JAの活動:農業復興元年
5時間並んでも食べたい「おにぎり」 客とともに築き上げた東京・大塚のおにぎり専門店「ぼんご」の味2023年1月6日
5時間並んでも食べたくなる“おにぎり”――東京・大塚駅近くのおにぎり専門店「ぼんご」。米離れが進むと言われる中で、日常的に長い行列ができる人気店だ。目の前で具がたっぷりのおにぎりを握ってくれるライブ感。お客さんとともに改良を重ねた味。誰よりもお客さんに頭を低く下げる女将さんの姿。店の魅力を探るとともに“おにぎり”にかける女将さんの思いに迫った。
「ぼんご」の女将 右近由美子さん
気温が8度まで下がった12月半ばの夜、「ぼんご」に並んでみた。寒さのためか行列は15人ほどといつもよりは少なめ。1時間弱で店内に通されると、立ち上る湯気越しにおにぎりを握る職人の手元に目を引かれた。
具を入れるというより、たっぷりの具をご飯で包み、さらにふっくらとのりで包み込むような握り方。最後におにぎりの形を整えるように半回転させて「トン」と台に立たせ、てっぺんにも具を入れて完成。この間、1分半から2分ほど。目の前で繰り広げられるこのライブ感が「ぼんご」の魅力の一つと言われる。普通のサイズより一回り以上は大きなおにぎりが目の前に置かれた。
一番人気のシャケと「ぼんご」オリジナルの卵黄のおにぎり
不眠不休の日々も 握り続けた46年間
「ぼんご」は昭和35(1960)年創業。現在、切り盛りするのは、右近由美子さん(70)だ。新潟市出身。20歳で実家を飛び出し、上野の喫茶店で住み込みで働く中、友人に誘われて「ぼんご」を初めて訪問した。当たり前のように米のおいしい新潟で育ち、東京ではおいしいご飯がなかなか食べられないと思っていた矢先、「ぼんご」の味に驚かされた。
「青じそと柴漬けのおにぎり。1個100円でした。こんなおいしいものがあるんだって思いました」。店主の祐さんをはじめ店の温かい雰囲気にも惹かれ、毎日通うようになった。24歳で祐さんと結婚、最初は洗い物などを手伝っていたが、職人が倒れたことを機に自らおにぎりを握るようになった。
当時の大塚は深夜も賑やかで、「ぼんご」は午前11時半から深夜2時まで営業していた。その後、由美子さんが50歳のときに祐さんが脳梗塞で倒れてから他界するまでの10年間は朝3時か4時に起きて閉店まで働きづくめ。「テレビを観た記憶がありません。一番大変な時期でした」。カウンター内で立ったまま仮眠するような日々を送った。1日に握るおにぎりは1000個から1500個。腱鞘炎になりながらも1人で握り続けた時期があったと振り返る。
お客さんと築き上げた"ぼんごの味"
こうした生活の中で「ぼんご」独自の味を作り上げた。まず具の種類が多い。嫁いできたときは20種類ほどだったが、常連客の「食べたい」の声に応えるうちに次々と増えて今は57種類に増えた。
握り方も工夫を重ねた。すし職人の握り方を見て、「口の中でほどけるような柔らかさがいい」と気付き、目の前で食べるお客さんの表情を見ながら握り加減を調整した。また、嫁いできた当初、まかないでおにぎりを食べたときに最後に一口、白いご飯が残るのが残念で、「自分が握れるようになったら具材はたっぷり入れる」と心に決めていた。こうしてノリに包まれるようにふっくらした具だくさんの"「ぼんご」のおにぎり"が育まれた。
「ぼんご」の店内の様子
米や具材にもこだわる。米は元々コシヒカリのブレンド米だったが、おにぎりに適した粒の大きさを持つ新潟の岩船産コシヒカリにした。ノリや塩もお客さんの声を聞きながら改良し、ノリは九州の有明産、塩は沖縄産に行き着いた。握り方から具材まで、すべて客と築き上げてきたと由美子さんは語る。「教えてくれたのは主人でなくお客さんでした。すべて積み重ねてきた結果です」
「ぼんごの味」に癒され愛され
おにぎりを握り続けて46年。記憶に残るお客さんの話は尽きない。
