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JAの活動:農業復興元年・JAの新たな挑戦

【農業復興元年・JA組合長特別座談会】自給率 生きざまに直結 基本法改正は国民全体の問題(1)2023年8月1日

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農水省は「食料・農業・農村基本法」の見直し作業を進めている。基本法の改正と今後の農政はどうあるべきか。本特集ではJAトップによる座談会を開催した。座談会では食料自給率向上のための課題や、多様な担い手の位置づけなど政策課題とともに、地域の消費者を巻き込みJAがリードする農業振興と地域づくりに取り組む必要性が強調された。

【出席者】
JA常陸(茨城県)組合長 秋山豊氏
JAぎふ組合長 岩佐哲司氏
JA鹿児島きもつき組合長 下小野田寛氏
コメンテーター 横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
司会 文芸アナリスト 大金義昭氏

JA常陸・秋山豊組合長 JAぎふ・岩佐哲司組合長 JA鹿児島きもつき・下小野田寛組合長左から、JA常陸・秋山豊組合長 JAぎふ・岩佐哲司組合長 JA鹿児島きもつき・下小野田寛組合長

食料安保の中で自給率どう考える

大金 「食料・農業・農村基本法」の見直しが議論され、去る5月末には中間とりまとめが行われました。7月からは各地で意見交換会も開かれています。今日は現場をふまえ、農業のあり方や農政の方向などについて、基本法の見直し論議を念頭にお話しください。初めに、本紙シリーズで見直し論議を詳しく追跡してこられた田代さんから座談会の論点を提起していただけますか。

田代 まずは食料安全保障、とくに「食料自給率」です。今年の『白書』の特集は食料安全保障ですが、そのなかで自給率という言葉が一言も出てきません。要するに、自給率抜きの食料安全保障です。そういうなかで自給率をどう考えるか。
農畜産物の「適正価格」も大きな論点ですが、生産資材価格の高騰をどう転嫁するかだけの話になっている。農業者が額に汗して働いた労働の成果をどう反映するかという自家労賃評価の問題がまったく抜け落ちています。
「多様な担い手」は当初は農業の担い手と認められていなかったが、反対が多く中間とりまとめには記述されました。ただ、座長の中嶋康博さんは、これが法律に書き込まれるかどうかは分からないと言っていますから、これからが踏ん張りどころですね。
それから「農村振興」です。中間とりまとめでは関係人口を増やすことが強調されていますが、都会から人に来てもらうだけでなく、農業・農村の中から農村を支える人が出てくる必要がある。そのためにはどんな政策が必要か。
これらの点にこだわらず、現場でJAを指揮しておられる立場から何を主張するか。あるいは基本法改正論議を踏まえて私たちはこういう方向に進みたいといった話を聞かせていただければと期待しています。

大金 秋山さんから順次お話しいただけますか。

基本法見直し議論に危機感

JA常陸 秋山豊組合長JA常陸 秋山豊組合長

秋山 コロナ禍とウクライナ侵攻で国民や消費者のみなさんが食料に不安を抱き、農業に関心を寄せ、環境問題などとも相まってそれらの不安や関心に応える基本法の見直しになるのではないかと期待していました。
しかし、議論が進むにつれ、結局は現行農政の軸である輸出やIT活用、転作の継続といった、この後に続く予算獲得や予算枠の維持に対する思惑が強くなっているように感じています。はっきり言えば、危機感がつのる一方です。
この見直しで5年後、10年後、あるいは現在語られている台湾有事や大災害、大凶作などに耐えられるのか。消費者のみなさんに大きな迷惑をかけることにならないのかという不安です。JAとしてどれだけのことができるか分かりませんが、もうあまり国の政策には期待しないで、ローカリゼーション、つまり、地方自治体や地域や集落などと手を組んで食料危機に備えたり食農教育を実践したりしたほうが、実効性が高いのではないかと考えています。

