JAの活動:2025国際協同組合年 持続可能な社会を目指して 協同組合が地球を救う「どうする?この国の進路」
【提言】農業をもう一度基幹産業に(1) 武道家・思想家 内田樹氏【2025新年特集】2025年1月16日
思想家、武道家、翻訳家、エッセイスト、神戸女学院大学名誉教授など〝多彩な顔〟を持つ内田樹氏。今の日本農業の状況をどう見ているのか独自の視点で語ってもらった。
武道家・思想家 内田樹氏
農業についてよく講演や寄稿を依頼される。私自身は都会生活者で、農業とはほぼ無縁の生活を送っている人間である。だから、私に農業のことを聞きに来るのは「現場のことはよく知らないけれど、日本の農業のさきゆきに強い不安を抱いている人間」の意見も(参考のために)聴いておきたいということなのだと思う。だから、以下に私が書くことは、ふつうの農業関係者がまず言わないことを、まず用いない言葉づかいで語ることになる。そういう視点からも農業の重要性と危機を語ることもできるのだということを分かって頂きたい。
私は1950年、戦後5年目の東京の多摩川のそばで生まれた。下丸子の駅から多摩川の河川敷まではかつて軍需工場とその下請けが立ち並んでいたところで、B29の爆撃でほとんど廃墟となった。そのあとに人々が住み着いたのである。
私の家の前には「原っぱ」があった。春には菜の花が咲き、秋にはススキが揺れる、遠目にはきれいな場所だった。でも、子どもが足を踏み入れるのはかなり危険だった。焼けて折れ曲がった鉄骨や壊れたコンクリートの土台やガラス片が草の下にひろがっていて、うっかり転んだり、踏み抜いたりすると、ひどい怪我(けが)をするリスクがあったからである。
軍需工場の醜い焼け跡を豊かな緑と草花が覆いつくしているというのが、私にとってのふるさとの「原風景」である。宮崎駿の『天空の城ラピュタ』を観たときに、科学の粋を尽くして設計された天空を飛行する巨大艦船ラピュタが、乗員を失って無人のまま何世紀も飛行しているうちに、草花と木々に覆われた「空飛ぶ庭園」のようなものに変化してゆくという物語に既視感を覚えたことがあった。あるいは宮崎駿にとっても、「兵器を覆う緑」という図像が戦後の原風景だったのかも知れない。
「兵器を覆う緑」というのは、敗戦後、焦土となった日本に育った子どもたちにとって、もっとも身近で、そしてもっとも心休まる風景でもあった。その風景は「もう戦争はない」という現実だけでなく、「緑は人間の犯した愚行や非道をすべてを静けさと平安のうちに回収する」という植物的なものへの信頼と親しみの感情を醸成した。少なくとも私においてはそうであった。
1950年の日本の農業人口は1613万人。日本の人口が8400万人だった時代に総人口の20%が農業従事者だった。2024年の農業人口は88万人。1億2500万人の0.7%に過ぎない。敗戦後の日本では「食物を作る」ことが最優先だったから、この数字は当然だと思う。そして、農業が基幹産業である社会では、あらゆる場面で農業のメタファーが用いられた。私が都会の子どもであったにもかかわらず、農業に親近感を持つのは、農業の用語で育てられたからである。
学校教育はほとんど農業の比喩だけで語られた。子どもたちは「種子」である。教師は「農夫」である。水をやり、肥料をやり、病虫害や風水害から守り、やがて収穫期になると「実り」がもたらされる。ほとんどは自然任せであるから、人間が工程を100%管理することなど思いもよらない。そもそも秋になると何が、どの程度の収量収穫できるのかさえ事前には予測できないのである。どんなものでも実ればそれは「天からの贈り物」である。
私たちはそういう植物的な比喩の中で育てられた。だから、教師がガリ版刷りしていた学級通信の題名は多くが「めばえ」とか「わかば」とか「ふたば」とかいう植物的語彙(ごい)から採られていた。誰もそれが変だとは思わなかった。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日