ある日、2時間待っておにぎりを買い求めにきた年配の女性がいた。事情を聞くと、末期がんでほとんど食事ができなくなった夫に何か食べたいものがないかと聞いたら「『ぼんご』のおにぎりが食べたい」と言われ、来店したという。
また、数年前、「お母さんを思い出した」とおにぎりを食べながら涙をこぼす若い女性もいた。こんなとき、由美子さんは「おにぎり屋をやってきてよかった」と心の底から思う。「こうしてお客さんからパワーをもらって今があるんです。辛いことばかりならとっくにやめていますよ」
20代の若者も「米がおいしい」
最近は「ぼんご」の話題がSNSなどで広がり、通常でも2時間待ちはザラ。土曜日などは関西や九州といった遠方からの客も多く、5時間待ちになることもあるという。
平日の夕方、店の前で並ぶ客に「ぼんご」の魅力を聞いてみた。比較的若い客が多い。
池袋から訪れた20代男性は「きょうで3回目かな。具だくさんとコシヒカリのおいしさが魅力ですね」と話した。亀有からの20代男性は「ユーチューブで話題ですし、友達にすごくおいしかったと言われたのがきっかけです。米がとにかくおいしい。きょうは2時間待ち位と言われましたが、僕的には並ぶ価値があります」。
年配の常連客も並んでいた。妻と訪れた60代男性は「昔からおにぎりといえば『ぼんご』か浅草の『やどろく』と言われ、20年以上通っています。おにぎりの大きさと具の多さが魅力かな。特にすじこが好きで並んでも来たくなります」
弟子が語る女将さん 「誰よりも深くお客さまに頭を下げる」
現在、「ぼんご」の営業は午前11時半から深夜0時までで、由美子さんがスタッフ6人と交代しながら店を切り盛りしている。「ぼんご」の味に魅せられて"弟子入り"するスタッフも後を絶たない。
修行中の橋本信伍さん 1月に新宿で店を開業する
昨年3月にアパレル業界から転身した橋本信伍さん(43)もその一人だ。勤めていた会社が取り寄せた「ぼんご」の味に触れて「これまで食べたおにぎりと全然違う」と感動した。さらに由美子さんの人柄にも惹かれ、自分もおにぎり店を開きたいと修行を思い立ったという。
強く印象に残っている由美子さんの姿がある。「お客さまが会計を済ませて帰るとき、スタッフの誰よりも頭を低く下げるんです。1人1人に対してなかなかできることではありません。よく女将さんは『人を売る』仕事だと言いますが、まさにそうした姿勢を感じます」
修行からまもなく1年。橋本さんは今年1月、独立して東京・新宿におにぎり専門店「こぼんご」をオープンさせる。「女将さんをがっかりさせないよう、しっかり頑張ります」
70歳定年を返上 元気な限り現役
由美子さんは数年前まで「70歳で定年」と考えていたが、返上したという。大塚の新しい街づくりを進めるグループが、「古き良きものも育てたい」と「ぼんご」の名を挙げたのが一つのきっかけだった。さらに「大塚に恩返ししたい」と近所の知人に話したとき、「『ぼんご』があるだけで十分だよ」と言われ、心の中で誓ったという。「元気でいる限りずっと店を続けよう」
今年、地元グループと共に米を原料にしたビールづくりに挑戦する。春に岩船産コシヒカリをつくる農家をたずね田植えをする予定だ。「今から農家の方の顔を見るのが楽しみです」と顔をほころばせた。
いろんな人をつなぐ"お米"
最後に米を作る農家へのメッセージを聞いた。
「1個のおにぎりだけをみてもお米やシャケなどを通じていろんな人がつながっています。私たちは作り手ですが、元のお米を作る農家の方がいないと成立しない仕事です。米がおいしいからこそおにぎりができることに感謝していますし、米のおいしさを知ってお店にくる若者もたくさんいます。ぜひそのことをお伝えしたいですね」
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