協同組合として何ができるかこそ

JAぎふ 岩佐哲司組合長JAぎふ 岩佐哲司組合長

岩佐 「食料・農業・農村基本法」を読むと、農業者のためでなく国民のための法律になっていますよね。
今回の中間とりまとめでは、平時からの食料安全保障を強調し、JAグループもそれを強く主張しましたが、私にはどうもよく分かりません。平時からの食料安全保障とは、食料アクセスの問題ではないですか。この問題は国民全体の問題であり、生協や消費者のみなさんが主張するならともかく、これをJAグループが第一番に訴える理由がよく分からない。秋山さんが言われるように、法律がどうかということよりも、協同組合として自分たちに何ができるかを考えていかなければならないと真剣に考えています。農政を軽視する考えはありませんが、これまでのようにJAグループが何か国にお願いをするという団体のあり方はそろそろやめる必要があるのではないでしょうか。

食の不安 消費者こそ

秋山 中間とりまとめを読み、自給率が下がるのではないかと思いました。今回の議論のなかで飼料効率の問題が出てきませんでしたが、かつては鶏肉1キロを生産するために餌が2キロ、豚肉は4キロ、牛肉は8キロと教えられました。しかし現在は食肉が高級化し、牛肉では16キロくらいの餌が必要だと言われる。
今後、人口が減るから輸出に力を入れるとしていますが、和牛の輸出を増やすのであれば飼料の輸入が増えることになり、逆に食料自給率が下がるのではないか。
麦や大豆も増産するということですが、茨城県農協中央会に入会して最初の仕事が大豆の生産振興で単収300キロをめざしました。しかし、あれから45年経ち、いまだに180キロ程度です。私たちの地域は湿田が多く、どうしても収量が上がりません。このままでは麦や大豆も伸びない。
一方で肉食化に対応し、畜産を拡大すればますます自給率が下がる。だから、自給率は上がらなくていいと国は放棄しているのではないかと危惧しています。
1980年代の初めに、国内自給か国際分業かという論議がありましたが、結局、国際分業論が勝ってしまった。その流れがこれからも続くのではないか。結果として自給率がさらに下がるという心配です。

岩佐 自給率は農家だけの問題ではないですよね。食料安保の延長線上にある一つの指標としてあるべき数字で、これを生産者の問題として押しつけられている現状がおかしい。
自給率を上げないと不安だと思うのはむしろ消費者のみなさんではありませんか。だから自給率は国民全体の問題であり、私たちはそれに応えてこのような農業生産に取り組みますという議論をしながら、消費者のみなさんにも農業を応援していただくということだと思うのです。従って政府に要求するだけではなく、消費者のみなさんにも幅広く訴えていかなければならない時代になっています。

社会保障的な手立ても

JA鹿児島きもつき 下小野田寛組合長JA鹿児島きもつき 下小野田寛組合長

下小野田 食料自給率は国民に分かりやすい指標としてとても有効です。だから、これは基本法のなかに留めるのではなく、他の国民生活全般に関わる法律や計画に落とし込むべき重要な指標です。農業サイドだけで自給率を位置づけるのではなく、国民生活のなかに食料自給率をいかに位置づけるか、それが課題ですね。
基本法をめぐる論議に少し距離を置いて考えてみると、さまざまな国政課題があるなかで、今大きくクローズアップされているのは国民の負担増の問題だと思います。年金など国民負担が増えていけば生活が大変だということになりますが、このような社会保障問題と同じレベルで食料をどうするのかという問題があるということです。
負担してもいいから、しっかり食料を確保していこうと国民が考える。そういう位置づけで基本法も考えていかなければ、やはり農業者や農村の問題として片づけられてしまう。私たちもそこまで議論を底上げしていくことが必要ではないか。

秋山 時代を立て直すことを考えると、食べ方についても教育が必要ですね。今までどおりの食べ方でいいのか。肉食が良くないとは決して言いませんし、農家も一所懸命に生産している。ただ、あまりにも高級化を追求し、穀物を大量に必要とする和牛の育成であっていいのかと思うんです。草地を利用した放牧型、飼料用米や、WCS用稲を拡張した環境に調和した赤肉の生産なども考えるべきです。
それを消費者のみなさんに理解してもらい、農業サイドからこういう農畜産物を提供したいと提案し、食生活のあり方も合わせて問題提起していく。

