ができ、地域住民の健康を守る役割を果たしていると思います。
クラスターが発生した病院に不安を感じる人もいると思うが、病院再開ニュースを聞いた市民が「信頼している先生たちがいるので安心しました」と話していたように、それでも旭川厚生病院で見てほしいと思う人は少なくなく、今、入院している人も旭川厚生病院を信頼して来てくれている人たちです。
――コロナ禍で学んだことはありますか。
保土澤係長
島田 コロナだけでなく、感染に関しては常に意識しています。またコロナ禍では患者さん一人ひとりへの対応が難しかったが、その無念さは忘れずにいたい。コロナ患者を看護させてもらうなかで、どんな状況でも患者さんときちんと向き合っていきたいという気持ちが強くなりました。
保土澤 なぜこんなにコロナが拡大してしまったのかとの思いがあり、安全対策にはより気をつけたいとの気持ちが強くなった。今は一般患者さんは陰性確認してから入院していますが、今後二度と同様のことを発生させないためには安心せず、経験を生かしていきたい。
島田 身体的にも精神的にも負担はあったが、コロナ禍で自分のできることは何か、どう貢献できるのかを考え、自分なりに体験し学ばせてもらったことが良かった。この経験を後輩たちにも伝えることができると思います。
保土澤 私は看護師派遣で大阪に2週間行ってコロナ感染の現場を見てきました。今は外科病棟で働いているが、そこに感染者が来ないとも限らないので、これまでの経験を感染者病棟以外にも伝えていきたい。
院内クラスターを経験しているので皆分かっていると思うが、記憶は薄れるかも知れないので感染対策の大切さを風化させないよう伝えていけたらと思います。
【取材を終えて】
今回のインタビューを通して、コロナ感染病床で自らも感染不安を抱えながら、心身ともに過酷な労働環境のなかで走り続けた看護師さんの現実を知ることができました。そうした中でも、お二人は患者さんやその家族の思いにも寄添う真摯(しんし)な姿勢と、「戦場」とも言えるコロナ感染の現場で冷静さを保ちつつ、コロナ禍を駆け抜けていきました。そして今、院内感染を防ぐためにこの経験を後輩にも引き継ぎたいと語る。感染対策では後手後手の対応に留まった政府には、こうした医療現場の現実にも目を向けつつ、今後の医療のあり方を検討して欲しいと思う。(根岸久子)
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