大金 田代さんはいかがですか。

輸出以上に国消国産が肝心に

田代 基本法はよく「農政の憲法」と言われていますが、憲法なら違反すれば訴えられるが、基本法はそういう類の法律ではない。
国民に広くメッセージを発信する理念法の改正という意味では、このチャンスに農業者やJAが何を訴えるか。その理念を示す機会として今回の改正論議には大きな意義があると思っています。
農業者のためではなく、消費者のみなさんのための基本法でもあるということですが、その通りです。「農業基本法」は農業者のためでした。しかし、新基本法は国民や消費者のみなさんのための基本法であると政府も割り切っています。国民や消費者に対して農業、農村、JAは一体何ができるのかという観点から課題を提起していく必要がある。
ただ、提起の仕方として、私たちは国民にこのように貢献しているのだから、国民もきちんと農業を支えてほしいというスタンスが重要ですね。
自給率について中間とりまとめは、食料安全保障に関連する多数の指標をつくり、自給率はその一つに落とし込めばいいといった考え方が見てとれる。
自給率の算定式は国内生産量を国内消費量で割るということですが、国内生産量には輸出も入っています。つまり、安倍晋三内閣以来、輸出で食料自給率を向上させようということであり、国民に国内農畜産物をたくさん食べてもらって自給率を向上させようということになっていない。だから、飼料効率が悪くてもうまい肉を作ろうという話になっていく。
その自給率の考え方自体がおかしいと私は思っています。やはり食料自給率を高めるためには、輸出も大事ですが、輸出以上に国民においしく安心して食べていただく地産地消、国消国産が大事だということですね。その意味では日本型食生活など、私たちも食べ方を考えるという提起が重要です。

規模拡大だけで地域守れない

【担い手】

大金 国内生産を支える担い手についてはどう考えますか。

秋山 中間とりまとめでは、家族経営や兼業農家を含めた多様な担い手なのか、大規模な法人経営なのかがどうもはっきりしない。
地元の集落では42haの基盤整備を実施していますが、担い手は50代の家族経営で3人、そこに80%以上の利用権を設定しようということになっています。その3人で集落営農を組織し、基本的には三つの家族経営体で管理してもらうことになると思っています。
それはなぜか。農業が他産業に比べて利潤率が低いために、人を雇って最低賃金を払うと赤字になってしまうからです。そうではなく、家族の労力を結集して700万~800万円の所得が得られるような家族経営がいちばん生き残りやすいということですね。
しかし、今回の見直し論議だとそれはもう古いということのようですが、実際には県内でも利根川流域と私の地元の中山間地域とでは担い手の概念、中心的な経営体のあり方が異なります。従って、担い手像はあまり詰めないほうがいいのではないか。

大金 規模拡大一本槍の、いわゆる新自由主義的な政策展開が続いてきましたが、多様な担い手がいなければ地域は守れないという指摘ですね。

下小野田 規模拡大の一点張りでは難しいのが現場の実情です。規模拡大を進めれば問題が解決するかといえば、それはありえません。現場には、規模拡大に解決策を求めること自体に違和感がある。
やはり家族経営も含めた柔軟で多様な経営体が農業や地域を支えていくということだと思います。農業や農村にはもともと多様性があり、さまざまな人を柔軟に受け入れられる余地がある。農村の多様性を発揮する施策を積極的に取り入れるべきですね。

新自由的な政策は合わず

岩佐 見方を変えると消費者のみなさんも多様化し、いろいろなことを農業や農畜産物に望むようになっています。そう考えると、大規模化はどうしても画一的な農業が避けられないということがあり、昔のように「大きいことはいいことだ」という時代であればそれもよかったでしょう。しかし今は、それだけではとても対応しきれない。消費者のみなさんのさまざまな期待に応える点からも、多様な農業者がいたほうがよい。
私たちの地域でも担い手に田んぼを預けるということがありますが、地域のみなさんも溝さらいには出る。担い手といえども地域の力がないと、農業を維持できない現実があります。
一人では農業ができないということであり、規模の大小にかかわらず、やはりみんなで取り組む協業ということが求められます。したがって新自由主義的な政策は合わない。いろいろな人がいていいということですね。
あえて分類すれば、子どもが小さくてもうける必要がある若い人は大規模化して効率化をめざす。60歳を過ぎ、残りの人生の生きがいにするという人は小規模な農業でいい。

下小野田 まさに、多様な担い手といい関係をつくれるのがJAです。大規模な法人ももちろんですが、いろいろな目的を持って農業をやってみようという人もいるわけで、さまざまな人びとといい関係をつくれるのがJAであり、それを「強み」にしたい。

秋山 現場では担い手が本当に多様化しています。いったんは20ha、30haと担い手に農地が集中していたのが、今はその担い手がやめ、10ha単位で農地の貸し借りが動き出しています。だからJAの子会社の農業法人は200ha引き受けています。農地は3市町村にまたがるという、こういう極端な大規模化の一方、中山間地の50aから1ha規模の水田をどうやって集落営農に束ねるかというように、現実は非常に多様なのです。
政府は大規模化して輸出できるようにと、安倍政権ではたしか60キロ7000円の米価を唱えていた記憶がありますが、そのために100ha以上のメガファームをつくろうということでした。
しかし、現場では米価が農家手取りで最低でも60キロ1万2000円は欲しいということです。その価格で何とか兼業農家や5haから10haくらいの今の担い手農家が食べていける。そこで私の地域では、学校給食を立て直そうと行政を中心に有機米の取り組みを始めました。単収が少し落ちるのと労力が少しかかるので、60キロ2万2000円の予算を組んでもらいました。だから、どういう食べ物を作るかということも大事で、それに対して国や消費者のみなさんがどう価格を設定するかという問題もある。そうならないなら、さまざまな条件の差は所得補償というかたちで埋めていく。そうした政策の組み立てをきちんとしてほしい。

多様な担い手柔軟に考えるべき

田代 担い手について「柔軟」に考えることが大事だとの指摘ですね。さらに大規模農業経営だけに農業をお願いしようというのは、「大きいことはいいことだ」という高度成長時代のキャッチフレーズで、20年も30年も前に終わっている。それでは今、どんな担い手を考えるのか。農村を支えるのは誰かということを考えると、やはり定年帰農者も含めて多様な担い手だということですね。
さらに、「それでは高コスト生産になってしまう」という想定される批判に対しては、協業という言葉も出ました。今回の中間とりまとめでは、協業経営や集落営農の話がほとんど出ていません。しかし、規模の小さな農家でも中高年の農家でも自分一人ではできない。JAが間に入って協業化していきながらコストを下げるという路線が大事ではないかと私も思っています。

下小野田 現場から言えば規模拡大は進まない。人手不足だからです。大型農家がもっと大きくしたいと思っても人手がない。スマート農業にも限界がある。それが私たちの地域での制約になっています。だから外国人の技能実習生に頼っている部分がある。国が考える以上に現場の人手不足は深刻なのです。

秋山 私たちの地域でもオペレーターがいなくなり、残った中堅農家が大型機械を買い、それに見合う面積がほしいという話があります。労働力不足を背景にそうした循環が起きている。しかも作る品目に野菜を導入すると、労働力の確保がいよいよ大変ですが、野菜の収益性のほうが高いために少ない労働力を畑に振り向けることになる。そうなると水田はますます大型機械化の方向に進み、その結果、機械の入らない谷津田や小規模ほ場を受託するのはお断りします、という現象が出ています。

田代 大規模経営ほど採算をとらないと生きていけないために、条件の悪い農地はお断りということになる。大規模経営が増えるほど、実は耕作放棄地が増えてしまう。

【農業復興元年・JA組合長特別座談会】(2)に続く

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